3ヶ月
よろしくお願いします。
クリスマスの日の翌日ヒロはさっそくタクの教室を訪ねた。
「失礼しまーす…」
ヒロは恐る恐る室内に声をかけると、聞いたことのある声が返答をした。
「はいはい!あ!」
「あ!こんにちは!昨日は失礼しました!」
女性を見ると昨日居酒屋で、タクとヒロとの
言い合いに挟まれたユウだった。
「いえいえー、ていうか、昨日のはタクが全面的に悪いんだから、ヒロさんが謝ることないよ。タクに会いに来たんだよね?」
「あ、はい。」
ユウはそういうと、教室に向かって大声でタクを呼んだ。
「タクー!」
「ほーい。」
その声に間の抜けた声が応えたと思うと奥の方からノソノソと眠そうな様子でタクが来た。
「あ、篠原さん!昨日はどうもー」
「こちらこそ。」
一晩経ったせいか、ヒロは緊張していた。昨晩はお酒の力もあったからこそあんなにも早く打ち解けられたのだろう。素面で会うのが照れくさいのもあった。それは相手も同じのようでタクは昨日の饒舌さが嘘のように言葉に詰まっていた。
「あ…あのさ、お昼ってもう食べた?もし、食べてないなら一緒にどう?」
「はい。いいですね。」
「食堂でいい?」
「もちろん。」
「じゃあ…行こうか…」
「はい。」
二人は食堂まで無言で歩いた。
どうしよう?何喋ればいいの?…なんで昨日あんなに喋れてたんだろう?
ヒロは沈黙を破ろうと必死で頭を働かせた。
「今日はお天気がいいですね!」
そうしてでてきたのは気まずいときの定番天気の話だった。
…話題性皆無!!何やってんだ私!!しかも今日は曇りじゃん!!
最早軽いパニックである。
そんな雰囲気が伝わったのかタクは吹き出した。
「アハハ…昨日から思ってたけど、篠原さんって人つきあい苦手だよね?」
「う…そんなことは…」
「そうなの?」
全くのその通りだったのでヒロは言い返せなかった。しかし、認めるのも悔しくてふてくされていると、タクはまた笑い出した。
「アハハ…何その顔?子供か!」
「なっ!子供じゃないし!」
「いやいや、俺、素で膨れっ面してんの4歳の姪がやってるの見て以来だよ?」
「他の女の子もやってるでしょ!?」
「あれは、わざとじゃん?自分が可愛く見えるようにって奴?言わば技的な?」
「私もそうだし!」
「いやいや、それ言っちゃってる時点で素だって言ってるようなもんだからね?仮に技だとしても、言っちゃてる時点で台無しにしてるよ?意味なくなっちゃってるよ?」
「本当に技だし!!」
ムキになって言い返せば言い返すほどタクのツボに入るらしくタクは息もたえだえまだ笑いが収まらない声で言った。
「そ…そうだね…技だよね?…俺が間違ってたよ。」
そのバカにしたような言い方にヒロは腹が立ち容赦なくタクの背中を叩いた。
「いってぇ!!」
「あら、ごめんあそばせ?虫がイタモンデ。」
「ぼ、暴力はんたーい!!」
「虫を追っ払ってあげたんだもん。暴力じゃなくて優しさ?」
「いやいやいや、仮に虫がいたとしても追っ払う強さじゃなかったよね!?完全に潰しにかかってるよね!?」
「…やさしさです。」
「間があったよ!?」
「そのテンション疲れないんですか?」
「誰のせい!?」
「今日はオムライスの気分だなぁ。」
「まさかのスルー!?」
ヒロはタクのポンポンとテンポよく返ってくる返答が楽しくて、心地よかった。いつしか緊張も解け、お互いに自然と笑いながら2人は食堂へと向かった。
「あ、ホントにオムライスにしたんだ。」
「まぁね。ここのオムライス好きなんだ。」
「ふーん。意外と可愛いの食べるんだねぇ。」
「どういうこと?お子様みたいって言いたいわけ?」
「違う違う。篠原さんならビシッとカツ丼!!とか食べそうだったからさ!」
「・・・・・」
「意外と女の子ぽい食べ物で女の子なんだなぁと思ってさ!」
タクはしみじみと言った。
「そっかぁ。」
ヒロはそんなタクに満面の笑みを返しながらタクの定食の一番のメインのエビフライを取った。
「あああああああッ・・・!俺のエビフライッ!!」
タクは悲痛な声で叫んだ。
「五月蝿い!」
「殺生なぁ!なぜこのような仕打ちを!?」
「慰謝料よ!ボケ!!アホ!!」
「慰謝料ってどゆこと!?むしろ俺が欲しいわ!!
」
叫ぶタクを無視してヒロはエビフライを食べ続けた。その間タクは絶望に近い顔をしていた。
「あぁ、おいしかった!!」
「酷い・・・・」
晴れ晴れとした顔で言い切ったヒロにぐすんぐすんと嘘泣きをしながら言った。そんな2人の会話に笑いながらある男が入ってきた。
「あははは…お前らの会話まるでコントだな!」
ヒロはびっくりして振り向くと飲み会のときにタクと一緒にヒロに絡んできた男が立っていた。
「篠原さんが鬼畜なんだ。俺の一番のメインのエビフライを食べたんだ!」
ぐすんぐすんとまだ嘘泣きを続けるタクが言った。
「よしよし、可哀相にな。変わりに俺のパセリをあげよう。」
「それメインどころか副菜ですらない!!ただの彩り!!」
「大人しく食べなさいよ。その彩りを。」
不服を叫ぶタクをバッサリ切るヒロ。
「あははは…やべぇ!篠原さんナイス!こんな面白いの見れるんだからユウも来れば良かったのに。」
男は耐えられないというように腹を抱えて笑った。
「そいや何でユウいないの?」
エビフライのショックから立ち直ったのかタクはパセリを食べながらきいた。
「何か実験が手を離せない段階とか言ってた。」
「あぁ、なるほどねぇ。だから珍しく1人なんだ?」
「まぁね。」
ヒロが2人の会話を不思議そうに聞いていると、それに気付いたタクが言った。
「こいつとユウつき合ってるんだよ。」
「あ、そうなんだ。」
「てか、こいつの名前憶えてる?」
「・・・まぁ。」
はっきりとしない返答にタクは笑った。
「あはははっ!絶対憶えてないね!それ!!」
「まじで!?ショックだわぁ!!」
「あ・・・あの・・・その・・」
男のリアクションにオロオロとするヒロを見て、タクは笑いながら男の名前を言った。
「こいつ名取大和。」
「皆からヤマって呼ばれてるからそう呼んでくれ!よろしくー!」
「あ、よろしくお願いします。私も皆からヒロって呼ばれてるんでそれで!」
「了解。ヒロさんね!」
「あ、俺はタクって呼ばれ・・」
「聞いてない。」
ヤマとほんわかとした自己紹介をしてると、すかさずタクも入ろうとし、それをぶった切るヒロ。
「ひでぇ!!ぐれてやる!!」
「警察呼びます。」
「ぐれるのやめますー!!」
「賢明な判断ね。」
「よっ!ヒロさん鬼畜!」
タクがふざけて、ヒロがツッコミ、それを見て大笑いするヤマ。昼食は賑やかだった。久々に食が進むヒロは嬉しくて、楽しくてたまらなかった。
タクに毒を吐きつつも感謝しきれなかった。
ありがとうございました。