死神を
登校時とは憂鬱である。
「ふぁ〜…」
「ヤッホー けいちゃん!」
やってきたのは、同じく際葉高校2年、緒方 ゆみ。
まぁ…可愛いっちゃ……うん。
「どうした?遅刻だぞ?」
彼女の右手から繰り出される刺突をさらっとかわす。
「とっても美少女な彼女を目の前にして、なにそれ。自分もでしょ?」
確かにそうだが、自分で美少女とか言うやつに言われたくはなかった。
付き合い始めて間もないが、不思議と話していると力が貰える。みたいな…
なにかとトゲのある口調ではあるが、楽しかった。
おっと、参考までに、僕はMではない。Mではない。
「なにを、僕は家に潜んでいたゴキブリを徹夜で駆除してたんだぞ?」
「ふ〜ん、戦果はあったの?」
「フフフ…驚け!ゴキブリホイホイに掛かった3匹を含め、5匹だ!」
言ってから気づいたが、自慢する内容を間違えた気がする。
「なんか、見直したと同時に引いちゃった…って言うかゴキブリホイホイって逆効果なんだってさ。知ってる?」
「んん?」
「アレって屋根の上からもゴキブリを呼び寄せるから、けいちゃんみたいなマンション宅では、マンションにいるほぼ全てのゴキブリと殺り合う事になるんだってさ。」
どうやら家に帰らなくてはならない用事が出来たようだ。
「誰情報だ?それ」
「賀城君〜」
そうだった、あいつはゲスい。そしてすごい情報屋だ。そういうやつだ。
まさか、そんな豆知識まで…
「納得…」
「さ、ちょい急ぐか…ね、微少女ゆみちゃん」
「おぉ、やっとわかってくれましたかぁ〜」
「美じゃないぞ、微妙の『微』だ」
「サイテー!!!」
はは、言ってやった。
と、そうこうしている内に学校に着いた。
「むぅ、じゃあね」
彼女は手を振った。不機嫌そうだったが、いつもと変わらず彼女は学校生活を送るだろう。僕にはさっきの「じゃあね」が特別に聞こえた理由が分からなかった。
その時だ。
反射も追いつかないスピードで、顔の前に大きな鎌を突き出された。驚いたなんてもんじゃない。体は浮いていて、恐竜の骨かと思うほどの大きな鎌を持ち、黒くて不気味な民族衣装(?)みたいな服を着て、僕でも分かるほどの殺意を放っていた。
「俗に言うところの、あの世から参りました。貴方が犯人ですか?」
見下す目付きをこちらに向ける。意味が分からない。
彼女はさらに付け加えた。
「私、死神やってます。あ、死神ってのはこっちで言う警察ですかね。」
困惑せざるおえない。あの世?死神?
「貴方を殺すつもりはありませんよ?そしたら私が捕まっちゃいますからね。ハハッ。」
鎌をこっちに見せつけるようにしながら微笑む。
「死神なのか?お前…いや、そんな…」
「お気持ちは分かります。しかし、『貴方の描いた棒人間』が人類を死滅させようとしているのですよ?封印も長くは持ちませんし。」
鎌を背中に戻す。だが、その細い目はこちらを向いたままだ。
「実行犯かばうなんて私は反対でしたがね。たとえ、それが偶然でも。」
『貴方の描いた棒人間』? そう言った。確かに。
彼女はニッコリ笑った。