俺の考えたさいきょうのハーレムパーティ!
勇者になって2年が経った。勇者のパーティメンバーも相応の実力者が集まって、みんなで協力しつつ各地の魔物を討伐して、俺自身の実力もかなりついたと思っている。
情報の収集も兼ねて冒険者ギルドに登録して、現在ではSランクにまで上り詰めた。でも、俺はその中でも下っ端な方で、他にもSランクの冒険者は10人いて各地に散らばっているのだという。他のSランクの人の武勇伝を聞くと、溢れる魔物の軍勢をたった二人で始末したとか、古龍と友人関係にあるとか、マジでどんだけ強いんだよって思う。
今日も俺たちは魔物の討伐をしてきた帰りだった。王国を中心として、各地の魔物を倒しながら魔王の情報を集めているところだ。
「勇者様、今日はこちらの宿で休みませんか?」
「そうよぉ、私も歩きっぱなしで疲れちゃった。柔らかいベッドが恋しいわ」
聖女のアリアが今日はもう休みたいと宿屋を指さして言ってきた。彼女は後衛で俺たちパーティに支援魔法をかけてくれるヒーラーで、俺にベタ惚れで箱入り娘だっただけあって少しだけわがままな性格だけど、俺はそこがかわいいと思っている。
それに賛同するのはパーティ最年長のエルフの魔導師のブレンダで、彼女はみんなのお姉さんのような性格だ。年齢のことを言うと殺気が取り巻くけれど、そこはパーティメンバー全員で触れないようにしている。発動こそ少し時間はかかるものの魔法の威力は俺より優れているうえに、弓も使える優秀な後衛だ。
「魔物の討伐は野営が基本なのだから、わがままをいうもんじゃない。だが、まぁベッドが恋しいというのはわかるかな」
竜族の戦士のクロエは、勇者である俺に戦いを挑んできた強者だった。自称サバサバ系女子とは違って、スパッと竹を割ったような性格で付き合いやすい。褐色の肌を露出させたビキニアーマーを装備しているが、剣士としてもかなりの腕前で盾を持ってタンクの役もこなす、前衛のスペシャリストだ。
「今日は私が勇者様と一緒に寝る番にゃ!」
「嘘おっしゃい! 今日は私のはずですわ!」
「まあまあ、二人とも喧嘩は良くないよ? ここは男女別れて泊るべきだろう。さすがに旅費の節約は必要だからそれぞれ個室は無理だとしても、なあサラ?」
「……そうですね」
獣人のシーは、聖女のアリアから財布をすろうとしたところを捕まえた。本職は優秀なシーフで索敵や罠の解除が得意で。ダンジョン探索では俄然張り切るタイプだ。
最後に俺たちパーティのサポートをしてくれている、商人見習いだったサラがいる。二年前に奴隷商人に売られたところを助けたことがきっかけで俺たちの仲間になってくれたんだ。幼いながらもとてもしっかりしていて料理の腕も、金銭管理もできるなんというかチートな子だ。パーティに加わって2年が経つけど、おとなしそうに見えて言うべきところはきちんと言える、大変クールな性格になってきている。ただ、体力がないのが玉に傷で、そこはパーティ全員のフォローでやっていけているんじゃないかな?
それからサラに関しては将来的には奴隷から解放してあげようと思っている。
え、なんですぐに解放してやらないかって? こんな美少女すぐに誘拐されちゃうに決まっているだろうが! サラの安全の為だもん仕方ないよね?
風呂が付いている少し高めの宿を取って、部屋についている風呂を満喫しているところで、聖女のアリアが乱入してきた。
まぁ、良くあることだから、済し崩しにおいしくいただきましたけどね!
翌朝、寝不足気味のサラと、アリアの抜け駆けに不満げなブレンダに恨めしそうな顔をされたけど、あとでご機嫌取りをしとかないとまずいよな……。女ばかりのパーティだとこういうところが大変だ!
「さて、いい天気だな! 今日は買い出しだ。頼んだぞ、サラ!」
「かしこまりましたご主人様」
気まずい空気をどうにかするために、とりあえず天気の話を振ってみるがブレンダのジト目は収まらない。サラに関しては、買い物を任せると商人の血が騒ぐのか嬉しそうにいきいきとした顔になることが多いので、買い物に連れて行くに限る。
買い物のついでに、ブレンダ達にも何か好きなものを買ってあげた方がいいかもしれない。
体力のないサラは、俺たちのペースで歩くとすぐに疲れてしまうのでクロエが抱き上げている。エルフをはじめとする長命種の種族は子供ができにくいので、特に子供を大事にする習慣がある。ブレンダもクロエもその例に漏れないようで、彼女たちとサラは大変仲良しだ。
食料品やら生活必需品を買って、俺の魔法鞄に放り込む。これは魔道具の適性があったサラが作ったアイテムだ。俺たちが狩りに行っている最中にやることがなかったために、魔道具の勉強をして作った代物らしい。縫製は拙い出来だが、この鞄があればかなりの量を詰め込むことができるので重宝している。
「勇者様! これ買ってほしいにゃ!」
「あー、どれどれ? いいんじゃないか、シーに似合いそうだし。なぁ、サラ?」
パーティメンバーのご機嫌取りの為に宝飾品をはじめとした装備品が並ぶ街の一角にやってきたところで、宝石好きのシーが目を輝かせながら俺に声をかけてきた。
俺も一応目利きのスキルは持っているから、これが良さ気な物なのは解る。
それに金貨5枚なんて今の俺には大した金額じゃないし、このくらいの金額なら買ってあげてもいいんじゃないかな?
「駄目です。その装備は単なるアクセサリーです。よって買うのは無駄だと判断します」
「そんニャあ……。こんなにかわいいにょに……」
「かわいそうだぞ、サラ。俺が見てもいいものなんだから買ってあげてもいいだろう!」
「シーさんに買ったら聖女様をはじめとしてみなさんに買わなくてはいけなくなるじゃないですか。以前のように素寒貧になってもいいのであるならどうぞ? 私は奴隷ですので、私のようなものの意見を聞かず、ご主人様のお好きになさればよいのです」
宝石には特殊効果が付いていることがたまにあるので、サラに鑑定してもらったが、鑑定結果は、大変良い品物だけど特別な効果はないとのことで、サラからは必要ないとのなんとも厳しい返答をもらった。
しょんぼりと肩を落とすシーがかわいそうになったので、サラにどうにかならないかと言ってしまったが、サラは顔をこわばらせながら俺に意見してきた。
「サラは奴隷なんかじゃないぞ! 俺たちの仲間なんだ、みんなのことを思っていってくれるのであれば、俺に否はない!」
「うう……。もう野宿はいやにゃ、おなかペコペコいやにゃ、ごめんにゃさい勇者様、シー我慢するにゃ」
うなだれるサラに対して、なんかものすごい罪悪感が込み上げてきた。
そうだよな、サラ自身も俺たちの資金を管理する身だから俺にそんなことを言われても主人の反対には逆らえないんだよな……。俺たちのことを考えてくれたのに、御免なサラ。
シーもお金がなかったころを思い出したのか、べそをかきながらもブレスレットを諦めてくれた。
アリアとブレンダが服を売っている店の前にやってきたところで、装備品を売っている区画に行ってくると言ってクロエは別れた。シーはまだ宝石に未練があるのか、自分の財布と相談をすると言ってさっきの店の前で別れている。
アリアとブレンダについては、俺にどの服が良いかとしきりに聞いてきているが、どれも見ていると同じに見える。んー、色が違うだけだと思うんだけど、そのあたりはどうなんだろう……。
即断即決するクロエやサラと違って、アリアたちの買い物はある意味恐怖だ。なかなか終わらない上に、俺が彼女たちの求める言葉を言わない限り、終わりが見えない。どうすりゃいいんだよって状況になるんだ。
「ほかの方たちと別行動でよろしいんですか?」
「問題ないよ。サラと二人になりたかったしね」
最終的に二人だけの世界になったところで、サラと二人で服屋を逃げ出してきた。いいのかなと不安げに俺を見てくるサラがかわいい!
にこっと微笑んでやると、うつむいてしまった。なんか、ほほえましいんだよなぁこの子。日本人の好みに合うというか、大和撫子のような男を立てる雰囲気っていうの?
「そうだ、サラも買い物したいよね?」
「え?」
「何か買ってあげようと思ったんだけど、君の場合は自分で選んだ方がうれしいと思って」
こういう慎ましい雰囲気の彼女だからこそ、少しばかり贔屓したくなるんだよなぁ。
サラが喜ぶのは買い物をしているときだって知っているから、彼女には時々俺のポケットマネーからお小遣いを渡している。アリアにばれると奴隷にお金は渡すものじゃないって反対されるんだけど、やっぱり好きな子の喜ぶ顔はみたいじゃないか!
「いつも迷惑をかけているからね、ちょっとだけ色を付けておいたよ」
「こんなに……。私ごときに、よろしいんですか?」
「だからそんなに自分を卑下するんじゃないよ? 大丈夫、これは僕のポケットマネーだから。パーティのお金には手を付けてないから安心していいよ」
「でも、奴隷な私がこんな大金持っていたら、どこで盗んだって言われそうで……」
「あ、それならいつもみたいに僕が渡したって一筆書いてあげる! それなら、疑われないでしょう?」
何度か渡したお金を返却されたこともあったけど、それは奴隷が大金を持っていたらで出所を疑われるという懸念からだった。そんな懸念があったなんて驚いたから、それからは俺が渡したお小遣いですよと一文も一緒に渡すようにしている。
あらかじめ用意しておいた羊皮紙も金貨の入った袋に添えるように出した。
「何から何まで……。ありがたく使わせていただきます、ご主人様♪」
「あ、ああ。っじゃあ、サラ一緒に買い物にいこう「あ、今欲しいものあるんです。売り切れていると困るので、行ってきますねー」か」
お金の入った袋を手にしたサラは本当にうれしそうに笑ってくれた。
サラと一緒に出掛けたいと言おうとした瞬間、サラは物凄い勢いでお礼を言って去って行った。そんなに欲しいものがあったのかな。まぁ、アリアたちの手前で声を出しにくかったのもあるんだろうな。
俺はそう思ってサラの背中を少しさみしくなりながら見送ったのだった。これが最後の別れだとは知らずに……。