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【第四章プロローグ~エイワズの杞憂~】

新章スタートです。よろしくお願いします。

「……わざとか?ハガル」


 白い衣を纏った男が、同じような格好の男――ハガルに剣呑な視線を送りながら訊ねた。その口調は厳しいもので、詰問していると表現して差し支えないものだった。


 しかしハガルはそれに対してどうということもないと思っているのか、彼の表情はまったく動かなかった。と言うよりも彼の顔には、一切の感情が浮かんでいなかった。


「エイワズ。私は導きに従って、転生者の魂に力を与えただけだ。それを行使した結果、彼が敗北したことについて私は一切の干渉を行っていない。汝こそ、転生者に語りかけてラグズの兄弟を消去するように指示したそうではないか」


 『天災』を冠する干渉者(テンパラー)の言葉は、暗にエイワズの行動をこそ干渉(インターフィアー)と呼べる行いであろうと非難していた。それを聞いて渋面を作った白い髪の男は、右手を振ってハガルを追い払った。


 彼の星に存在する生命体では、ラグズの兄弟――魔王を殺せぬ。


 ハガルが去った真空の空間を漂いながら、エイワズは歯噛みしていた。ラグズが己の半身を生み出したときは、他の干渉者たちと同様、彼も驚嘆の念を抱いたものだ。


 それ故に、『魂の移送と強化実験』によって不安定な人間の未来を収束するという計画を実行に移す際、ラグズを補佐として伴わせたのだった。星の管理を半身に任せられるなどという干渉者は、自由で豊かな想像性を有する彼だけだったのだ。


 共に宇宙を飛び回り、ラグズの星にも魂を転生させようと訪れた際も、魔王――名前はセイタンとか言った存在が引き起こしたらしい洪水によって、地上はいい具合に混沌としていた。


 あの時、気が付いていればよかった。


 エイワズの臼歯が擦れ合わさって鋭い音を立てた。


 ラグズは、半身に心を与えたと言った。


 様々な性質を与えられている干渉者は、それに従ってある程度の個性を有してはいる。しかし、それはあくまで星の創造や干渉者(テンパラー)としての行動に色を付けるものであって、人間のように心が揺れるような感情の起伏を持ち合わせていないはずだった。


 しかし、絶対観測者の意によって転生させた魂をあたら殺され、想定していなかった未来へ向かっていく星の状況を見れば見るほど、エイワズの中に焦りと不安が満ちていった。


 もしかすると、もともと自分たちにも心というものが存在するのではないか。一瞬そんな風に考えたエイワズであったが、その考えを頭から追い払った。


 感情などというものに左右されて自分たちの行動が一貫性を失ってしまえば、選択のブレによってさらに多くの未来が生まれてしまうだろう。干渉者の有する力は、地上において振るわれるにはあまりにも大きい。本気になれば星一つ破壊することも可能なのだ。心が乱れ、感情のままに力を振るえば、絶対観測者の決定を受ける前に星が破壊されてしまう。ラグズの兄弟が起こしたあの大洪水が、いい例ではないか。


 エイワズは目を閉じ、黒い翼の干渉者が星を破壊する姿を創造して身震いした。魔王が、感情のままに星を破壊するようなことは恐らくない。それは、魔王が心を持っていることで無意識に力の行使に歯止めがかかっているからなのだが、エイワズの考察がそこに至ることはなかった。


 その後、エイワズはしばらくの時をかけて、彼の星で魔王を討つべく対策を講じた。準備が整い、それらを実行に移した彼は居ても立ってもいられず、一瞬で彼の星まで移動した。







 エイワズは、すでに集まっていた他の干渉者たちと共に星を眺めていた。彼が現れたことで、ラグズは少しだけ緊張した様子を見せ、他の干渉者は驚いたような表情を作った。


 地上では、イスキリスという大陸において、星の原住民が都市の再建を行っていた。そこに転生者の姿はなかったが、干渉者の目には、片腕を失ったかつての王が、氷に閉ざされた大陸に渡って何ごとかを行っている様子が映っていた。


 都市の再建に精を出している原住民たちは、先の魔王が引き起こした戦いによって激減してはいたものの、襲ってくる魔物にどうにか対処していた。転生者の魔力に頼り切り、その庇護の下で暮らしていた頃とは違い、彼らの目には活力がみなぎっているように見えた。


 大人も子供も男も女も、皆が協力して仕事をしていた。


 王城で見つかった老人と若い女――かつて、エイワズが転生させた魂の持ち主だった――の遺体は丘陵地に埋められ、拙い技で造られた陵墓となっていた。白亜の大都市を建造した転生者とは比べ物にならない技術力ではあったが、そこには花が絶えず、原住民たちは一日の終わりや食事の前に、彼らに祈りを捧げていた。


 そこには多少歪んではいるものの、平和と言ってよい世界が存在していた。


 これが、魔王――史上初めて、自ら地に堕ちて干渉者(インターフィアラー)となった者が、心のままに行動した結果か。


 そんな感想を抱いたエイワズが、魔王を生み出したラグズを見やると、それに気付いた彼がわずかに口角を吊り上げて頷いた。


 そんなはずはない。絶対観測者の計画に変更はないのだ。


 ラグズの笑顔に鋭い視線をもって答えたエイワズは、別の大陸に移動した魔王に目を移した。彼はタクトを振るように、後方に控えていた数人の干渉者へ指で指示を送った。


 それを受けた一人の干渉者が頷き、その姿が掻き消えた。消える直前、額の『(ペオーズ)』が輝いたのを、一人の干渉者が見とがめた。


「絶対観測者は見ているわよ。エイワズ?」


 額に愛を冠する干渉者――ギョーフが眉を潜めてエイワズに声をかけた。


 それには答えず、エイワズは居並ぶ干渉者たちの顔を注意深く観察していた。


 そして、身体の芯から震えが起こるのを止められなかった。




 星に起きる様々な変化を眺める彼らの顔には、明らかに感情と呼べるものが浮かんでいた。





※第四章から魔王様の活動内容が少しというか、かなり変化します。しかし、どこに行って何をして、何を考えても彼は転生者にとって魔王です。それだけは、お約束します。

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