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第二話 こんな形の出会い

読む人にとっては、少し気持ち悪いかもしれません。

こういうのって、R-15なのかな?


 砂利と土、堅い地面の感触に顔を顰めると、すぐ近くでくぐもった声が上がった。

 続いて、堅いナニカで柔らかな――水気のある者を殴る音。それが何度も何度も、何度も暗い森の中に響いた。

 悲鳴を無理矢理抑え込んだようなその声は、すぐに聞こえなくなる。

 それでも殴る音は途切れずに、十数回も繰り返した後、ようやく止まった。

 また別の場所で、今度は高い悲鳴。


「黙らせろっ!!」


 若い男の声だ。

 聞き覚えの無い、荒々しい苛立ちに満ちた声。その声に怯え、身を竦めるとまた悲鳴が上がった。

 すぐに、その誰かの声は聞こえなくなる。


「ふは――なんだ、たったこれだけかよ」


 別の、また男の声。

 この場には私以外に六人の護衛が居たはずなのに――恐る恐る顔を上げると、私の周囲を三人の男が囲んでいた。

 見下ろされている事に気付き、咄嗟に手を腰へと伸ばす。


「おいおい。探し物はこれか?」


 私を見下ろしている内の一人が、手に持っていた剣を見せつけるように揺らした。


「あっ」


 腰には、そこに在るべき剣は無く、あるのは空の鞘だけ。鉄製の手甲(ガントレット)が鞘に当たり、カチャ、と乾いた音を立てる。

 その音が聞こえなくなるくらい、男たちがキモチノワルイ笑い声をあげている。


「おいおい。荷物を狙って来たら、イイモンがあるじゃねえか」


 また別の男が、腰を曲げて私の顔を覗き込むようにし、顔をだらしなく歪めながら言った。

 ひっ、と漏れそうになった悲鳴を噛み殺す。

 そんな私の反応が面白かったのか、三人は声を上げて笑う。


「黙ってろ! 離れているとはいえ、野営地の近くなんだぞ!? 気付かれたらどうするっ」


 別の……私を囲んでいる三人とは違う、別の場所からの声。

 三人がそちらの方へ視線を向け――。


「楽しむならさっさとしろ。跡を残したくねえからな、隠れ家に連れては行かねえぞ」

「へいへい」


 助けて――その一言を口にするよりも早く、二人の男がそれぞれ私の両腕を掴んだ。


「やめ――んぅ!?」


 二人は両腕を押さえて私を地面へと押し倒し、最後の一人が革手袋を嵌めた手で私の口を押える。

 この状況で何をされるのかなど、容易に想像できる。

 必死に顔を左右に振って口の押さえを外そうとするが、男の手がその程度で外れるはずもない。それどころか、そんな私の抵抗が可笑しいのか、歪んだ笑みを深くして私を見下ろしてくる有様だ。


「へへ。暗くてよく見えないけど、結構美人だな」


 口を押えているのとは別の手が、胸に伸びる。

 男がお腹の上に腰を下ろすと、その重さで息を吐く。


「美人がこんなのを着てたら駄目だろ」


 質素な鉄の胸当て。その上から胸を触られ、感触はほとんど伝わらないというのに、それでも全身に鳥肌が立つのが分かる。

 押さえられた口の中で、ひぃ、と悲鳴が漏れた。

 口で呼吸が出来ないので鼻息を荒くしながら必死に身を捩る。掴まれている両腕だけじゃなく自由になる下半身も暴れさせ、腰を跳ね上げるようにして腹の上に乘る男を跳ね飛ばそうとする。


「ちっ――暴れんなっての」


 男が胸の上に置いていた手を上げた。そのまま腰の裏へ伸ばすと、暗闇の中で松明の明かりに照らさて鈍い光を放つ刃物――刃の短いナイフが握られていた。

 それが、頬に当てられる。


「あんまり暴れんなよ。手元が狂っても知らねえからな?」

「へへ」

「さっさとやれよ」


 腹の上に乘っている男だけじゃなく、両腕を押さえている二人も期待に声を弾ませている。

 何をされるのか。その不安は、すぐに分かった。

 男のナイフが胸当ての金具を留めるベルトを切ったのだ。簡単には切れなかったが、何度も刃を前後させてベルトが切られる。

 胸当てを固定しているベルトは四つ。

 一つ切るごとに男たちの鼻息が荒くなり、私に向けられる視線に熱が籠るのが分かる。


「んんぅ!?」


 必死に身体を暴れさせるのと、二つ目のベルトが切られるのは同時。

 視界が歪む。

 苦痛や暴れさせて頭を地面へぶつけた衝撃ではない。恐怖と――これからされる事への絶望による、涙。

 (まなじり)から零れる涙を手で拭う事も出来ず、そんな私の反応こそ男たちを楽しませるのだと分かっていても恐怖の涙を留める事が出来ない。

 三つ、四つ。

 涙を流す私の表情を楽しみながら、男がベルトを全部切る。


「さあ、って」


 固定していたベルトの抑圧が消え、残骸となった胸当てが乱暴に捨てられる。

 気付けば、両腕を拘束していた男たちによって手甲(ガントレット)も外されていた。

 胸当ての下には厚手とはいえただの布の服しかない。

 服の胸元に、ナイフの切っ先が向いた。


「ん、んぅ!?」

「暴れたら胸に刺さるぞお」


 にやにやと笑いながら、服のボタンが一つずつ、ナイフの切っ先で外されていく。大きめの白いボタンが闇の中に消え、胸にある服で押さえられる感触が緩んでいくのが分かる。

 喉の奥でくぐもった悲鳴を上げ、身を捩るのが精いっぱい。その程度で男の手が止まる筈もなく、ボタンが全部外されるのにそう時間は掛からなかった。

 服の前部分が解放される、その下にあるのは薄手のシャツと、胸を支える下着だけ。

 そのシャツもナイフで切れ込みを入れられると、男が口を解放した。

 代わりに、別の男が私の口を塞ぐ。

 ビイ、と布が裂ける音が響き、夜風が暴れて汗ばんだ私の肌を撫でる。男が両手でシャツを掴み、無理矢理引き裂いたのだ。

引き千切られた布の残骸が、露わになった肌の上に落ちる。服とシャツに隠されていた肌が、下着が男たちの視線にさらされた。

その、興奮に歪んだ視線が向けられている事を嫌でも知覚させられ、大粒の涙が零れる。


「へえ、最近の傭兵ってのは随分と可愛い下着をつけてるんだなあ」


 肌を、下着を見られた。

 その羞恥よりも、この状況への怒りよりも、これからの恐怖に身が竦む。あれだけ暴れていた四肢から力が抜け、鼻の奥に熱を感じる。

 そんな私を見て、男たちは品の無い、下卑た笑みを顔に張り付けた。


「おいおい、泣くなよお嬢ちゃん。こういう事は初めてかい?」


 ゲラゲラと下品な声で笑った男が、腹から腰を浮かせた。

 僅かに開放された事で両腕を暴れさせようとするが、成人した男二人に片腕ずつ拘束されていてはどうにも出来ない。

 立ち上がった男は、今度はその視線を下半身へ向けた。

 嫌な予感に、両足に力を込めて閉じる。


「さあて、次は下だ、下」


 男はナイフを器用にクルリと回して構え直すと、その刃を厚手のズボンを抑えるベルトへと向けた。

 先ほど、胸当てを外した時にコツをつかんだのか、ベルトをナイフであっさりと切断。さすがにズボンを手で裂くのは無理だと悟ったのかすぐに諦め、けれどあっさりと男の手によってズボンが下げられる。

 膝の所まで下げて両足を拘束するようにすると、男は満足げに鼻を鳴らした。

 胸を支えるのと同じ、白の下着が晒される。

 服を着ているとはいえ、隠しているのは両腕と両足の膝から下。胸とお尻、お腹は丸出しという格好に、抵抗する意思が萎えてくる。


「さて、それじゃあ――」


 しばらく下着姿の私を見た後、男がナイフを腰裏にしまった。

 自由になった両手が、私のショーツへと伸びる……


「んぅ、んん!?」


 どうしようもないと分かっていても身体を暴れさせ、口を押さえている男の手に涎を擦り付けながら頭を暴れさせる――と。


「もう嫌なのだわ。もう嫌なのだわ」


 何かが聞こえた。

 それは私だけじゃなかったようで、私を押さえていた三人の男が視線を逸らす。

 向いたのは、暗闇に沈む深い森の中。

 松明の明かりに慣れた目に、しかしそこに誰かが居るのだと……気配を感じる。


「もう高い所は嫌なのだわ。もうタツミから絶対離れないのだわ」

「境界の壁から落ちそうになりましたもんね。アレは怖かったでしょうね」


 声は二つ。幼い少女と、年若い少年の声。

 けれど、暗闇の中に立つ影は身長の高い男のソレ。松明の明かりが届く範囲にまで、その陰が進み出る。


「ところで、そっちは取り込み中か?」


 間の抜けた声だ、と思った。

三人の男に押し倒されて、多分――周りには人間の肢体が転がっている。それのどこをどう見たら取り込み中なんて言葉が出てくるのか。

 けれど、そんな事を考える余裕も無く、私は口を押えている男の手を力一杯嚙んだ。

 革手袋の上からだが、それでも口が解放される。


「いてえ!?」

「たすけてくださいっ!!」


男が悲鳴を上げるのと、私が助けを求めるのは同時。


「この女!?」


 男の一人から頬を殴られる。その衝撃で意識がトびそうになり……同時に、私を殴った男がもんどりうって倒れる。

 見ると、その顔にナニカ……私でも抱えきれる程度の大きさのナニカがくっついていた。


「ご主人!?」


 そのナニカが喋っていたが、そちらに気を向けた一瞬でもう一人の腕を拘束していた男が地面へ倒れ伏す。

 先ほど現れた男が、手に持った木の棒で殴って気絶させていた。


「てめえ!?」


 最後の一人、ナイフで私の服を滅茶苦茶にした男が、慌てて立ち上がる――が、ナイフを抜くよりも早く暗がりから現れた男に腹を蹴り抜かれて吹き飛んだ。

 地面を勢いよく転がって、私達傭兵が金で雇われて護衛していた荷物、それを積んだ馬車の車輪に勢いよく激突。頭を強かに打って動かなくなる。


「あ、やべ」


 そんな男の元へ蹴って気絶させた男が駆けよると、無事かどうか確かめている様だった。

 山賊相手に何をしているのかという言葉を発する事も出来ずに、右手で胸を、左手でズボンを支えながら立ち上がる。


「あと二人居ますっ」

「え?」


 気の抜けた声は、男から。

 そして、馬車に積まれた武器を漁っていた二人の男が、それぞれの手にその武器を持ちながら現れる。

 その武器の先――銃口の先は、私を助けてくれた男の頭に向けられている。


「おいおい……こんな訳の分からん素人にやられたってのか」


 この集団で一番偉いであろう、他の男達よりも身形の良い男が口を開いた。


「タツミ。何か変なのがこっちに向けられているのだわ」

「変って……なんだ、嬢ちゃん。『銃』を知らないのか?」

「じゅう? その棒が?」


 私を助けてくれた男が腕に抱えている少女が呟くように言う。

 銃。

 十数年前に私達の世界に広まった、火薬で鉄の球を飛ばす武器。

 球は小指の先くらいの大きさしかないのに、勢いよく飛んだソレは魔物の皮膚をあっさりと貫く。そのまま内臓を破壊し、死に至らしめる武器。

 今では人の誰もが主武器として使い、剣や槍は銃の陰に隠れてしまっている。

 私達はその銃を魔族と戦う軍に届ける依頼を受けていたが、途中でこの山賊達に襲われたのだ。


「やめなさいっ!」

「黙ってろ、女っ! ったく。目の前の戦利品より女を優先するから、こんな事になるんだ」


 気絶した男の無事を確かめていた男の人が、頭に銃を突き付けられながら、ゆっくりと立ち上がった。

 頭と思われる男とは別の男が、私に銃を向けた。


「銃。銃ねえ……いつの間に、そんなのが広がったんだ?」

「あ?」

「まあ、いいや。リィリア、危ないから離れてろ」

「嫌なのだわ。怖いのだわ――タツミから離れると、落ちちゃう」

「地面に足は付くから」


 そう言って、女の子はもっと強く男の人の首に抱き付く。


「やめろ、シュオン」


 男の人が誰かに向けて言った。

 同時に、私に向いていた銃口が逸れる。私の後ろへ向く。男の人に向いていた銃口も、私の後ろへ向いた。

 瞬間、少女を抱えるのとは逆の手で男の人が銃身を掴み、それに反応してもう一人の男も銃を男の人へ。

 ――発砲。

 まるですぐ近くに雷が落ちたような激しい音ともに、暗闇の中に閃光が弾ける。

 次の瞬間には、頭の男は前のめりに倒れ、発砲した男は男の人に殴り飛ばされて森の中へ転がっていった。

 すさまじい腕力だ。成人している男を、松明の明かりが届かない森の奥まで吹き飛ばしたのだから。


「リィリア、怪我はしてないか?」

「……少し落ち着いてきたのだわ。もう、高い所は懲り懲り……」

「あ、そ」


 男の人が、口から何かを吐き出した。

 そして、私の方へ歩み寄ってくる。


「あー……取り敢えず、はい」


 片手で器用に外套を外すと、それを差し出してきた。

 男の人は、私から不自然に視線を逸らしている。その様子から、私がどういう状態なのかを理解してしまった。


「きゃ!?」

「着替えはある? 外套を貸すから、着替えて来て」


 慌てて差し出された外套を掴むと、胸元を隠す。

 見られた!?

 下着だけど、それでもやっぱり恥ずかしいモノは恥ずかしい。さっきまで絶望に慄いていた気持ちはすっかり霧散して、羞恥に身を縮めてしまう。

 慌ててその場を離れようとすると、ベルトとボタンが壊されてしまったズボンが足に引っ掛かって、転びそうになってしまう。


「み、見ないで下さいっ」

「分かった。分かってる――リィリア、ほっぺたが千切れるからやめなさい」


 私は外套とズボンを両手で押さえながら、馬車の陰へと移動する。

 ……やっぱりというか、馬車の御者も殺されていた。

 生き残ったのは私だけ。女だったから。ただそれだけの理由で、生き残れた。

 それが、悲しかった。


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