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〖閑話 憂鬱のレミア・フェレス〗

突然の閑話ですみません。

今後、『獣王レオン 後編』から『終わる世界』へと続き、第二章終了予定です。展開的に、新章前に閑話を挟めませんでしたので、ここで入れました。

読み飛ばしていただいても……大丈夫……です。

 星に生まれた魔物の中でも、魔族を除いて最強と目されていたのは、ドラゴン族と呼ばれるものたちであった。

 

 星の魔物を殲滅せんと、わざわざ別世界から生まれ変わってまでこの星に現れた転生者(ゴミクズ)にしてみれば、竜族もドラゴン族も同じであったろうが、当の魔物たちにしてみれば、そこには明確な線引きがあり、同列に扱われることは許されない。


 竜族とドラゴン族とは、起源は同じ。


 星の地底深くに揺蕩う『気』と呼ばれる生命の元より、人間の悪意と混ざりあって生まれた魔物と呼ばれる存在である。


 魔物が生まれるより遥か昔、ランの祖先は、かつて地上を跋扈した巨大な竜の姿をしていたという。小山のごとき体躯を揺らし、動物にせよ植物にせよ、まさに食物連鎖の頂点に君臨していた。


 星の環境を一変させるほどの天災によって、その祖先は絶滅したという。天災によって理不尽な死を遂げた祖先の魂は、この星を創った神によって救われ、魔物として生まれ変わった。そう、魔物も人間も、神が創造したものであるというのが、竜族共通の認識だ。


 突如星に現れ、魔物を狩り始めた転生者(ゴミクズ)に対抗するため、その身に魔力を宿して変質していった同族たちに共通していたのは、尋常ならざる人間に対する敵意であった。それ故転生者と好んで戦闘を行い、彼らによってドラゴン族と呼ばれるようになった。


 ランという名の竜族の若い戦士がいた。


 竜族の中でも戦闘能力に特化して進化を続けた一族の末裔であり、ひとたび暴れれば国が一つ滅びると謳われた雲竜の実子にして、当代最強と目される竜の戦士。


 ランは『嵐』を表す。


 かつて、穢れた異界の神の力である魔力をその身に宿し、より強い力と共に、歯止めの効かない破壊衝動をもって地上を蹂躙した火竜や雷竜と袂を分かち、空へ上って観察者たらんとした先祖に敬意を払っていたものの、ランの中には、戦士として戦いを望む心がつねに嵐のように渦巻いていた。それをどうにか抑え込んでこられたのは、父であり竜族を束ねる空の王、雲竜ことダン・ラシルバのおかげだ。


 雲竜は、地上でドラゴン族が倒されるたび、震えるほどに怒っていた。ならば自分が地上に降りて、一撃のもとに粉砕してくれようと逸るランを父は諌めた。


 機を待て、と。


 場当たり的に転生者(ゴミクズ)を殺しても、いたずらに彼らの関心を引くだけで、少数である竜族の勝算は薄い。地上に溢れる悪意のおかげか、神が奮闘しているのか、転生者(ゴミクズ)がいくら地上で魔物を狩っても、その数がゼロになることはなかった。


 彼らを統率し、軍略をもって転生者に挑めば、五分以上の戦いが期待できる。しかし魔力に侵され、理性を半ば失っている彼らを統率することは不可能だった。


 ランには、悪意というものはよくわからない。


 ただ人間に対しては、理由なく敵対心が湧いて来ることは自覚していた。これが過去に死んだ人間たちの、悪意というよからぬ感情が蓄積した結果であるというのなら、死して尚、同朋に向けられる負の感情を持ち続けるという、人間という種の執念深さは、それを毎日空から見下ろす竜族にとって、見上げたものではなく呆れたものだった。


 ランは若いと言っても、それは魔族にとっての認識であって、通常の人間なら人生を十回以上やり直せるだけの時を生きていた。そんな彼は、短い生を必死に生きる人間たちなど取るに足りない存在と考えるようになった。一族の掟により、かつて自分の祖先が喰らって生きていたというその肉の味を知る機会はなかったが、塵芥のごとき矮小な存在である、猿とたいして変わらない生き物の肉など、喰いたいと思ったこともなかった。


 ある日、ランは竜の眷属を集めて狩りをしていた。その時地上で大きな力がぶつかり合うのを感じ、彼らはそれを見ていた。


 空に太陽のごとき熱を放つ光体が生まれた。それは地上に落下して、一つの大きな力を持つ者が消えた。直後に同じ現象が起き、翌日には見た目は人間と変わらない、白髪の男が空へやって来た。雲竜が彼を雲へ降ろし、何やら話を始めた。


 ランには、白髪の男が尋常ならざる力を秘めていることが分かった。一緒にやって来た黒い魔族のそれも強大であったが、幾重にも封印が成されており、顕在化はしていなかったが。


 ランたち竜の眷属が雲竜の元へ戻ったとき、父は咆哮を上げた。それは、竜族を総べる者が、長い沈黙を破って出陣を決意した証であった。彼の前に立つ白髪の男は、星の神によって生み出された神の使徒であった。昨夜、太陽のごとき光体を生み出したのもこの男であり、その目的は転生者を絶滅させ、星を魔力の汚染から解放すること。


 彼の名は魔王様(Satan(セイタン))。単騎で王都に挑もうとするなど、危ういところもあるようだが、雲竜が主と認めたのであれば、竜の眷属はそれに従うまで。それにランの精神は、ついに戦いの場を得たことに高揚していた。族長の許しが得られず、ずっと燻っていた内なる嵐を存分に解放できる。




 話し合いの末、アマンティア大火山へ向かう魔王様と白竜の群れを、二匹の獣人族が追ってきた。驚くべき速さで疾駆したそれの大きい方―獣王レオンは、魔王様と激突した。


 獣王の一撃は、魔王によって止められた。その衝撃で大地がわずかに揺れた。ランは、アマンティア噴火の懸念がある以上、足元を揺るがすほどの一撃を放った方も、それを受け止めた方も何を考えているのかわからなかった。ランは確かに、地底深くに眠っているマグマが揺れたことを感じ取っていた。

 

 ランの前には赤毛の獣人族の女が立っている。まさしく獣のごとき殺気を放ち、低く身構えたまま、人化したランを見据えて動かない。


「……トカゲ。よそ見するな」


 赤毛の女――ベラシアは、低く唸りながら、じりじりと距離を詰めていった。両手に黄金色の魔力が渦巻いて、長い爪の先に集中していく。魔力の色は、獣王のそれと同じだった。


 ランは、ベラシアに対して垂直に構え、手刀に風を纏わせた。ただの風ではない。竜族の気によって台風のごとき風圧をもつそれは、鉱石ですら容易く切り裂くだろう。




「あのぅ……解説の途中、大変申し訳ございません」


「……なに?」


「いえその、集中して見たいなぁ……と皆が申しておりまして……」


「……」


 ボクはレンという白竜の背に乗って、始まった戦闘の解説を始めていた。レンはランの妹で、アマンティアに向かう間に仲良くなった彼女から、竜族の話を色々と聞いていたボクは、ランという白竜の心情まで汲み取った名解説を展開した。と思うんだけど、どうやら白竜たちのお気に召さなかったようだ。


 周囲を見渡せば、百近い白竜が戦闘から距離を取り、地上に集まっていた。皆が、ボクを可哀想なものでも見るような目で見ていた。


「だって、ボクだって戦いたいのにさ、魔王様は冷たいし、さっきなんか喋らせてももらえなかったんだよ?なんか寂しくなっちゃってさ……」


「戦いに参加したいのは、私たちも同じです。しかし、獣人族と予想外に早く衝突してしまいました。アマンティアの火口で大規模な戦闘を行うことは危険です」


「そんなことは、ボクだって分かってるさ……」


 ベラシアの爪と、ランの手刀が交錯した。魔王様と獣王は、相変わらず拳の応酬を繰り返している。拳が打ち合わされる度に、結構な振動が伝わって来る。戦う力がない以上、ボクはただ見ていることしかできない。

 

 ああ、もどかしいなぁ。


 血の盟約なんて、たいした儀式じゃないんだし、ボクの凄テクならあっという間に終わっちゃうんだけどな。魔王様はシャイだから、絶対にご自分からしてくれなんて言わないだろうし、隙を見て奪ってしまう方が手っ取り早いかもな。


 だいたい魔族ってやつは、契約だの盟約だのにこだわりすぎなんだよね。さて、やることないから解説はやめて、応援でもしようかな!


「魔王様~! 頑張ってー♡」


「レミア殿……」


 はいはい。黙ってみてればいいんでしょ。


 ボクはレンの背から降り、魔王様に熱い視線を送った。




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