お見送り
「ダンナ様、しばらくのお別れですね。
これから会えない日が続くと思うと私の身は張り裂けそうです。
どうか私のことを忘れずに思い続けてください。お元気で。」
今日私と騎士様は引き離されます。騎士様は仕事で遠いところに行ってしまうのです。
これからはしばらくは会えない日が続き、そんな味気ない日々を想像するだけで涙が出てきそうです。
騎士様も悲しみで言葉が出ないのか何も言いません。
「ああダンナ様せめてお別れのときぐらい笑顔を見せて。
それだけで私は飛び上がらんばかりに嬉しいのです。そんな私を笑いますか?
笑顔だけでそんなに喜ぶような女だと。
でもそれは違うのでございます。私はあなたのすべてが愛しいのです。
それでもその中でとびっきりあなたの笑顔が好きなのです。お願いでございます。」
私のこの愛の言葉に騎士様は苦笑いしながら言います。
「・・・・・・この茶番にはいつまで付き合えばいいのだ?
いい加減出発の時間がせまっているんだが。」
「ああ私の気持ちを茶番などと言うなんてひどい人。
そんなあなたでも私はあなたのことを愛しているわ。
女はいつでも男に振り回される運命。それでも私はあなたについていくわ。」
馬鹿な女はひどいことを言われながらも一生男につき従う。
それでも女にとって、いえ私にとってはそれが幸せなの。
「いやそもそも会えないのも一週間ぐらいなのだからそんなに大げさにすることじゃないんだが。」
「ああ、あなた乙女にとって恋しい人に会えない一日は幾千、幾万もの夜より長いものなのよ。
だから私にとってはあなたに会えない一週間はどれだけ長く感じることか。ププっ。」
「いやというよりお前笑ってないか?
絶対笑ってるだろう。 もう何も用がないなら行くぞ。」
「ああ待って待って。芝居は終わりにするから。」
ちぇっ、楽しかったのになあ。
というより男に振り回される運命って騎士様女だし。まあいい感じだったからよかったけど。
これで騎士様が芝居に乗ってくれたら最高だったんだけどなあ。
「はあ、それで用ってのはなんだ。」
騎士様が呆れたような視線で用事を聞いていくる。
いいもんここから反撃開始だ。
「ああうん。行ってきますのキスがまだだなあって。」
ピシっ
騎士様はそんな擬音が聞こえてきそうなくらい見事に固まった。
騎士様はフリーズが解けて何事もなかったかのように出発しようとしている。
そうはさせますかっ。
「ああ旦那様私を捨てて行ってしまうのですね。
キスもしてくれないなんて。あんなに愛し合ったというのに。」
「なっそんな人聞きの悪いことを大声で叫ぶなっ。
それに愛し合ったとかはずかしいことを。」
「キスしてくれたらいいですよ。」
「ひっ人目があるだろう。」
「大丈夫です。」
「いや全然大丈夫じゃないんだが。私の羞恥心とかが。」
「大丈夫です。」
「いやだから・・・・」
「大丈夫です。」
「はあ、わかった。」
騎士様も往生際が悪いですね。
騎士様の事ですから最終的にはしてくれるっていうのに。
「じゃっじゃあするぞ。」
そういって騎士様は顔が近づけて私の唇に触れるか触れないかっていうところですぐ離そうとしました。
ふふ、あまいです。
私は騎士様の後頭部をつかんで唇をギュッと押し付けました。
まあおまけで舌もちょっと入れておきました。
遠くで侍女たちの黄色い悲鳴が聞こえます。
騎士様はフリーズしたのか私に口の中を蹂躙されていましたが、
フリーズが解けてあわてて顔を離しました。
ああ、残念。
「ちょっとお前今舌が・・・・・・」
ああ騎士様があわててる。かわいい。
「ふふふ、行ってらっしゃい。私の愛しい旦那様。」
そういって私はおまけで騎士様の頬に軽い口づけをして騎士様を見送ったのです。




