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第十話 彼にとっての『戦争』


「ねえ、タツミ。今日は違う髪型が良いのだわ」

「違う髪型? そう言っても、三つ編みも出来ないぞ、俺」

「いいの、適当に結んでくれるだけでも。タツミの好きな髪型にしていいよ」


 朝。

 太陽が昇り、村人たちが畑を耕したり森へ獲物を探しに出たり……すでに起き出し、仕事へ出かけた時間帯。

 ようやく起床した俺達は、宿の部屋でベッドの上に座りながらそんな問答をしていた。

 今日は機嫌が良いらしいリィリアの髪を梳いていると、どういう訳かその一言。女性の髪形などストレートか三つ編みかポニーテイルくらいしか知らない。

 そして、するとなると三つ編みなんてした事が無いので、自然とポニーテイルの一択しかないのだが。

 それはそれで面白くないなあ、と。

 リィリアが持参していた櫛で髪を梳きながら頭を悩ませていると、いまだにベッドの上でうつ伏せになって眠っていたシュオンが身動ぎをした。

 そのままコロンと転がって、仰向けになる。

 シュオンは眠る時、うつ伏せになる。それは、尻尾や翼が邪魔で寝辛いだからとか。息苦しくないのかと以前聞いたが、何でも慣れたらしい。

 普通、ドラゴンって全身を丸めて眠るイメージがあるというか、シュオン以外のドラゴンは身体を丸めて眠る……やっぱり変わっている俺のお目付け役である。

 第三者が見ると死んでいるのではと思いたくなる寝姿だろう。まあ、見た目がぬいぐるみなので倒れているというよりも転がっているという感じなのだけど。


「あれ、もうご主人が起きてる……」

「貴方が寝過ぎなのだわ、シュオン。もう太陽は昇っているのよ?」

「いや、淫魔のリィリアが朝起きているのも変だから」

「そうかしら?」

「淫魔は夜に起きて、昼に寝る種族だからなあ」


 別に全員がそういう訳ではないが、そんな印象がある。そう言うと、リィリアはこっちに背中を向けたままくすくすと笑った。


「タツミは昼間に行動するから、私もそれに合わせないと」

「健気だねえ」

「ふふ」


 なんともくすぐったい気持ちになり、意味も無く身動ぎをするとリィリアの笑いが深くなる。肩を震わせ、後ろに居る俺へ背中を預けるようにして甘えてきた。


「それよりご主人、いつまで髪を梳いているんです?」

「いや。髪型を変えたいって言われてなあ……俺、女の子の髪ってあまり触ったことが無くて」

「悲しいですね」

「ほっとけ」


 傍にあった枕を手に取って、シュオンに投げつける。彼は枕がぶつかった勢いでベッドの上を転がって、またうつ伏せになってしまった。


「髪は女の命なのだわ。相手が何者だとしても簡単には触らせないものよ、シュオン」

「だそうですよ、ご主人。よかったですね」

「そうよ、タツミ。タツミは今、私の命に触れているの――私の命に触れていいのは、タツミだけなのよ?」

「それは光栄だね」

「ふふ」


 こういう時のリィリアは、その声は、なんというか外見不相応に大人びた魅力が感じられる。いや、年齢相応なのか。

 身長は低いし胸もお尻も膨らんでいないけど、中身は五十年以上を生きる淫魔なのだ。むしろ、幼い容姿をしているからこそ背徳的な魅力があると言うべきか。

 そんなリィリアの美しい金髪を櫛で梳き、今度は指で触れる。まるで金糸のように細くて滑らか、手から零れる様はまるで流水のよう。

 汗臭い男とは違う甘い香りは、淫魔だからという訳ではなく、女性特有のもの。

 魔界に居る時は魔王としての威厳を出すために俺が黒系統の服ばかりを着ていたからか、俺に合わせたフリルで飾られた黒いドレスとは対極の白い肌と金糸の髪。

 その眩しさに息を吐き、リィリアの要望通り髪型を変えていく。

 と言っても、女性の髪形の種類を知らない俺なので結局はうなじの後ろで結ぶというあっさりとしたもの。

 ポニーテイルにしようかとも思ったが、フローラさんも同じ髪型だったので別の型にしてみた。いや、同じ髪型だとなんだか怒られそうな気がしたのだ。

 結構好きなんだけど、ポニーテイル。あの、普段は髪で隠れている首元が露わになっている所とか、なんか好き。

 リィリアの金髪を、紐を使って結ぶ。その上からドレスに合わせた黒いリボンで飾り付けて終了。


「よし、できたぞ」

「ありがとう、タツミ。どう、綺麗?」


 肩越しにこちらへ振り返ったリィリアの問いかけに、笑みを浮かべて頷く。


「ああ、可愛いぞ」

「……もう」


 俺の言葉に、笑顔だったその表情を背けてしまった。不服そうな声は、綺麗と聞いて可愛いと答えたからか。

 そんな子供っぽさを可愛いと思いながら、立ち上がる。


「さて、それじゃあ――」


 今日も一日、情報収集でもしようか。

 そう言いだそうとした時だった。宿の外から馬の(いなな)きが聞こえ、続いて数人の声。その声は震えていて、次に聞こえたのは怒鳴り声である。

 なにやら不穏な雰囲気を感じてリィリアに目配せをすると、彼女は転がったままのシュオンを抱きかかえて部屋の中央へ。

 ドアの向こうから気配は感じないし、木造の床を踏みしめる音も聞こえない。

 足音を立てないようにして窓へ近付くと、少しだけ窓を開けて外を見る。

 明るい太陽の光に照らされた長閑な風景――正面には遠くまで続く草原、右手には深い森……森の奥には、あらゆるものを遮りそうな高い『境界』の壁。

 そんな光景――村の中央、広場。

 昨日、フローラさんが馬車を止めていた場所に見慣れない一団の姿があった。

 鎧を着こんだ人間が五人ほど。人界の兵士だ。

 鉄の鎧に腰には剣、手には槍。

 中世の兵士を連想させるその姿はこの異世界に似合っていると言えるだろう。


「なんだ?」

「その馬車は私物ではなく、ギルドの物だと――」

「代金は後で払うっ! 説明しているだろうが、昨晩戦いが始まり、銃弾が不足しているのだ。物資を運ぶための馬車が足りておらんとっ」

「だからといって、村やギルドの馬車を徴収するなど……いや、私はともかく、この村の住民は馬車を奪われたらどうやって作物を売りに出せばいいのだ!?」

「奪うのではないっ。戦争が終わればすぐに返すっ」

「戦争がそう簡単に終わるものかっ。一年後か、十年後か!?」


 兵士と言い争っている女性の姿に、見覚えがあった。陽光の下で燃え盛る炎のように猛る、その感情を表したような赤い髪の女性。

 フローラさんだ。

 彼女は今にも腰の片刃剣(サーベル)を抜き出しかねない勢いで口を開きながら、対応している兵士を睨みつけている。

 女性にしては高い身長なので、兵士の方も勢いに呑まれて少し腰が引けてしまっている。

 ただ、そこまで勢いがあるのは彼女だけだ。

 そんなフローラさんと兵士達を囲むように立つ十数人の村人たちは、事の成り行きを諦めた顔で眺めているように見える。

 多分、ここで何を言っても馬車を奪われるのは変わらないし、下手をすれば国への反逆罪とかで難癖をつけられるかもしれないと思っているのかもしれない。

 昨日聞いた話だと、人界の王――アーシェル王というのは地方に重税を敷いているという話だし。まあ、それはこの村の意見なので何処まで信じていいのかは難しい所だが。

 情報というのは、一面だけでなく多面から集めて検証するものなのだ。


「あら、フローラ。朝から元気ね」

「元気というか、今にも食って掛かりそうな雰囲気ですよご主人」


 どうやら俺達が魔族だと気付かれたわけではないらしい。

 その事に息を吐き、事の成り行きを見守る事にする。普段は女性大好きなシュオンも、彼女を助けようと言い出す事はない。

 結局、一時の出会い。何度か話したが、それほど親しいわけではないのだし。

 そう割り切って宿屋の窓から言い争って居るフローラさんと五人の兵士達を観察する。


「これ以上何か言うなら、捕えて前線基地まで連れていくぞっ」

「やってみればいいっ。むしろやれっ、貴方たちの隊長へ直接文句を言ってやるっ」

「この……っ」

「大体、銃も弾薬も、剣も槍も鎧だって十分な数を運んだはずよっ。どうして弾薬が不足するのっ」

「それは――」


 そこは俺も気になった所だった。耳を澄ませて目を細めると、言い淀んでいる兵士の目が泳いでいる所までバッチリ見えてしまう。

 ああ、あれは喋らないなあ、と。何となく、直感でそう思った。


「それにしても。リィリアには優しいお姉さんって感じだったのに、実際は結構気が強いんですね、彼女」

「女の人はいくつも顔を持っているんだぞ、シュオン」

「ああ、リィリアとか」

「怒るわよ、シュオン?」

「…………」


 黙ってしまったシュオンに視線を向ける事無く外を注視していると、おそらく村に来た兵士達の中で一番偉いであろう兜が他の兵士よりも豪奢な男がコホンと咳払いをした。


「兎に角、馬車は徴収していく。文句があるなら、改めて前線基地の方まで言いに来い」

「だからっ」

「これ以上の問答はしない。先ほども言ったが、昨晩魔族との戦端が開かれた。いつまた大きな戦いが起きるかも分からん状況だ――これ以上基地を離れる訳にもいかんのだ」

「……貴方達が始めた戦争でしょうに」

「そうだ。こちらから始めた戦争だ……だからこそ、負けるわけにはいかんのだ」


 フローラさんは、それ以上は何も言わなかった。

 言っても平行線をたどると理解しているからだろう。怒鳴ってスッキリしたのかもしれない。


「なんとも身勝手ですね」

「戦争の切っ掛けなんてそんなもんだろ――戦争を経験した事はないけどな」

「うわあ、軽い言葉」


 シュオンの軽口に肩を竦めて窓を大きく開けると、新鮮な風が室内へ入り込んできた。結んであげたリィリアの髪が揺れる。


「朝から元気ですね」


 そして、村の広場で立ち尽くしているフローラさんへ声を掛けた。

 彼女は村人たちに囲まれて、お礼を言われていた。


「ちょっと、見ていたなら加勢してくれても――」


 俺としては、馬車の一台や二台……まあ、運ばれていくのは四台だが、どうでもいいことだ。

 結局は、人界側の問題だし。俺、元とはいえ魔王だし。

 まあ、魔王と言っても百年くらい農業ばっかりやっていたけど。


「なに。昨日の夜、戦いが起きたの?」

「そうらしいわよ――死人は出ていないみたいだけど」


 ふうん、と。フローラさんへ聞こえるように相槌をうつ。


「少し話す? 相談なら乗るよ」

「相談だけ?」

「朝食ついでに、飲み物も」


 俺の言葉に、フローラさんが破顔した。さっきは気の強い女性だと思ったし、リィリアへの態度から気の良いお姉さんと言う印象だったけど、その表情はなんだか無邪気な女の子のよう。

 ……そう考えていると、一緒に窓の外を見ていたリィリアが、フローラさんから見えない位置で俺の脇腹を抓った。


「いたい」

「私が居るのにデレデレするタツミが悪いのだわ」

「ご主人って、本っ当に女の人に優しいですよね」

「……相談に乗るフリをして昨晩の事を聞くだけなのに」


 酷い言われようである。



 一階の食堂へ降りると、フローラさんはすでに席へ座っていた。

 今日のおすすめを三人分注文して、俺達も同じ席に座る。


「さっきは恥ずかしい所を見せてしまったかしら?」

「いえいえ。お嬢さんの新しい一面を見る事が出来て、朝から役得でしたよ」

「……シュオン君は相変わらずね」

「それほどでも」


 褒められて無いぞ。呆れられているぞ。

 リィリアに抱かれたままのシュオンへ冷たい視線を向けると、溜息。


「それで、なにがあったんだ? 昨晩戦いが起きたとか何とか言っていたみたいだけど」

「その通り。昨日の昼から『境界』の前に魔族が陣を敷いて睨み合いになっていたそうだけど、機先を制して夜襲をかけたみたい」

「それで返り討ちに遭った?」

「そこまでは分からないけど……あの反応だと、思っていたほど戦果が上がらなかったんじゃないかしら」


 そこまで話すと、フローラさんが頼んでいたのだろう新鮮な果実を絞ったジュースを運ばれてきた。

 芳しい香りが対面に座る俺の方にまで届く。

 少しの間その香りを楽しんでから、フローラさんはそのジュースを一気に半分ほど飲んでしまった。


「声を出したから、喉が渇いて」

「大きな声だったものね。格好良かったのだわ、フローラお姉ちゃん」

「ありがとう、リィリアちゃん」


 さっきと呼び名が違うのは、まあ気にしないでおく。どっちが本心なのかは、考えるまでもないだろう。

 なにせ、フローラさんは多分二十歳前後。こっちの幼女は、中身五十歳だ。


「それで。馬車を取られちゃったけど、どうするの?」

「どうするも……どうしようもないかな。歩いて王都へ戻って、ギルドへ報告して……それか、前線基地でまた弾薬を運ぶ仕事を受けるか」


 その仕事には、あまり乗り気ではないらしい。

 ジュースを飲んでいた時よりも、その表情に影があるのが見て取れる。


「そういえば。フローラさんはあまり銃に良い印象が無いみたいだな」

「うん? あー、うん。好き嫌いで言えば、大っ嫌い」

「煩いですもんね、あの棒っきれ」

「リィリアの言葉が伝染(うつ)ってるぞ、シュオン」


 苦笑すると、今度は俺達が頼んだ朝食が運ばれてくる。どうやら今日のお勧めは、新鮮な野菜を使ったサンドイッチらしい。


「なんか、今日は……ええっと、身体に良さそうな献立なのだわ」

「というか、野菜だけですよご主人。肉は? お肉は?」


 なんか、二人、というか一人と一匹が泣きそうな顔で俺を見てきた。

 俺に言われても困るんだが。フローラさんを見ると、肩を竦められてしまった。


「さっき言った、昨晩の戦い。あれで周辺の獣が逃げてしまったらしい」

「じゃあ、戦争が続く限り野菜ばっかり!?」


 昨日食べた肉があまりに美味しかったからか、シュオンが悲鳴のような声を出した。それでいいのか、ドラゴン。


「それどころか、兵糧が無くなればその獣すら軍が狩り尽くすかもな」

「酷いのだわ。あんまりなのだわ。ご飯は皆の物なのに」

「本当ですよ。許せませんね、ご主人」


 そう言いながら、サンドイッチを美味しそうに頬張るリィリアとシュオン。お前ら、口に入れば何でもいいんじゃないの? と思わなくもない。


「それに、馬車と一緒に食料も徴収していったしね」

「兵糧に困っているみたいな雰囲気じゃなかったが?」

「ついででしょ。今は困ってなくても、いつ困るか分からないから」


 はあ、とフローラさんが深い溜息を吐く。

 それはこの村を心配しているというよりも、心の底から呆れた溜息だった。


「そんなに銃が大事かしら。魔族相手に試さなくても、盗賊や魔物相手でいいじゃない――それだって、剣と弓、今まで通りで」

「……どうしてそんなに銃が嫌いなんだ?」


 サンドイッチには手を付けず、一緒に運ばれてきた水で喉を潤しながら聞くと、フローラさんが顔を上げた。


「私の父はね、元々は王宮務めのそれなりの立場にある貴族だったの」

「きぞく?」

「偉い立場の人だ」

「タツミくらい?」

「そんなところかな」


 サンドイッチを頬張っているリィリアの髪を撫でながら、先を促す。


「けど、十年以上も前にアーシェル王が銃を作る事に注力し始めて――それに反対したら、地位を剝奪されたの」

「わあ。いきなりですね」

「まあ、剥奪されるまでに一年くらい時間は掛かったみたいだけど、詳しくは知らないの。私は政治に疎かったから……」


 自嘲するように笑って、壁に立て掛けられていた片刃剣(サーベル)へ視線を向ける。頭を使うより、身体を動かす方が得意な性格なのだろう。

 そこは、言葉にしなくても何となく理解できた。


「それで銃が嫌いなのか」

「それだけじゃないけど、そんなところ」


 どうやらフローラさんの背景も、色々と複雑なようだ。

 そう考えていると、暗い顔を一変させて、彼女は俺を正面から見据えてきた。


「それに何より、戦争が駄目だと思うの」

「そ、そう?」

「魔族の事は知らないし、アーシェル王が私達へ言うように昔話通りの恐ろしい種族で滅ぼさないといけないのかもしれないけど――沢山の人が死ぬ。今は大丈夫でも、結果的に勝てるかもしれないけど、その過程で死人が出てしまうと思うの」

「魔族って、そんなに物騒じゃないですよ?」

「……そうなの?」

「この村と一緒で、田舎で畑を耕している種族ですし」

「…………え?」


 俺やリィリアに話しを振らないのは、自分がドラゴン――魔物の一種としての発言だからか。

 そんなシュオンの言葉に、フローラさんは驚いた顔をして俺を見た。ちょっとおもしろい。


「そうらしいよ?」

「でも。百年以上も前は人界側の土地の相当数を奪ったし、魔族の王――魔王は魔物を操っているんでしょう?」

「無理無理。アレ、災害ですから。魔王もどうやって絶滅させようか百年以上も悩んでいるバケモノですから」


 うむ。あれ、本当に生命力が強い二足歩行のゴキブリのような生命体だからな。

 中には四足だったり六足だったり八足だったり……足がない様な軟体生物も居るけど。一匹いたら三十匹が、比喩じゃなくて本当にそれだけ存在しているようなバケモノなのだ。


「村人と同じって……そんな事は」

「ほんとですって。まあ、人界と交流が無かったから信じられないでしょうけど」

「それが本当なら、アーシェン王が言っていた危険な種族というのは……」

「さあ? 知らないだけなのか、それとも何か考えがあるのか」


 そこまで言って、シュオンが朝食に戻る。サンドイッチを美味しそうに頬張り――。


「お前、ソレ。俺のじゃないか!?」

「あ、置いてあったんで」

「置いてたんじゃなくて、皿に乗っていたんじゃないか!?」


 デフォルメされた角を掴むが、それより早くシュオンがサンドイッチを一気に口へ放り込んだ。そのまま幸せそうな顔をして咀嚼してしまう。


「ちょっと、タツミ、シュオン。食事中にうるさい。ご飯は静かに食べる、なのだわ」

「……お前ってやつは」

「はっはっは。僕なりに場を明るくしようとしたんですよ。本当ですよ?」

「昼と晩飯、抜きな」

「ひどい!? フローラさん、助けてください。ご主人が苛めるんです!?」


 そんなシュオンの叫び……というか、マイペースな俺達を見て、フローラさんは驚いたような呆れたような、気の抜けた顔をしていた。


「なんというか、その……初めて会った時から思っていたが」

「ん?」

「タツミさん、貴方は何者なんだ?」


 ドラゴンを連れ、幼女を連れ、魔界の事を知っている

 そりゃあ、怪しまれるだろう。怪しいだろう。

 その質問には答えず、フローラさんの目を見返す。


「フローラさん、君はどうしたいんだ?」

「どうしたい?」

「銃が嫌い、戦争が嫌い――だったら、どうしたい?」


 その言葉に、彼女は視線を逸らした。

 きっと、内心ではやるべき事――やりたいことが決まっているのかもしれない。


「タツミさん……タツミさん、貴方はどうしたいんだ?」


 けれど、返ってきたのはそんな言葉。

 その言葉に、笑みを返す。


「俺はただ――戦争を止めたいだけさ、フローラさん」


 からからと笑いながら、そう言った。

 それしか言える事が無い。

 けど、それが本心だ。

 死んでほしくないのだ――魔族にも、人にも。

 元人間の、元魔王だから。


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