いざ
「ほら、お前らご飯だぞ」
外套を被った光騎は扉を開きながら手に持っている2つの紙袋を2人に掲げて見せる。
「やった」
「はーい」
2人は起きた後に光騎が用意した服に着替えて、朝御飯を買いに行った光騎を待っていた。
「よく噛んで食うんだぞ」
外套を被ったままの光騎はそう言って紙袋を1つずつ渡していく。受け取った2人はテーブルの前にある椅子に座る。中から漂ってくる香りに鼻をひくつかせて期待を胸に袋を開ける。
「なんだ、これ?」
「なに、これ?」
2人が袋から取り出したのは、ふっくらとしたパンを真横から2つに切って、間に瑞々しい葉っぱのような野菜と、屋台で売っていそうな串焼きの肉が挟まっていて、垂れた肉汁をパンが気前よく受け止めていた。
「これはな、ハンバーガーっていう食べ物だ、色んな所から買ってきて1つに合わせただけだけどな」
「「ぐぅぅぅ」」
「ははは、美味しいから食べろ、おかわりも欲しければあるからな」
袋から出したことで強まった匂いに2人は腹の虫を鳴らす。期待と恥ずかしさをそれぞれの顔に浮かべて、口一杯にハンバーガーを頬張る。
「美味い」
「美味しい~」
頬を綻ばせて感想を言い、ガツガツと食べる。
「食い物は逃げないからゆっくり食べろ」
光騎はお約束を分かっているのでテーブルの上にオレンジジュースが入った瓶を金属箱から用意しておく。
「んぐっ!」
「おにいちゃん・・・」
案の定レンは喉を詰まらせてしまう。慌てて瓶を掴んでオレンジジュースを喉に滑り込ませる。
「はぁ、はぁ、助かった」
コハルはそんなおにいちゃんを見て、呆れながらも背中を撫でる。
「だから、ゆっくりよく噛んで食べろって言ったろ」
「美味しいのが悪い」
「おにいちゃんが悪い」
「そうだ、食べ物に罪はない、正し美味しいものに限るがな」
「うるせ!」
レンは文句を言いつつまた美味しそうにハンバーガーを食べる。
レン達と会って2日が過ぎていた。光騎はレン達と言葉を交わしてそれなりに仲良くなってきていた。
それで分かったことだが、レン達は今回の事件で被害に遭ったわけではないらしい。いわゆる、捨て子だった。
事件前日、レン達は親と一緒にこの街に旅行に来ていた。レン達は始め、お金がないのに不思議だなー、と思っていたらしいが、久し振りの親子での旅行が楽しくて仕方がなかった。遊び疲れて宿屋に着くなりベッドで眠ってしまったらしい。そして、起きた時にはあの廃墟にいたとのことだ。
「ふぅ~、食った食った」
「ご馳走さまでした」
レンは3つ、コハルは、6つ、食べていた。
育ち盛りなことはいいことだろう。
「にいちゃんは寝るときもその椅子に座ってるけど、座り心地良いのか?」
レンの知る限り光騎は何時も椅子を揺らして座っている。それこそ寝るときにも椅子に座っていて、毛布をかけて寝ている。レンはその事が気になっていた。
「あぁ、かなりいいぞ、座ってみるか?」
「いいのかよ!」
光騎は椅子から立ち上がってレンに場所を譲る。レンは楽しそうに椅子に座る。
「・・・なんかこう、座ると落ち着く」
「そりゃ、俺の親友が手作りしてくれたもんだからな、当たり前だ」
光騎は自慢気に椅子の背もたれに手をかけて、ゆっくり揺らし始める。
「おにいちゃん、コハルも~!」
「え~」
「ほら、どいてやれ」
「ちぇ~、分かったよ」
「やった! よいしょっと・・・はぁ~、暖かい感じがする」
「にいちゃん、俺もこれ欲しい」
「やらないぞ」
「なら、頼んで作って貰ってよ」
「コハルも~」
「それは出来ない相談だな」
「なんでさ!」
「それはな、俺の親友であってお前の親友じゃないからだ、作って欲しかったら頑張って親友を作るんだな」
「くそー、にいちゃんのより良いもん作ってもらってやる!」
「コハルも頑張る!」
「あぁ、人生大いに楽しめ」
光騎は揺り椅子をゆっくり揺らしている。その目は何処か寂しそうで、コハルが元気よく座る揺り椅子に向けられていたことに二人は気づかなかった。
「うっ、う~ん」
楽しくはしゃぐ2人とは対照的な呻き声がベッドの方から聞こえた。
「おっ、金食い虫が起きたみたいだな」
光騎が歩き出すよりも先にコハルとレンが、アテネの寝ているベッドに駆け寄り、遅れて光騎も歩み寄る。
「ここは?」
「おねえちゃん、おねえちゃん、ここは宿屋だよ」
「ねえちゃん、やっと起きた」
「宿屋・・・確か、私、急に体が重くなって、貴方達が、ってわけではなさそうね」
アテネは意識がハッキリとしてきてレン達を見たあと、その後ろにいる光騎に訝しい視線を送る。
「いや~、目覚めましたか、よかったですね」
そのさっきまでとは違うしゃべり方にレン達は振り返り首を傾げる。
「貴方、誰」
そんな光騎にアテネは冷たく、トーンの下がった声で答える。
「ねぇちゃん何言ってるんだよ」
「おねえちゃん、まだ寝てた方がいいのかも」
「二人とも、私はこんな怪しい人なんて知らないわよ」
「怪しいとは失礼なこと言いますね、貴方と私の仲じゃありませんか」
「もう一度言うけど、貴方みたいな怪しい人なんて知らないわ」
「そうですか、ならこれでどうだ、屋根から飛び上がろうとしてそのまま落ちたアホが」
「ん、どうしてそれを・・・」
アテネは友達にシャーペンを貸して、返ってきたそれを使った時に感じるほんとに些細な違和感を感じた。
「こういうことだ」
光騎は外套のフードを後ろに下ろし、まぁ~イケメンの方に入るのではないかという顔が露になる。
「なっ! どうして貴方が!」
「ははは、いつやっても面白いな、ははは」
「くっ、どうしーーグゥゥゥ」
「ははは、腹の虫も元気だな、説明は後でしてやるからこれでも食べろ」
光騎はアテネに紙袋を投げ渡す。
「お礼は言わないわよ」
「俺は要らないが、この2人にはお礼を言っとけよ、コハルはお前が寝ている時に体を拭いてくれていた、レンはお前のことを心配してあれこれ俺に相談しに来たんだからな」
「にいちゃん! 恥ずかしいからそんなこと言うなよ!」
「コハルはやりたいからやっただけで」
「何言ってるんだ、努力は認められてこそ意味がある、ちゃんとお礼を言ってもらえ」
光騎はそれだけ言うと、フードを被り直して定位置の揺り椅子に腰を下ろす。
「そうだったの、二人とも、ありがとうね」
「い、いいよそんなの、それよりお腹すいてるんだろ、早く食べろよ」
「コハルもやりたかっただけだから、早く食べて」
「ほんとに2人ともありがとね」
「よく噛んで食べた方がいいよ」
「おにいちゃん・・・」
「ふふ、そうするわ」
アテネに忠告してきたレンをコハルが呆れた目で見ていることを微笑ましく思いながら紙袋を開ける。
「何これ?」
「それはね、ハンバーガーっていうんだ」
「ハンバーガー?」
「そう、えーと」
「おにいちゃん、おねえちゃんそれはね、野菜とお肉をパンに挟んで食べるものだよ」
コハルはおかわりしたハンバーガーの中身が何れも違っていたが、野菜とお肉が入っていたことを覚えている。そこから推理して自信満々に胸を張るが、あっているか不安でチラリと光騎を見る。
光騎はコハルの視線に軽く頷く。
コハルは更に胸を張る。
「ハンバーガーっていうのね、頂きます・・・美味しい」
「だろ」
「でしょ」
レンとコハルは自分のことのように喜ぶ。アテネはそれを肴にハンバーガーを食べ進める。
「おかわりが欲しければ言えよ」
「頂くわ」
食いぎみに答えるアテネ。
「ベッドで食べるのは行儀が悪いからこっち来て食え」
「それも、そうね」
アテネはベッドから降りて、手を貸そうとするコハルと一緒に、椅子を引いて待っているレンの許までしっかりとした足取りで行く。引いて貰った椅子に座ると、レン達も椅子にそれぞれ座る。
「元気そうだな、おかわりだ、飲み物もいるだろ」
光騎は瓶と紙袋をそれぞれ2つずつテーブルの上に出す。
「嫌味?」
アテネは光騎に鋭い視線を向ける。
光騎はベッドからここまで歩いてくるアテネを観察して、問題なさそうなので言っただけだが、アテネには嫌味に聞こえたらしい。
「うん? そう聞こえたか?」
「えぇ」
「ならそうだな」
「ねぇ、おねえちゃん食べないと冷めちゃうよ」
不穏な空気を感じたコハルは素早くフォローに入る。
「そうね、頂きます」
それからアテネは9つのハンバーガーを食べた。
「おねえちゃん遊ぼ!」
食べ終わって暫くした時にコハルは元気よく声をあげる。
「何しようか」
「う~ん、かけっこ!」
「それなら俺も!」
光騎の揺り椅子に座っていたレンが飛び降りる。
「夜までには帰ってこいよ」
「分かってるよ!」
「おねえちゃんの言うこと聞くー!」
「貴方は来ないの」
「俺はゆっくりしてるよ、あぁそうだレン」
「何、にいちゃん」
「いや、コハルの方がいいか」
「なんだよそれ!」
「いや、コハルの方がしっかりしてそうだからな」
「うっ」
「コハル、3時くらいに大将の所に行けば、お菓子作ってもらえるぞ」
「は~い!」
「お菓子だ、やったね!」
「大将?」
「お前はコハルに付いていけばわかる、これ金な」
革袋をアテネに放り投げる。
「夕飯もそこで食ってこい、行ってら」
「行ってきまーす」
「まーす」
「走らないの」
楽しい喧騒を残して3人は扉の向こうに消えていった。
「静かになったな」
光騎は遠い昔以来訪れることのなかった、誰も話し相手が居なくなってしまうことを寂しく思った。
「ご馳走さま」
「ご馳走さまでした」
「美味しかったわ」
辺りはオレンジ色に染まり、大将の屋台もそれを受けて長年の貫禄を醸し出す。
「お粗末さまです」
「これ、お金です」
アテネは革袋を渡す。
「・・・確かに、今日は3人だけですか?」
「彼奴は部屋で寝ているわよ、きっと」
「そうですか、あっ、これ渡してください」
大将は表面が白く綺麗に加工された大きめの箱をアテネに手渡す。
「結構大きいわね」
「お礼だと言えば分かります」
「お礼?」
「えぇ、これの」
大将は自分の足下を指差す。
「それは・・・」
アテネはカウンターから乗り出して大将の足下を見る。そこには2本無くてはいけない足の片方が、頑丈そうな鉄の棒になっていた。
「ヒュートピア兵から受けた、心と体の傷のせいで生きる意味を忘れていた私だったのですが、光騎さんのおかげでこうして楽しく、皆さんを笑顔に出来るんですよ・・・まっ、本人に言ったら、それは自分の力だ俺のせいにするな、と怒られますがね」
「「ふぁ~」」
「おっと、子供達も疲れているようですね、これお願いします」
「預かったわ」
「またね~」
「バイバーイ」
「また、機会があれば」
レン達は元気よく挨拶をして、アテネは無言で会釈する。3人は黒が深まる森の中に消えていく。
「ただいまぁ」
「ふぁぁ」
宿屋に戻ってきた3人の内2人は眠そうに扉を潜ってきた。
「お帰り、歯は磨いてから寝ろよ」
「「は~い」」
二人はゆったりと歯ぶらしセットを用意する。
「これ、大将さんから」
「おっ、ありがたい」
「お礼ですって」
「彼奴はまだ俺のせいにしてるのか、まったく自分の力だろうに」
「う~ん」
歯ぶらしセットを手に持って船を漕いでいる2人から呻き声が聞こえた。
「おいお前ら、そこで寝るなよ」
「んあ」
「ねてないよ~」
「2人を下の洗面所まで連れてってくれ」
「分かったわ、ほら2人とも行くわよ」
アテネは2人を連れて部屋から出ていく。
「よし、食べるか」
光騎は受け取った箱をテーブルに置き蓋を開ける。
開けた瞬間に広がる焼けたチョコレートの香ばしく甘い香り、円形で層を作っている表面にはほどよい焦げ目がついている。
甘いもの好きの光騎が好きなガトーショコラ。
「頂きま~す!」
フォークを取りだしガトーショコラに突き立てて、ホールごと持ち上げて一口食べる。
「うまい!」
チョコレートの苦さと飽きを来させない絶妙な甘さが口に広がる。
食が進み全てを平らげてしまった。
「ご馳走さまでした・・・」
両手を合わせて大将に感謝を贈る。
「「すー、すー」」
一息入れようとしたが扉を開けてアテネが入ってくる。
コハルはアテネの背中に体を預けて寝息をたてているが、レンの方は襟首を掴まれ引きずられて来た。
「寝ちまったか」
「えぇ」
アテネはレンを布団に乗せるとコハルも丁寧にベッドに寝かしつける。そして、アテネは光騎から一番遠い椅子に座る。
「酒は飲むか?」
「オレンジジュースを頂戴」
「はいよ・・・で、この外套の話だったか」
「いいえ、その前に聞きたいことがあるわ」
「うん?」
「ヒュートピアのことを聞きたいの」
「理由は」
「私は最近この名前を3回も聞いているわ、そして、その内2回はあまり聞こえが良くなかったから」
「・・・俺の勝手な見解も入るが、いいか」
「構わないわ」
「そうか・・・なら、ヒュートピアが人間至上主義なのは知ってるか」
「知ってるわ」
「理由は?」
「知らないわ」
「動物の耳と尻尾があるアマル族、彼らは身体能力が人間よりも大幅に優れている、だが人間はそれを補えるだけの力がある」
「力・・・」
「人間だけが使える力、ある者は水を操り、またある者は言葉を操る、人間はその力でアマル族と対等、いやそれ以上に戦えることだって出来る、その結果、人間は人間だけの国を作った」
「それがヒュートピア・・・」
「それだけならまだよかったんだがな」
「どういうこと」
「アマル族はどんな容姿だ」
「・・・」
「そうだ、人間と変わらない、だから人間はアマル族が人間の劣等種だと騒ぎ、嫌い、人間に管理される亜人族だと言って奴隷のように扱うんだよ、人間はアマル族と手を取ろうとする者達にも罪だと言って危害を加えていった」
「貴方も被害者なの」
「いいや、俺は人間に対する加害者だな」
「それは」
「そのままの意味だ」
「アマル族は動物の姿になれないの?」
「大人になって力をつけた極一部はなれる、なればそれだけ強くなるが、たま~に変身するよりも人型の方が強い奴がいるんだよなー」
光騎は最後だけふざけたような態度を取る。
「ふぁ~、眠たくなってきたな、寝ていいか?」
「何言ってるの、まだ話は終わってないでしょ」
「ちぃ、外套の話だっけか」
「そうよ」
「こいつは結界と同じ原理だ・・・」
「違いは物理的干渉か精神的干渉」
「おぉ」
「それは貴方を誤認させる物で、一度目の前で素顔を見せれば効果は無くなる」
「よくわかったな」
「当然でしょう」
光騎はさも驚いたような顔をする。この外套は光騎が指定した人間か、光騎と確固たる自信を持って接しなければ効果は無くならない。光騎の中では後者をする要注意人物が何人かいる。
「あっ、言うの忘れてたが明日、朝飯食ったら街を出るぞ」
「急ね、子供たちには伝えてあるの?」
「いや、明日の朝に伝えるつもりだ」
「なら、明後日でもいいんじゃないかしら」
「こいつらにこの生活をあまりさせたくないのと、お前は情に脆そうだからな」
「貴方達の国はここよりもいいの?」
「あっちに行けばここよりも楽しいだろうな」
「それが本当ならいいわね」
「よし、話は終わりだな、酒飲んで寝よ」
アテネは出されたオレンジジュースを飲み、光騎はワイングラスとワインを注いで飲む。
飲み終わった順に下に降りていき、戻ってきて床につく。
日が登り男達は街の復興の為に働きだし、女達は旦那を見送ってから家事に勤しみ、旦那が居ないものは寂しく朝御飯を食べ始める。
光騎達とクロエルは大将の屋台に朝御飯を食べに来ていた。
「大将、これ美味しかったですよ」
光騎は白い箱を大将に返す。
「あと、自分の力で勝ち取ったものを人のせいにするのは良くないですよ」
「き、気を付けます」
「ご飯」
「「ごは~ん」」
「おっと、この話は後にすべきでしたね、大将ご飯をお願いします」
「はい、何にします」
「何時もの、じゅっーー」
「はいはい、何時ものを5匹ですね」
「少ない」
「希少の意味を考えて下さい」
「むっ!」
「まぁまぁ、これを差し上げますから」
光騎は懐から小瓶を取り出す。
「それは!」
「はい、これは高級マタタビです、これを差し上げますので」
「我慢する」
「とのことです、大将」
「ありがとうございます、助かりました」
「オムライス!」
「コハルはハンバーグ!」
「私はスパゲッティを頂くわ」
「私はパンをお願いします」
「承りました、出来上がるまで少々お待ちください」
大将は注文を聞いて作業に取りかかる。
「クロエルさん、お話を聞いてもいいかしら」
「何?」
「ヒュートピアについて教えて下さい」
「どんなこと?」
「クロエルさんも被害者なのですか?」
「違う、加害者」
「それはつまりーー」
「ここで話す、ことではない」
「そうですよ、食事時なんですからもっと楽しい話しでもしましょう」
「それがいい」
「そう言えば、まだ隣街まで行く打ち合わせをしてませんでしたね」
「してない」
「ここからなら3時間ですかね」
「それくらい」
「私たちは一度、宿に戻って支度をしてから出発でいいですかね」
「構わない」
「集合場所は街の外でお願いします」
「分かった」
暫くレンやコハルとも話をした。
「お待たせしました」
「「おぉ~」」
「それでは、頂きます」
「「「頂きま~す」」」
楽しい会話もスパイスにして美味しく朝御飯を食べた。
「食べ終わったことですし、私たちは一旦宿屋に戻ります」
「急がなくて、いい」
「それでは」
光騎達は宿屋に戻って荷物をまとめていた。
「そうだ、忘れてた、ほれ」
「何?」
光騎はアテネに金属箱を渡す。
「荷物を手で持つのは面倒くさいだろ、それと荷物に手に持って入れって念じてみろ」
アテネは右手に金属箱を左手に荷物を持って言われた通りにしてみると、手から荷物が消える。
「出したいときは念じれば出てくるからな」
「便利ね」
「それは同意のない者、他人の所有物は入れられないからな、そうしないと相手の服だけを勝手に脱がせるからな」
「貴方は女の敵ね」
「誤解は解いておこう、俺はやられた方だからな」
「そうしておくわ」
「・・・まぁいい、あとこれは俺が手渡した者しか持ってない、だからクロ、あぁクロエルな、に何で持ってるか聞かれたら面倒くさいから、荷物は俺に渡せ」
「その面倒事は楽しそうね」
「マジで切れるぞ」
「冗談よ」
「お前らは手ぶらでクロの所まで行って、俺の作ったゴーレムが居るからそれに乗って先に行ってくれ」
「貴方は隣街に私達が着いた後、これから荷物を取り出してなに食わぬ顔で来るのね」
「おぉ、分かってるな、行ってら」
「それじゃ、行きましょうか」
「「はーい」」
アテネの掛け声で2人は扉に向かう。
「にいちゃん、先行ってるな」
「気をつけてね~」
レン達を連れてアテネはクロエルの許に向かう。
街外れまで来たアテネ達はクロエルと合流した。
「これ、乗る?」
クロエルは目の前の砂で出来た大きな狼ゴーレムらを指差す。
「そうよ」
「分かった・・・足りない」
「彼奴はノロマだから先に行ってくれですって」
「いいの?」
「遅れる方が悪いんだから、自業自得よ」
「そう、行く」
地面に伏せている2体の狼ゴーレムに、アテネとコハル、レンが分かれて乗る。
「クロエルさんは」
「走る」
「分かったわ、それじゃ行きましょう」
クロエルが先行して走り出すと、狼ゴーレムらもゆっくりと加速していく。
クロエルも後ろを気にしながら加速していく。
「速い速い速い!」
「速~い!」
「クロエルさん凄いわ」
目で追えていた景色は次第に色の線でしか判断できなくなっていた。
コハルは楽しそうにアテネの前ではしゃいでいるが、レンの方は悲鳴じみた声で叫んでいる。
「クロエルさん、大丈夫ですか!」
前を平然と走る姿にアテネが声をかけるとクロエルは横に並走してきた。
「問題ない」
「何処かで休憩は要りますか?」
「遅い、余裕」
「これで遅いですか」
「速くする、遅れない」
クロエルは加速していき、狼ゴーレムも当たり前のように後に続く。
「・・・・・・」
「速くなった~」
ここで1人脱落者が出てしまった。
狼ゴーレムは背中から落ちそうなレンを空中に放り出し、頭から腰くらいまでを飲み込んで着地、平然とアテネ達に続く。
それから推定時間よりも早く隣街の前まで来ることが出来た。
「待つ」
「そうですね、本当は待ちたくもないんですけど」
辺りは短い草や花が生えているだけの平原で、森はだいぶ前に見えなくなった。
「ふんふん、出来た~!」
役目を終えた狼ゴーレムは砂に還って小山を作り、今は目を回しているレンの背もたれになっている。コハルはそんなおにいちゃんに花冠を被せて遊んでいる。
「来た」
「そうみたいね」
不自然なほど土煙をあげて疾走してくる狼ゴーレムが見える。アテネからすれば、背中にもおまけ付きで。
光騎は狼ゴーレムをアテネ達からかなり離れた所に停める。乗り手を無くした狼ゴーレムは砂に還る。
「私達のことは考えてるわね、それともカッコづけ?」
舞い上がった土煙をバックにして、光騎だけがアテネ達の前まで来る。
「いやー、遅れてすいません」
「問題ない、行く」
「そうですね、行きましょうか」
「はーい」
クロエルにコハルとアテネが続き、光騎は荷物が増えたと嫌そうにレンを担ぐ。
街に入ったクロエル達は活気ある道を通り、大きく円形状に舗装された場所に来ていた。
「ゲートを使うの?」
「そう」
円形状の中央には凱旋門のような門があり、代わりに空色の光が扉の役割を果たしている。
「なら、プレートを買う必要が」
「いらない」
「どういうこと?」
ゲートとは世界中にあって番号がついており、プレートの番号がゲートと対応している。
ようは行きたいゲート番号のプレートを持ってゲートを潜ると、行きたかったゲートから出てくる仕組みだ。ただし、1回通るとプレートは無くなるし、値段が高い。なので、買いだめなんてことは普通はしない。
「ないから」
クロエルはプレート売り場を指差す。
「あぁ、それなら聞いたことがありますね、なんでもフィンブルの国、名前は・・・」
「名のない国!」
「そうでした、ノーネームに行くには専用のプレートが必要だとか」
「そう」
クロエルは何処からか取り出した、手に乗るサイズの赤いプレートを全員に渡していく。
「行く」
「少し待ってください」
光騎は肩に乗っているレンを叩き起こす。
「ふぇ、ご飯?」
「何を言っているんですか、コハルさん、これとお兄さんをお願いします」
「おにいちゃん、これ持って歩く」
「それでは行きましょう」
そうして、アテネ達はゲートを潜る。
読んでいただき、ありがとうございます。