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夢は大きすぎるとダメかも?  作者: カレンさ~ん
3/23

始まりの前

感想、改善点などお願いします

(ここは何処だ?)


 黒の短髪、黒い目、まぁ~イケメンの方に入るのではないかという顔立ちをしている青年は、目を覚まして上体を起こす。

 辺りを見渡して目に留まるのは、今自分が寝ていたベッドだけ、その他は全て真っ白で何もない。

 真っ白で距離感が掴めないために、どれだけ先に壁があるのかもわからない。こんな処に長居をしていたら頭がおかしくなってしまうかもしれない。


  「・・・あっ、思い出した」


 青年の声は白い空間に飲み込まれているかのように帰ってこない。

 このまま話していると、悲しい人に成りかねないので、口に出すのはやめることにした。


(最後の最期に敗けたのか、あのクソサンタ野郎!)


 最期の闘いを脳内で再生しながら悪態をついているが、もしも次があるならば、自分が勝者であるために冷静に分析をする。

 結果は五分と五分。

 どちらも常に奥の手を隠して戦っていた。最期のあれは奥の手ではなく、新しく考えた攻撃手段であって、これは青年もやっていることだ。

 奥の手とは、誰にも想像が出来なく、相手を確実に殺せるものことだ。

 だが、世の中には自分と同格か、それ以上の存在は巨万といるのだ。そんな相手に奥の手が知れたら、途端にアイディアを奪われ、相手の糧となって自分に跳ね返ってくる。

 そして、それはただの手段に成り下がる。

 だから奥の手は使わず、攻略されずらい手段を無数に考えた方が勝率が上がると思っている。勿論奥の手は多いに越したことはないが、手段として使っているものの応用では予測されてしまう。そしたらそれも手段として使った方がよい。

 手段とはまるで別物でなくては奥の手として意味がないのだ。

 それらを考えて、自分の手段と相手の手段の勝敗が五分なのだ。もしかしたら奥の手の相性次第では勝てるかも知れないが、やはりその後が問題点だ。

 この事から青年が相手をした人物は同格か、それ以上であることがわかる。


(最期に使った技のアイディアは使わせて貰おう)


 相手から奪ったアイディアを自分の手段に組み込めないものかとしばし考えて、幾つか候補が上がって、何時か試してみようと思い、ふと思い至った。


(ここにどれだけ閉じ込められていたんだ?・・・そんなに長いことはないと思うが・・・)


 ベッドから立ち上がってもう一度辺りを見渡すがやはり何もない。だがふと、視線を下げると妙なものを見てしまった。

 今さっきまで寝ていたベッドの枕に、何かが通り抜けたような穴が空いていて、枕から大豆が漏れていた。

 非常に嫌な予感に苛まれながら、腰を落としてベッドの下を確認すると・・・。


「さてと、どうやってここから出ようかな・・・」


 青年は現実を無視した。

 ベッドの下に短い鉄の槍があったなんてことは知らないし、俺が目覚めたのはついさっきだと、自分に言い聞かせる。

 自分は悪くない、やられたくてやられたんじゃないと現実から目を逸らしている。

 それでも後に、悲劇が彼を襲うことには変わりなかった。


「それにしても何処まで続いてるんだ、この空間は・・・見渡す限り真っ白で頭が痛くなってきた・・・」


 右手の人差し指と親指でこめかみを押さえる。


「何だ?」


 突然横殴りの揺れが襲ってくるが、体は無反応にして、体の中心を固定する。地面と一緒に動く下半身を、上半身で揺れのエネルギーを相殺する。


「おいおい、ここは閉鎖空間じゃないのか?・・・何で揺れるんだよ!」


 文句を垂れている間に揺れば静まってくる。


「さてはあの野郎、欠陥住宅作りやがったな!・・・それならそれで簡単にここから出れるからいいか、ともいかないんだよな」


 封印するんならするで完璧にやって貰わないと、言い訳も出来ないし、何より自分が解く楽しみが少なくなると青年は考えていると、真っ白な空間に真っ黒な線が伸びる。

 線は別れ、繋がりながら縦長の扉を描きあげる。


「あの野郎、覚えてろ」


 浮かび上がった扉には、文字も浮かび上がらせていた。


 ー賭けは僕の勝ちだー

 ーざぁまーみろ、脳筋がー


 後半はやたらでかく、書きなぐったような字になっている。

 口角をヒクつかれながら見ていると、扉は真ん中からゆっくりと奥に進んでいく。

 そして、文字が変わった。


 ー幸あらんことをー


 祝福の言葉を贈られて、扉は開ききる。

 青年は口角を上げて、青い光の扉を通り抜ける。

 抜けた先には、気合いに満ちた獰猛な表情を浮かべる少女がこちらを見つめていた。

 早々に面倒事に巻き込まれた事を悟りながら、知りたいことを少女に問いかける。


「ここは何処だ?」


 青年は少女の解を待ちながら、状況を確認する。





 アテネは少々、いや、かなり困惑していた。


(ここは何処?・・・この人は何言っているの?・・・それとも試されている・・・)

「どういう意味かしら?」


 アテネは青年の真意を確めるために問い返す。


「・・・何か、俺が難しいこと聞いたか?」

(何か深読みしてるな、この子・・・面倒くさいなぁ)


 青年はただ単に、知りたかったから聞いただけのことなのだが、アテネはそれを深読みをしてしまったらしいと気づいた。


「ここはグリンクス大陸のマサクという街よ」


 相手は魔王かも知れないのだ、アテネが警戒して深読みをするのは当たり前のことなのだ。


「そうか、ありがとう、じゃあな・・・」


 青年はお礼を言った後、直ぐに別れの挨拶をして、スタスタとアテネの少し距離をおいて通り抜けようとする。


「質問に答えたんだから、今度はそっちが答える番よ・・・貴方は魔王なの・・・」


 真横に来たところでアテネは扉の方を見たまま話しかける。

 青年がこちらに顔を向けてくるのがわかる。

 アテネは片方の爪先を外に向けて、もう一方の足を力強く踏み出して、平行に肩の下まで広げ、腰に両手をあてて胸を張り、髪を大きくなびかせながら正面の青年に堂々とした態度を見せつける。

 ここで舐められては面白くない。

 アテネは余裕を見せることで、自分が主導権を握る下準備する。


「おい、そのイヤリングどうした・・・」


 隠す気のない敵意を含ませた低い声を向けられて、アテネは心中がざわめくのを感じた。


「質問しているのはこっちよ」


 内心を気付かれないように、毅然とした態度をとったと、アテネは思っているが、口調が強くなっている。


「・・・・・・そうだと言ったらどうするんだ?」


 さっきの敵意は何処へやら、友達に話しかけるような気軽さで話しかけてくる。


「殺されても文句は言えないわね・・・」


 アテネも負けずにフレンドリーに話しかける。


「ははは、その通りだな。でも、お前には殺せないと思うぞ・・・」

「それは自分を、ということかしら?」

「それもあるが・・・お前、胸もなければ色気もないだろ」

「・・・それは、関係あるのかしら?」


 今度はアテネが言葉に殺意を込めて、青年を言葉だけで殺そうとする勢いだ。


「まぁまぁー、そう怒るな。事実だろ」


 堪忍袋の緒が切れてしまった。

 踏み出した足の下で地面を隆起させて、青年の懐に飛び込み、狙うは急所のみ。

 頭一つ背が小さいアテネは、鳩尾に右ストレート。


 青年はアテネの右拳を、逆の左手で力のベクトルを優しく変えてやり、アテネの横を取ろうとする。


 そうはさせず、右足に力を込めて軸にし、変えられた運動エネルギーを回転に使って、左足で回して蹴りを放つ。


 慌てることなく放たれた回し蹴りをバックステップで避ける。


 回した左足の軌道を途中で無理やり変えて、地面を踏み込む。足が地面に沈み、石つぶてを撒き散らすが気にすることなく、体勢が後ろに傾いている青年に追撃を始める。


 素晴らしい攻防が繰り広げられると思っていたが、アテネの一方的な攻撃になっていた。


(これが魔王なの・・・これならいける!)


 心が高揚するアテネに対して、青年は防戦一方で表情が暗い。

 防戦一方であるはずなのに、チラチラと視線をアテネから外しているが、気分が高揚しているアテネにはその意味を考えることはない。


 下から抉るようなアッパーで視線と体勢を後ろに誘導して、突き上げた手を引くと同時に腰の回転を使って鳩尾にストレート、いなされるが蹴りをお見舞いする。

 青年はまた、何もせずバックステップで下がる。


(もう、いいか・・・)


 ここにきて、ようやく青年は反撃に転じる。

 急所ばかり狙ってくる攻撃はかわしやすく、予想が立てやすい。

 少女が放つ右ストレートを、左手で手首を掴み、引っ張る。

 腕を引っ張られて体勢が前に崩れ、がら空きなった鳩尾に拳をめり込む。


「カハッ!」


 息をしようにも体に空気を取り込めない。

 横隔膜が異常事態を訴えかけてくる。

 意識がどんどん遠のいていくのがわかる。

 朦朧とする意識の中で視線は青年に向かっていた。

 青年はつまらない顔をしていた。

 アテネは思い知った。

自分がいつもしていることが、どれだけ屈辱的なことかを、自分が無力な存在であることを・・・。


「負けてたまるかー!」


 意識は覚醒し、横隔膜はそれに応えるように、異常を無理やり抑え込んで肺に空気を取り込む。

 声を上げ、自身を鼓舞してアテネは動き出す。

 捕まれた手を強引に引き抜いて、腹に刺さっている拳を両手で掴み、地面を蹴って青年の腕に張り付き、腕を左右の足で挟み込んで胸と首の上に置いく。

 青年の口角が僅かに歪み、行動を起こした時にはもう遅かった。

 アテネは青年の腕間接を破壊するために、思いきり自分に引き付ける。

 骨が砕ける音が響き渡り、アテネの体は青年が取った行動によって地面に叩きつけられる。


 青年は背中から地面に倒れこんで、腕の事など気にせずに地面に叩きつけ、後ろ受け身を取る。


 アテネは今度こそ、全身に走る衝撃で意識を手放すことになった。






「イッテー!! マジで折りやがったー!!」


 仰向けに倒れたままの青年の大声が、ドーム状の空間に木霊する。

 叫ぶことで何となく痛みが和らいだ気になり、邪魔な足を退けて上体を起こし、胡座をかく。


「・・・凄い執念だな・・・」


 折られた腕を引っ張るが、ガッチリと掴まれて離れる気が全くしない。

 仕方なく腕は諦め、本題に入ることにする。


「お前は誰だ?」


 視線は少女ではなく、その耳にぶら下がっている灰色の宝石がついた、イヤリングに向けられる。


「まず、人に名前を聞く前に、自分が名乗るのが筋だと思うんだがどうだ~、脳筋~」


 少女の目が開き、不敵な笑み浮かべて、さっきまでとは違う、間延びした言葉で話しかけてくる。


「これは、これは失礼した。俺の名は、天海光騎あまがい みつきだ。よろしく、クソサンタが」


 光騎は今の会話で確信したことが二つあった。

 一つは昔この会話をした覚えがあること。

 もう一つは、振り上げている、硬く握り込まれた右手をそのまま降り下ろしてもいいことを。

 だが、いま目の前にいるのは一人の少女で、この子には罪はないので、降り上げた拳を降り下ろすことが出来ずにプルプルと震えている。


「うん、名乗ってもらったからには、名乗らないと無礼にあたるな~。だけどな~、僕は自分より弱い者に名乗る名はないんだよな~」


 片目を瞑って、人をバカにした顔をしてくる少女に手が危うく滑りそうになる。

 この少女は自分を傷つけられないことを分かっているから、挑発してきているのだ。


「はぁ~、お前も相変わらず口数の減らない奴だな」

「そんなことないよ~、この僕、天地が驚く有名人、儚野晴明ぼうや はるあき様は偉大なので、自分より格下でも名乗ってあげるんだよ~」

「おっと、手が滑った!」

「何の、これしき!」


 重力に逆らわず少女の顔に目掛けて拳を降り下ろしたが、晴明が少女の体を動かし、掴んでいる折れた腕を捻ってくる。それだけで光騎の表情が歪んで目標を大きく誤り、少女の肩の横に殴る。


「そ、それはなしだろ・・・」

「ははは、君が仕掛けて来たんだ~、自業自得だろ」


 苦痛に顔を歪める光騎に、満面の笑みで笑う少女の顔をした晴明。


「わかった、俺が悪かった。だから、腕を離してくれ」

「う~ん、そうしたら切れる手札が減るから嫌だな~」

「真面目な話、離してくれ」

「仕方がない、離してあげるよ」


 手を離し、やれやれと肩を竦める少女。

 解放されたことにホッとする光騎。


「全く、どれだけ痛かったか」

「不死身に言われてもな~」

「それでも痛覚はあるんだよ」


 光騎は懐からトランプぐらいの大きさの金属箱を取り出し念じる。

 目の前に金属のブレスレットが現れる。

 不規則に黒く光る金属が間に挟まれて、全体的には鉄色が多い。

 折れていない手でブレスレットを掴み、折れた手首に着ける。

 ブレスレットの黒い部分が数個、白く色を変えて光ったかと思うと、黒に戻る。

 青年は確認するように手を軽く握り、開閉動作をする。

 折れていたはずの腕が、元通りに戻ったことに満足して真剣な表情に戻り、胡座をかいている少女に質問を投げつける。


「そんなことになっているってことは死んだんだな・・・」

「そうだよ~、結局治らなかったよ」


 真剣に聞いているのに晴明はあっけらかんと答えるので、真剣になるのをやめる。


「まぁ~、治らなかったんなら仕方がないが・・・その精霊殼どうした?」

「これかい? いいもんだろ~、貰ったもんだよ~」


 灰色の宝石がついたイヤリングを触りながら見せつけてくる少女。


「誰からだ?」

「分かってるくせに~・・・君の半身からだよ」

「やっぱりか」

「そう、頭を抱えるなよ。お陰で僕はこうして生きていられるんだからさ~」

「体も無い、呼吸もしない、そんな奴が生きているのかよ」

「何故呼吸をしないと生きていないと判断する。何故体が無いと生きていないと考える。君はもっと色々な経験をしてきたじゃないか」

「例えだよ、例え! マジで返さないでくれ」

「僕は間違った意見は認めない」


 ここにきて初めて、真剣な言葉が晴明から紡がれた。

 光騎は知っていた。

 長い付き合いから、彼が必ず怒ってしまうことを理解していたが、どうしても言わずにはいられなかった。

 だから、光騎は視線を逸らし、気まずく謝るしかなかった。


「悪かったよ・・・」

「分かればいいんだよ~」


 先程と何ら変わらない間延びした口調に戻った。

 光騎もさっきの事は無かったことにして話を再開する。

 そうしなければ、本当にこの少女を怒らせてしまう。


「それで、お前がどうやって精霊殼に入ったかを・・・」

「答えないよ~」

「だろうな! そう言うと思ったよ!」

「心外だな~、僕はそう思われていたのか~」

「そう思われることを長年やってきたかな!」

「付き合いが長いのも考えものだね~」

「お前と話すとどうしても長くなるな」

「誉め言葉ありがとう~」


 これ以上話に付き合っていたら、付き合った分だけ何処までも続くはずのなので次の話題に移ろう。


「封印に綻びを作った理由は何だ?」

「外からの物理的干渉が必要だったんだよね~」


 お前ほどの実力があればそんなもの必要ないだろ!

  と、喉の辺りまで出かけたが呑み込んだ。


「君をタイミングよく起こすのに必要だったんだよね~」


 言いたいことを顔に出した覚えはないのに、思ったことの答えが返ってきたことで、晴明が次に言うであろうことが容易に理解できた。


(俺が、人の心を読むな、と言えば必ず、君の思っていることは相変わらず分かりやすいね~と、言うはずだ)


 長年の付き合いから確信に近い自信を持ち、ついでに、してやったりという満足感にも浸りつつ言葉を発する。


「人の心を読むな」

「いや~、読んでないよ~、急にどうしたの~?」

(・・・・・・あれ?)


  顔には出さなかったが、内心は思惑と違って呆けている。


「ククク、君は本当に分りやすくて助かるよ~」

「っ・・・この空間に結界が張ってあった理由はなんだ!」


 満足感が一転して、屈辱感が襲ってきていることを誤魔化すために他の話題を出す。

 語尾に若干怒気が含まれていたが晴明はお構い無しに続ける、ことはしなかった。

 光騎か長年の付き合いから分かっているように晴明も引き際は分かっている。


「結界を張らなかったら君~、戦うことすらしないでここからいなくなってただろ~」

「・・・」


 光騎がアテネと戯れていたときに表情を暗くしていたのは、これが原因だった。

 無言なのは肯定を意味している。

 結界のせいで力を制限されて、やりたいことがほとんど出来ず、楽しくなかったために表情が暗かったのだ。


「君を封印した時に使ったのと同じだよ~」

「わかってるよ」


 この結界はこれからも、脅威になることは目に見えているので早めに対抗策を考えようと光騎は思うのだった。


「それで、そこまでして俺を、こいつと戦わせたかった理由はなんだ?」


 光騎は少女に人差し指を向ける。


「この子なら僕たちが諦めた理想を持ち続けてくれるんじゃないかな~」


 少女は自分を指差す。


「はっ、こんな弱い奴がか? なわけないだろ」

「そんな弱い子に腕を折られたのは誰かな~」

「たかが腕一本だろ!」

「何を言っているんだい~、本来の強さを出せなかったとはいえ~、君の腕を一本折るだけでも大したものだよ~、まぁ~、僕が同じ状況に陥っても触れさせてすらいないけどね~」


 最後に挑発の言葉を入れることを怠らない晴明と、最後に油断したことを後悔した光騎である。


「お前には本当に頭が上がらないよ、色んな意味でな」

「もっと尊敬してもいいんだよ~」

「はぁ~」


 溜め息が出てきてしまう。

 ここまで言われれば溜め息の1つは出てしまうが、光騎はこういう会話も含めて晴明という人物を気に入っている。家族と言ってもいい程に仲がいい。でも本人にどんな関係と聞けば、腐れ縁や只の知り合いなどと適当にはぐらかすので、この二人の関係を正しく分かっている者は少ない。


「溜め息なんてさ~、君も大変なんだね~」

「誰のせいだか」

「誰のせいだろうね~」


 溜め息をついた理由はもう1つある。

 それを言わせたいのであろうことは分かるが、言ってしまえばやらなくてはならなくなる。


「きっと~、楽しいと思うんだ~」


 早く言えよ~、と催促するようにニヤニヤと此方を見てくる少女。


「分かったよ! やればいいんだろ!」

「何をやるんだい~? はっきり言ってくれないと解らないな~」


 さっきよりも嬉しさを増した笑みで、ニヤニヤと此方を見てくる。

 中身が男でなかったらどれ程よかったことか。

 両手を上げて降参の意思を表し、光騎は自暴自棄気味に宣言する。


「この俺、天海光騎は、この少女を、強く、鍛えることを、ここに、約束します!!」

「僕、世界一カッコいい儚野晴明がその約束を聞き届けた、これで君は約束を守らないといけないよ~」

「約束は守るためにあるんだ、期限は言われてないんだから気長にやるさ」


 約束したからには破ることはしないというのが光騎の信念でもある。これで完全に逃げることが出来なくなったが、何時までと言われていない以上自分のペースでやっても文句は言われない。


「あんまり気長にやり過ぎると大変だよ~」

「? おい! どういう意味だそれ」

「初めから攻略本を見てやるのは楽しくないないよね~」

「それはその通りだが・・・」

「それじゃ、この子起こすよ~」

「おい待て! まだ話が・・・」


 少女は目を閉じると、猛烈な睡魔に襲われたように頭だけを前に垂れさせる。

 適当に流され、話を打ち切られてしまったが、光騎としてはこれからも機会は幾らでも作れるからまぁ~いっかと、肩をすくめて呆れる。

 それにさっきは、諦めた訳ではないが出来なかったことをこんな小娘が出来る訳がない、という憤りから否定してしまったが、最後まで諦めずに挑んできた意気込みは称賛に値すると評価している。


(ホント、楽しくなりそうだな)


 光騎は新しい玩具を手に入れた子犬のように心が踊っていた。


(彼奴は理由のないことは言わないからな、何かあるんだろうな、こいつには・・・)


 晴明が言うだけの根拠を考えようとしたところで、器用に胡座をかきながら頭だけを垂れさせている少女から声が上がった。


(さてと、楽しみますか!)


 何事も楽しまなければ損、というのも光騎の信条の1つだ。

 その信条に従わなくても、これから楽しい冒険が始まろうとしているのだった。

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