輪廻の。
初めてだ。
「お願いです!協力してくださいっ!」
目の前には頭を下げるおかっぱの少女。
場所は喫茶店。
机の上には少女が頼んだカフェラテと俺が頼んだオレンジジュース。
強烈な既視感。
既視感は今まで生きてきたなかで幾千とあった。そんな事では今更動じない。
「この狂った世界から抜け出す為に協力してくださいっ!」
似たようなセリフを聞いたのは四回目。
その頼みが叶ったのはたったの一回だけ。
しかし、今までにこんなに寒気がしたのも一回だけ。
但し。
「いいよ」
もし、この賭けに、勝てるなら――
▲▽▲▽
瞼を開く。
何時もと同じ風景。
古びた本の塔。軋む床。染みがある壁紙。心地のよい匂い。
自分の部屋だ。
はて、何回目だったか。
口の中から小さなビニール袋に入れた紙を取り出す。
書かれてある文字は68845。
つまり今回は68846ということだ。
今回のテーマは何にしようか。
平凡。
これにしよう。
あぁ、そういえば二回前も平凡だったか。
前回は殺戮か。
全く。疲れて一回ごとに休むくらいならしなければいいのに。
▲▽▲▽
普段、自分は平々凡々なサラリーマンだ。
但し、かれこれ68845回もこの一年を繰り返している。
一年目は混乱し。
十年目は諦めて。
百年目で理解し。
千年目で狂った。
万年目で吹っ切れて。
今は原点回帰し平凡が幸せだと気付いた。
50000回辺りからその一年のテーマを決めるようになった。
今回は《平凡》
何時も通りに行動して0回目と同じ道を辿る。
そのつもりだったというのに。
「あの.....」
「はい?」
声をかけられて振り向くと同時に目を見開く。
おかっぱの中学生くらいの小柄な女の子。
ただの地味などこにでもいるであろう平凡な女の子。
しかし、それは他人からしてはという意味で。
自分にとってはそうじゃない。
「貴方も、ですか?」
自分にとってこの女の子は、忘れようにも忘れられない出来事を作った張本人。
「.....」
「目が死んでいるから直ぐにわかりました」
全く同じ、一回目と、初めての時と全く同じ仕草、セリフ。
この世にはもういないはずなのに。
彼女はもう『抜けた』はずだ。
唯一無二の成功例。
決して届かない目標。
なのに――
「何故だ」
「へ?」
「何故、君が此処に居る」
「え?...えぇ?......」
困惑している様子の女の子。
すると周りが喧騒に包まれ始める。
冷水を被せられた気分だった。
▲▽▲▽
一回目と同じだった。
彼女は世界を壊してこの世界から抜け出した。
そしてまた、繰り返している。
68893回目だ。
この数十回の間にある仮説を立ててみた。
『自らは賭けに負け続けている可能性』
彼女と会ったのが二回目だとすると、もしかすると自分はコイントスで負け続けているのではないか。
と、思ってしまった。
一年が終わると同時に自分はコイントスをする。
『繰り返すか否か』
テーマはこんなところか。
賭けに勝てば次の年に進み、負ければ繰り返す。
進んだ自分はそれに気付かず、また負けたほうも気付かない。
もし、そうだとしたら。
自分は永遠に回り続けると言うのか?
けれど、自分は絶対に進むこともできる。
どちらも同じ自分なのだから。
もしも。
もしも、そんなことがあるのなら。
俺は――