前の打者
打線が畜生過ぎる。
「またかよ。この強力打線」
1番、2番、3番、4番、5番。
友田、尾波、新藤、河合、嵐出琉。
この五人の平均打率は3割越え。出塁率は5割。新藤、河合、嵐出琉の3人の合計打点はなんと300打点以上(昨年のデータより)。
1,2番が確実に塁に出て、ランナーをしっかりと返せるバッターが揃うこの打線は相手チームにとっては畜生過ぎる。
キーーーンッ
「打ったーー!河合!今日、2本目のホームランだ!スリーランホームランで逆転!」
打線は最強クラスだ。
しかし、この打線にはある問題が一つあった。
「河合サーン、ズルイデース」
5番、嵐出琉。日本に馴染んでいることをアピールするため、漢字を使った登録名である。片言だが日本語を理解できているようでできていない。
「なんだよ?俺のスリーランを祝うのが、次の打者の役目だろ?」
「オ祝イモシテマスヨー。デモ、嬉シクナイデース」
河合はチームのみならず、リーグ内の打点王兼、本塁打王。打線でならば大黒柱だ。
チャンス(特に満塁)に強く、一発の多い彼はまさに最高クラスの打者であるのだが、その後ろにいる嵐出琉はその事をあまり快く受け入れていなかった。
河合はベンチ内のチームメイトとハイタッチをしながら戻り、嵐出琉の様子を選手会長の新藤に訊いてみた。
「ったく、なんで嵐出琉は素直に俺を祝ってくれねぇーんだ?」
「河合の性格は歪んでいるからね」
「なんだとコラァ!?俺は本塁打と打点でチームを引っ張っているんだぞ!」
「それはさておきさ。たぶん、チームプレイっていうか。河合がチャンスの場面で色々やってしまうからさ」
元々、嵐出琉はメジャーでも一時期活躍した選手。
ホームランも打てるが、なによりチャンスに強い打撃が売りでスカウトされたわけだが……。
「河合がアッサリと俺や友田、尾波を返しちゃうからなー。嵐出琉の打席の時はあんまりチャンスがないから」
「たったそれだけかよ!?くだらねぇー!」
人の話を聞かない捕手ってどーなんだろうね。
まだ、続きがあるため新藤は話を繋げていく。
「いや、それだけじゃないよ。前の試合、ノーアウト1,2塁。河合の打球は確かに強かったけど、サード正面で併殺。ツーアウト1塁となって嵐出琉に回った。足が早くない河合じゃ、ツーベースでも打点にならないし」
「あー?そんだけ」
じゃあ、ストレートに。
「河合は、チャンスの場面では必ず。どんな結果であれランナーを消しちゃうから嵐出琉は不機嫌なんだよ」
ちなみにここまでの河合と嵐出琉の成績。
河合、
打率、.313。本塁打、14本。打点、57。
嵐出琉、
打率、.287。本塁打、13本。打点、27。
明らかに前の打者がオカシイ。
「同じくらい本塁打が出てるのに打点が倍も離れてる時点で前の打者が……」
「がーー!俺が打点を挙げればチームは勝てるんだよ!バーカ、新藤!!選手会長らしくベンチでも暖めてろ!凡退野郎!」
チームプレイができていない過程と、その成績を見せ付けてあげた新藤であったが、河合はそれを鵜呑みにはしなかった。
河合が言っているとおりチームは勝てている。打ち勝っている。
ただ、嵐出琉は河合が前でランナーを消してしまうせいで年俸が上がらず、結構困っているのだ。
打者として嫉妬もあるのだろうが、自分が4番を打っていれば河合にも負けない成績を出せると思っているのだろう。
「お?」
キーーーンッ
「打ったーー!2者連続!嵐出琉もこれで14号目!!河合に並んだー!!」
とはいえ、河合を敬遠するという策を相手がとれないのはこの嵐出琉が5番にいるからである。
河合の後ろを打てるというのはそれだけ重要な役割。
「ナイバッチ、嵐出琉!」
「新藤サーン。私決メマシタ」
「む?」
嵐出琉は今日の試合で、チームのために一つの決意を表明する。河合があーゆう性格であるため、片方が気を遣わないとチームが割れてしまう。
「”ホームランキング”デ、年俸ヲ上ゲマース。河合サンニ負ケマセーン」
「よっしゃ。負けんじゃねぇーよ」
5番もこれではチームプレイができていないかもしれないが、嵐出琉の打席時はチャンスになることはあまりない。河合が潰し過ぎだ。
ちなみに嵐出琉の今シーズンの得点圏打率は10割。本塁打こそないが、しっかりと5番としての役割ができる打者であり勝負師だ。
だが、今シーズンの本塁打王と打点王はやはり河合であった。打者としては彼の方が上を行く。
「残念デース。デモ、ベストナイン、ト、ゴールデングラブ賞デース」
だが、選手としての評価が高い嵐出琉は別の賞や、ファンサービスなどでチームから慕われている。
「河合サンニゴールデングラブ賞ハ絶対ムリデース」
「なんだとこらあぁぁっ!!?」
「捕逸48回。本塁打ガチョット勝リマシタカ」
表彰式でチームメイト同士が弄りあうという珍事が発生したそうな。
契約更改で嵐出琉は複数年契約をゲットしたそうだ。