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ある日の学校

ある日の学校 電脳編

作者:

 今日はパソコンを使う授業がある。僕はなんとなく楽しみにしていた。

 パソコンが置いてある教室に入る。机の上にずらりと並んだディスプレイがかっこいい。

 プリントが配られ、席についた僕ら。いよいよ授業の始まりだ。

「先生」

 僕がモニターとプリントを交互にみながら人差し指でキーボードを押していると、後ろの席から落ち着いた声が聞こえてきた。

「ん、どうした柳」

 先生が声のしたほうを向く。一体なんだろうと僕もその方を見た。

「僕、先月から指の皮だけで生活してるんですがどう思いますか?」

 授業中の教室に響いた突然の告白。僕を含めた教室中の視線が一点に集まる。

 その先にいたのは、勉強が出来てスポーツもそこそこ、おまけにかっこいい顔でクラスの人気者になれそうなんだけど、ゆがんだ笑顔で性格の悪さをアピールするせいでそうでもない柳君。とてもじゃないけどそんな事をするように見えない。あまりの事に先生も戸惑い気味だ。

「おお、そうか柳。生きていけるならまあ大丈夫だろう」

 戸惑ってなかった。というかごく普通だ。むしろおかしいと思う。

「いや、待てよ……」

 時間差の戸惑いだろうか。あまりの事にさすがの先生もびっくりして反応が遅れたんだろう。

「指の皮って栄養あるのか?」

 僕が戸惑った。この先生は変だ。

「よし、せっかくだから、指の皮に栄養があるかパソコンで調べる練習をしよう。鈴木、やってみろ」

 なぜか僕が指名された。調べようにもどうしたらいいのか分からない。だいたい指の皮って何。

「どうした鈴木、そういう時はさっき配ったプリントを見るんだ」

 先生の言葉に従ってプリントを見る。授業が始まったときに配られたプリント、先生が自分で作ったと自慢していたプリント、ぱらぱらとめくったら熟女も濡れ濡れとか書いてあるプリント。先生は何を印刷したんだ。

「ん? ああ、間違えてるな。実は先生もパソコン苦手でな」

 先生はたいしたことないといった感じで笑っていた。僕は笑い事じゃない気がしたけど黙っていた。

「えーと、確か検索サイトで調べたい事を入力するんだ」

 僕は言われた通りにやってみた。ボーリングにしわしわに指しゃぶり。指の皮についてますます分からなくなった。

「うーむ、しょうがない。弓塚、手本を見せてやれ」

 先生の言葉にみんなの視線が一点に集中する。その先には学校一の成績を誇る、誰もが天才と認める天災の弓塚さんがいた。

「はい」

 弓塚さんは無表情のまま返事をすると、ものすごいスピードでキーボードをたたき始めた。流れるような手の動き。あまりの速さに指がよく見えない。

「どうだ? 弓塚」

「今、厚生労働省のサーバーにアタック中です」

 弓塚さんはすごい、言っている事がよく分からない。でも厚生労働省は何か違うと思う。

 それからしばらくの間、弓塚さんがキーボードを叩く音だけが教室に響いた。五分もたった頃、パソコンのモニターを見ていた弓塚さんが小さく舌打ちをしてキーボードから指を離した。

「ん、どうした弓塚」

「rootの奪取に失敗しました」

「そうなるとどうなるんだ?」

「明日あたり警察が来ます」

「そうか、警察も大変だな」


 次の日、朝から緊急職員会議があるということで一時間目から自習になった。

 ざわめく教室の中、僕は柳君に昨日の事について聞いてみた。

「ああ、あれ? 暇だったから適当な事言ってみたんだ。なんか大事になっちゃったね」

 性格の悪さがにじみ出てくるような笑顔で柳君はそう答えてくれた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 柳君のキャラが楽しい
[一言] 先生は超真面目で面白かったです。
[一言] 夢をそのまま小説にした様な印象でした。笑えるというよりは感性がイイですわ。
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