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〖第二章プロローグ~主従関係~〗

新章スタートです。

よろしくお願いいたします。

 ベルの町を出てから七日が経過した。


 レザイアは遠いようだ。


 ルドルフが救援を求めた際に三日かかると言ったのは、方便であったわけだが、考えてみれば人が歩いて数日で踏破できるような距離に魔法都市があるのなら、わざわざ転移魔法陣など設置する必要はないのだ。


 森の中で一度、街道で一度、転生者を数人ずつ殺したが、一つ大きな収穫があった。


「魔王様~? もうすぐルッツという村があるんですけど、ちょっっとだけでいいので寄っていただけませんか~?」


 それは断じて、私の後方から何か喚いている魔物のことではない。


「聞いてますか~魔王様~? 逆から読むとまさうおま…わっ! ちょちょちょ、やめてください! 逃げても追尾するのはやめてくださいぃぃ!!」


 森の中で下卑た魔法を操っていた転生者に学び、私は新たな力の使い方の修練を欠かさず行ってきた。ただ飛ばし、熱量を増大させるだけだった光弾が、軌道を操り大きさを増すことで、一発の光弾でより多くの転生者を狩ることが可能となったはずだ。


 同時に、光刃の生成にも熟練してきた。今では発生速度は光弾よりやや劣るぐらいの早さになってきた。


「ふむ…」


 もうすぐ村が近いというのなら、千以上の光弾を体の周囲に旋回させたままでは通過できまい。


 街道で遭遇した転生者どもの中では、私の姿を見てすぐに魔王と判断できるくらい認知度があったようだが、原住民についてはどうだろうか。


 魔王という存在が、どの程度忌避されるのかわからないが、やはり魔に属する者だと思われるのは間違いあるまい。


 上空で巨大なカラスのような翼をばたつかせて飛び回っている、あれと同列ぐらいには思われるということか。


 それにしても、と私は今更ながら考えた。


 私が操る光弾の速度は、一発であれば私の視力で視認可能な速度の限界近くまで上がっている。転生者が好んで使用する銃弾すら凌ぐその速度は、この星に生きる翼をもつ生き物が空中で避けることなどまず不可能と思われた。


 しかしあの魔物は迫るそれを回避し、追尾されても逃げ回っている。すでに限界近くまで速度を上げているにも関わらず。


「……」


 私は、光弾を止めた。


 それに気付いた魔物も、空中で制止した。翼は、羽ばたいていない。どうやら羽ばたきによって得られるものとは、別の推進力で飛翔しているようだ。


「はあ、はあ……あぶないところだった。もう少しでボクのお腹に風穴が開くところ――はっ! また来たぁ!? やあああああ!!」


 ついに私の光弾が魔物を捉えた。しかし爆煙が晴れた空から降り立ったのは、どこに隠したのか翼がない、しかし無傷の魔物だった。


「うう……まさか本当に当てるなんて思わなかった。生き残って喜んだのも束の間……無視され、追い立てられ……ボクは……ううぅ」


 街道にぺたりと膝をついて、泣き出してはいたが、確かに無傷だ。正直に言えば、少々手加減はした。それでも、身体を魔力で強化している転生者をして、火傷では済まない程度の威力はあったはずだ。


「レミア・フェレス」


「はいいっ!」


 私が名前を呼ぶと、ぴたりと泣き止んでこちらへ飛んできた。


「御用はなんでしょうか魔王様!? レミア・フェレスが、命に代えても務めさせていただきます!!」


 いったい何がこの魔物にここまで言わせるのか。そして、ただの魔物とは思えないこの頑強さの正体を知るべく、私は魔物との対話に挑むことにした。


「汝は、魔物であることに間違いないか」


 私の第一の問いに、魔物は大きい胸を張って答えた。


「広い意味ではそうですが、ボクは誇り高き純血の魔族です」


「魔物であることに変わりはないだろう」


「ええ、そうですね……もうそれで結構です……ぐすん」


 再び目に浮かんだ涙を拭い、鼻をすするのを待って、私は第二の質問を投げかけた。


「汝は、私の光弾を浴びても死ななかった。何かしたのか」


「まさか魔王様……ボクを本気で殺すおつもりだったんですかぁ!? 魔族に生まれて幾百年、数多の魔族と魔物たちを見てきたボクだけど、これほどの残虐性を見たことがあったろうか? いくら魔を総べる王とはいえ、姿かたちは人のそれ。だがこのお方の内には、魔物よりも魔物たらんとするかのような、暗い焔が……わひゃっ!?」


 光刃がその黒髪を掠め、背後の木々を切り裂いていく。切断された髪の毛がハラハラと地面に落ちると同時に、木々が音を立てて倒れていった。


 それを背後に感じ、がくがくと膝を震わせつつも静かになった魔物を一瞥し、私は質問を重ねた。


「それで、どうやって光弾に耐えた?」


「あの……単純にボクの身体の耐久力です。お気に障ったなら謝罪いたしますぅ……」


 言っていることが本当ならば、私が森で倒した転生者に放ったものより威力を落としてあったとはいえ、それに被弾して無傷であった魔物の褐色の肌は、相当な耐久性を持っていることになる。総じて耐久性に優れたものは、その内に秘めた力も大きいと言えよう。


「ならばなぜ、あの程度の転生者を始末できなかったのだ?」


「それはその……待ってください! 言います! すぐ答えますからぁ!」


 私の左手に再び光刃が出現したのを見て、魔物はバタバタと手を振り、とても焦った様子で答えた。


「ボクの一族は血の盟約によってのみ、闘う力を解放できるのです。リリア様とは命からがら逃げておりましたので、そのような時間はなく、現在ボクは主を失っていますから……」


「真の能力は発揮できない。ただ生来の耐久性のみで、光弾を防いだというのか」


「はいぃ……その通りです……」


「翼はどうした」


「え? これはあの、自由に出し入れできるんです。よく見ると、服に切れ目が入ってますでしょ?」


「ふむ」


 くるりと後ろを向いた魔物が着用している服の背中には、確かによく見なければわからないほど細い切れ目が二本入っていた。だからと言って、両手を広げたよりも大きい翼を収納できるはずもない。あれは、こやつの力によって出現させているものなのだろうか。


 それにしても魔物の持つ力の多寡など気にしたことはなかったが、こやつは並の転生者よりは圧倒的に強い身体と力を持っていることは間違いないようだ。


「まだ聞きたいことがある」


「はい! なんなりと!」


 魔物は嬉しそうだ。


「ずいぶんと速く飛べるようだが、翼はあまり動いていないように見えた。これはどういうことだ?」


「ええとですね、空を飛ぶのは力をこう、足元からですね。よいしょぉーって感じで……あの……わからないですよね? すみません…」


 私は真剣に話を聞こうとしていただけなのだが、魔物は肩を落としてしまった。


「とにかく魔族の多くは、生まれながらにして飛翔する能力をもっています。翼は本当はすごく小さいんですけど、飛ぶときは大きくできます。方向を変えたり、急停止するときには便利ですが、概ね飾りと思っていただいて結構です」


 飛翔する能力については、魔族なら多くもつものらしい。そして、翼が無くても飛べることがわかった。翼を失った私としては、もしかすると力を使って飛べるようになるかもしれないと考えたのだが、魔物の説明がいまひとつであるため、コツがつかめそうもない。


「最後に一つ聞きたい」


「へ? もう終わりですか……でも、今度はちゃんと答えられるように頑張りますっ!」


「汝はなぜ、私の後をつけてくる」


「それは、貴方様が魔を総べる者、すなわち魔王であらせられるからです」


 魔物の目がらんらんと輝いている。


「人間が勝手にそう呼んでいるだけだ。私は魔物の王などではない」


「でも魔王様! ボクは――」


「まあ、聞け」


 何か言いたそうな魔物を手で制して、私は自分の身の上を語った。魔物は、まず私が神によって直接創造されたものであることに驚き、次いで大洪水を起こしたことにわずかに眉を顰め、さらに地に堕ちてからのことに話が及ぶと「うう、あんまりです……シャイナちゃんとスレイプニルくんが可哀想ですぅ……」と言って、グスグスと泣き出した。


「と、いうわけで私は魔王でも何者でもない。転生者を殺して、星を救うこと以外に成すべきこともない」


 転生者を殲滅させた後に、私はどこへ向かうのだろうか。ふとそんな考えが頭をよぎった。しかしそんなことは、成すべきことを成した後に考えればいい。


「では、私は行かねばならない。その頑強さならそうそう死ぬこともあるまいが、達者でな」


 謎が解けた私は、ついでに魔物の勘違いも正してやり、北へ向かって歩き出そうとした。しかし、ローブの端を握られた。


「……?」


「待ってください……」


 私は立ち止まって振り返った。魔物の声から、これまでの軽忽さが消えた。それは、森で転生者に叫んでいた時とも違う。ずっと奥底から、まるで魔物の起こりであるという大地の奥底に沈殿した、暗い気の聚合から絞り出すような声だった。


「ボクは……転生者が憎い。ルシウス様も、仲間たちも皆殺されました……」


 下を向いていた魔物は、目に涙を浮かべてはいたが、これまでのような女々しい雰囲気は霧散していた。


「ボクは、ご先祖様たちみたいに星のバランスがどうとかなんて高尚なことは考えてません。でも、あの転生者(ゴミクズ)どもは許せない!」


 目じりに溜まった涙をぐいと拭い去ると、魔物が跪いて私を見上げた。


「得手勝手な願いであることは百も承知です。魔王様とボクとで想いは違えども、目指すは同一と心得ます。しかしながらその頂へ至る道は遠く、小魔が一人で歩むには長大に過ぎます! このレミア・フェレス、我が純血の誇りにかけて、身命を賭してお仕えすると誓います! どうか! 魔王様を主と仰ぎ、転生者を絶滅せんとする、覇道の末席を汚す許しをお与えください!!」


 魔族の礼なのか、跪いて深く頭を垂れ、両の掌を天に向けて差し出した。


「新たな主よ! どうかこの手を取り、誓いが受け入れられんことを!」


 頭を垂れたまま、動かなくなった。


 私は思案していた。もとより旅の供など必要としていないが、星の事情がある程度分かる者がいる方がいいとも思う。


 しかし、だ。


 私と一時期を過ごし、わずかばかりだが心を通わせた者は、皆死んだ。先だって味わった喪失感は、未だに私の心を暗くする。


 この頑強な魔物であれば、私が進む旅路について来られるのだろうか。


 私は、懐に隠しているボロ布に、ローブの上から手を当てた。


「……私は、仲間や配下など欲してはいない」


「……」


 魔物の肩がピクリと動いたが、言を発することはなかった。


「そして、汝が転生者を殺すのを、邪魔をする気もない。私は、私の道を進む。それだけのことだ。だから、顔を上げるのだ」


「魔王様……?」


 レミア・フェレスは眉を大きく下げて、不安を露わにしている。


「汝の進む道が私と同じだと言うのなら、それを邪魔する気もない。ついて来たいのなら、好きにするがいい」


 一瞬目を丸く見開いたのち、にやりと口角が上がり、それを堪えようとしたのか唇を奇妙な角度に曲げて、レミア・フェレスが再び頭を垂れた。


「では! どうかこの手を!」


「取らぬ」


「ええっ!?」


 私は再び、北へ向かって足を踏み出した。今度は少しだけ速度を上げて。


「魔王様……? ちょっと、どうしてそんなに速く歩くんです? 待って、待ってくださいってば――」


 追いすがるレミア・フェレスの声が遠ざかっていく。


 私は、自然と顔がほころぶのを見られまいと、さらに速度を上げた。




 レミア・フェレスが、仲魔になりたそうにこっちを見ている

 無視する

➡光弾をけしかける

 新しいキャラの説明会みたいなものが続いてしまいまして、大変退屈なさっている方もいらっしゃると思います。お詫び申し上げます。

次回『竜を狩る者(ドラゴンキラーズ)襲来』で、ぶっ殺〇!!

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