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001

 01/25:内容を変えました。ご迷惑をお掛けして申し訳ありません。

 この話では主人公でない人の視点が中心になっています。

 時は既に夜を迎えていた。

 夜風を切るように、ナナイはバイクを走らせる。

 黒と青を配したバイクには、右側にサイドカーが取り付けられていた。そこにはシャルルが腰掛け、愛用の光線狙撃銃を携えている。

 砂煙を舞い上げながら、転がる岩の隙間を通り抜ける。

 ナナイは周囲に目を向ける。視界を邪魔するものはなかった。永きに渡る戦争と魔獣の存在により、大陸は荒れ果てた。そしてこのグラナード王国は、ごく一部を除いて雑草すら生えぬ荒野と化している。

 しばらくして二人の視界に映ったのは、打ち捨てられた街。衰退し寂れてしまった、かつての栄光の残骸だ。

 ナナイはアクセルを強め、ようやく見つけた街へと方向転換する。そのまま二人は、無機質なゴーストタウンへと乗り込む。

 戦争の果てに放棄された高層ビル。床には砕けたガラス片と乾いた砂粒が敷き詰められてしまっていた。日差しと風で半ば崩れたビル群は、巨大な墓標が参列しているかのようだ。

 そんな墓地みたいに暗く静かな街の中に一軒だけ、光を灯した建物がある。

 そして錆びた金属製の扉の前には、分厚いボディアーマーに身を包み武装した見張りの姿。実に分かりやすい目印だった。

「シャルル、準備は良い?」

「万全ですよ」

 シャルルはスティックシュガーを咥えたまま、クスリと微笑んだ。

 無邪気さの中に残虐さを含んだ、酷薄な微笑。少女の無垢で幼い美貌に、退廃とした悪女の蟲惑な色気が滲む。

「皆、わたしが仕留めちゃいましょうか?」

「頼りになるけど、僕の分も残してほしいな」

 ナナイは相棒である彼女の、自信満々な言葉と声に苦笑する。

 幼い外見に反し、優れた演算能力と狙撃の腕を持つ彼女のことだ。おそらく一ミリの狂いもなく撃ち抜いてしまうだろう。

「それじゃ、行ってきますねー」

 シャルルは電子ウィンドウを展開し、無重力プログラムを作動させる。彼女の周囲で電流が走り、艶やかな銀髪がフワリと浮き上がる。

 そのまま立ち上がれば、少女の体が浮遊する。シャルルは慌てることなく、慣れた様子でサイドカーから飛び降り、ビルの一つに身を潜める。

 途中でバイクを停車させ、徒歩で建物に接近する。そのまま突撃しても良かったが、室内の状況がどうなっているか分からない。

 それに、愛車のボディが傷ついてしまうのは勘弁だ。

 あと十数メートルといった距離まで近づくと、ふいに赤い光が建物の壁に浮かんだ。赤い小さな点が、見張りの心臓部へと重ねられる。

 直後、彼の胸に小さな穴が空く。

 防弾繊維性のボディアーマーを易々と突破し、レーザー光線が骨と心臓を貫通した。サーチライトよりも赤い鮮血がこぼれ、彼はその場に崩れ落ちる。

 突如倒れた仲間にもう一人の見張りが目を見開き、声を上げようとする。だが次の瞬間には頭部をレーザーで貫かれ、同じく絶命した。

「さっそく暴れ出したな」

 そう呟くナナイの口元は、緩やかに吊りあがる。

 ナナイは太股に巻いたホルスターから、黒光りする拳銃を抜き取る。

 ベレッタに次いで愛用しているFN。機装している鉄屑共と戦うにはこれが良い。プラスチックで覆われたスライドを引き、セーフティを解除する。

 そして銃をしっかりと構え、扉を蹴飛ばし室内へと突入した。


  ◇◇◇


 彼は椅子に括りつけられていた。

 後ろでまとめられた両手には、鍵穴付きの鉄枷が嵌められている。頑丈なワイヤーでぐるぐる巻きにされ、椅子の上から動けないように固定されている。

「おい、本当にいけるのか?」

 彼を誘拐した一員である、腕を機装化させた男がリーダーの男に尋ねる。

「こんなガキ、人質として使えるのかよ? 俺はまだ半信半疑なんだが」

「いけるさ。何せ現役のエリートだ。技術主義のこの国とユグドラシル相手に効く交渉材料は、『天才』と『情報』だからな」

 くつくつと、男は舌なめずりしながら嗤う。

 周囲にいた男の仲間達も、同じように笑みを浮かべた。彼らの大半は体の一部を機械に変えている。この国では当たり前のことだ。中には脳以外を全て機械に取り替えたサイボーグもいた。これも当たり前のことだった。

 どうしたものか、と彼は内心で焦っていた。

 とうの昔に見放されたこの街には、電脳遮蔽は施されていない。だが男の仲間であるハッカーたちが常に目を光らせているせいで、彼……レダルテは電脳通信を使うことが出来なかった。おそらく彼らは、不審な行動を少しでも取ればレダルテの神経を焼き切り、容赦なく殺すことを選ぶだろう。

 ゆえに、何の行動にも出られなかった。

「にしてももう一日が過ぎるな……本当に大丈夫か?」

「まだ一日だろうが。焦り過ぎると失敗するぞ」

「分かってるさ」

 先ほどの男はよほど短気なのか、何度も同じ言葉を繰り返していた。

 グラナードで生きる者はせっかちな人間が多い。機械に覆われ、時間に急かされるからだろうか。まぁ、敗北し吸収された国の人間が仇の国の文化に染まっているというのは、皮肉めいた笑い話かもしれない。

 そう思っていると、


 古びた鉄錆色の扉が吹き飛んだ。


「……は?」

 唖然としていると、一人の少女が悠々と建物の中に入ってくる。

 背は百六十より少し上だろうか。女性特有の柔らかさを持ちながらも、引き締まったしなやか筋肉を有した体つきをしている。

 肩口で乱雑に切られた髪は漆黒だが、蛍光ランプの明かりに照らされると青く煌いた。髪の黒に比例するように、透き通るような肌は雪のように、血の気を感じない程にやたらと白い。

 フロントにベルトの付いたホルターネックと、細身のズボン。その上から革製のジャケットを羽織っただけの軽装だ。手には拳銃を下げ、腰や太股にはポーチやナイフなどを吊っている。

 そして不思議なことに、彼女から生命の気配を感じなかった。

「君は……」

「おい、何だてめぇ」

 レダルテの声を遮り、誘拐犯であるレジスタンスたちは少女を睨みつける。

「何しに来たかは知らねぇが……丁度良い」

 リーダーである男の目は飢えた獣のようだった。彼は下卑た笑みを貼り付けて、片手を上げて合図を送る。

 ハッカーがすぐさまネットワークに接続し、ホログラムのキーボードを弾いていく。電脳空間から、少女の電脳をハッキングしようとしていた。

 サイバースペースを侵食し、強制的に意識をシャットダウンさせようとしている。レダルテの時と同じやり方だ。レダルテも、これで気を失わされ、こうして拉致されてしまった。

 だが彼らの目的は、あの時とは違う。少女を拉致するのではなく、成熟途中の体を貪るために、彼女の意識を奪おうとしている。

 危ない、と叫ぶよりも先に電光が少女目掛けて走る。

 そして彼女の体を、ウイルスプログラムが襲う――――










 銃声が鳴り響いた。

 ハッカーの一人が血を吹きながら、床へと崩れ落ちる。ボディアーマーに穴が空き、胸部から鮮血が飛び散る。その体は小刻みに痙攣しながら、傷口からじわじわと滲む赤で全身を濡らしていく。

 カラン、と排出された空薬莢が床に落ちて音を立てた。

 拳銃のノズルから、硝煙が一筋立ち上っている。それは少女の手に握られていた拳銃だ。黒い革手袋を嵌めた指が引き金にかけられて、肘をピンと伸ばして構えられているハンドガン。

 ネットに接続などされていない、鋼鉄とプラスチックとポリマー製の銃器。

「な……っ! なん、で動いて……!?」

 誰かの叫びは、その場にいた全員の気持ちを如実に表していた。

 彼らはおそらく、少女がマインドハックで気を失うことを予想していたのだろう。その後、彼女を毒牙にかけようとしていた……それはあの好色な目と低俗な笑みから容易く察せられる。

 だが、現実は予想とは違っていた。

 彼女は気を失うこともなければ、銃を奪われることもなかった。少女はこの国では珍しいことに、人体改造も電脳化もしていなかったのだ。

 それはつまり、彼女が生身の女の子であることを示していた。

「さて、と」

 少女が驚愕する彼らを無表情に見据える。

 顔の中央にはめ込まれた、切れ長いアイスブルーの瞳。底冷えする目に怯えは欠片もない。ただ冷たく、無機質に男たちへと視線を注いでいる。

 視線だけで人が殺せる人種がいたとしたら、間違いなく彼女がそれだ。少女は非常に浮世離れした、黒と青の死人のようだった。

 そんな少女が、花弁のような薄い唇で口ずさむ。

「それじゃあ、始めようか」

 呟きと同時に、少女は床を強く蹴りつけ、弾丸を撃ち放つ。

 正確な射撃だった。弾丸は吸い込まれるように男達の心臓、頭部へと着弾。赤い血が、白い作動液が、そして脳漿が、薄汚れた床に撒き散らされる。それらが混ざって、ピンク色のマーブル模様が出来上がる。

「――――っ全員、撃てぇ!!」

 それからようやく、レジスタンスのリーダーが指示を飛ばし銃器を構えた。手下たちもそれに習って銃口を少女に向ける。

 ノズルがフラッシュし、弾丸が吐き出される。一斉に飛んでいく銃弾の勢いはゲリラ豪雨にも劣らない。

 だが彼女は怯むことなく、飛来する鉛を回避する。

 避ける様は優雅だった。加速装置を用いた機械仕掛けの素早さではない。ただ氷の上を滑るような足運びと、最低限の動きで潜り抜けていく。弾丸は彼女の背後の壁や、電灯のランプへと着弾するだけだ。掠りすらしない。

 ランプが割れて橙がかった白い光が消え、室内が暗闇に包まれる。頼りとなる光源は、硝子の割れた窓から差し込む朧な月明かりだけ。

 そして薄暗い夜闇の中でも、少女には何のハンディキャップにもならないらしい。まるで焦ることなく、冷静に彼らを射殺していく。

「このクソッ……!」

 レジスタンスの一人が、額に汗を浮かべながら舌打ちした。

 それでも彼らは射撃を続ける。そして彼女もトリガーを何度も引く。焦燥を見せる男達と彼女とでは、弾の命中率は比べるまでもない。

 黒髪の少女の銃が、次々とレジスタンスの命を奪っていく。彼女の使っている弾丸は少し特殊なものだった。防弾繊維性のボディアーマーも、スキンで出来た骨やカーボンチューブの筋肉さえも、容易く突破していく。

 すでに半数が、血や作動液の溜った床に沈んでいる。

 リーダーは顔を歪めると、その大口径オートマチックの銃口をレダルテへと向けた。

「武器を捨てろ! こいつのドタマをブチ抜かれたくなかったらな!!」

「…………」

「だ、駄目だ!」

「てめぇは黙ってろ!!」

 少女がセーフティをかけ始めるのを止めようとする。だが彼は銃のノズルをレダルテの額に押し当て、圧力をかける。

 少女は拳銃を床に置くと、両手を上げながら男とレダルテの方へと銃を蹴りつけた。コンクリートと金属が擦れる音を立て、滑走してくる。

「よーし……」

 彼はニヤリと笑うと、手下に合図を送る。

 一斉に機関銃を構え直す彼ら。その顔は勝利を疑っていない。

 見事に人質に使われたことが悔しくて、レダルテは奥歯を噛み締める。そして申し訳なさを感じて、少女に視線を向ける。

 その時、気づいた。


 ――――少女の口角が、釣りあがって笑みを浮かべていることに。


 気づいた直後、血飛沫と脳漿が飛散する。

 側頭部を打ち抜かれ、スローモーションかと思う程ゆっくりと、その体は倒れていく。

 レダルテに銃を突きつけていたレジスタンスのリーダーが死亡した。

 彼らは目を見開き、射殺された彼へと視線を注ぐ。

 レダルテも同じく観察していたが、すぐに視線は痙攣を繰り返す死体から、硝子が砕けて意味をなさなくなった窓へ移動する。

 照らされるものがないゆえの、常闇の中。そのある一点に、見過ごしてしまうほど小さく赤いライトが点灯していた。

 発砲音はしなかった。今のは弾丸によるものではない。おそらくはレーザー狙撃だ。今の威力から察するに、空気中でも分散しにくい炭酸ガスレーザーを用いたものだろう。

「リスタートだ」

 レダルテがそう認識するまでの間に、ハスキーな声が鼓膜に打つ。

 少女が黒髪とジャケットを揺らせながら、駆け出す。

 軽やかな動きで敵の一人に接近し、ハイキックをみまう。無骨な安全靴の爪先が、しゃくれた顎を蹴り上げる。続いて、金属補強された踵部が仰け反った後頭部へと振り下ろされる。首がへし折れる音がした。

 次に左足を軸にして、隣にいたそいつのわき腹に回し蹴りを放つ。がは、とそいつの口から空気と唾液が吐き出される。収縮した肺の中央に、腰に提げられていた鈍色のナイフが突き刺さる。今度は血を吐き出し、事切れる。

 血を振るい落としながら、少女がナイフを片手に再び疾走。背を低め駆ける姿は優美な飛燕だが、威風堂々とした様は獲物を狙う鷹だ。次々と命を刈り取る刃は、能あるものの鋭い爪といったところか。

「くっ、このアマ……」

 頭を殺され、全員の頭に血が昇っているようだった。もうなりふり構う余裕もなく、ただ弾丸で彼女を吹き飛ばそうとしている。

 だが引き金を押しても、発砲音が響くことはなかった。

「なにっ……!?」

 瞳孔の開いた眼が、青緑の電光をまとわりつかせた銃に向けられる。接続したネットワークを切られ、安全装置が強制的にロックされていた。

 彼女は一人ではなく、仲間がいる。おそらくはハッカーだ。だがその場にいる全員の銃と機装を停止させた腕前は、彼らの連れたハッカーたちとは比べ物にならない。ウィザードにも匹敵する程だ。

 勝てる相手じゃない。ようやくそれを思い知った男たちは、蜘蛛の子を散らすように逃げようとする。無防備になったうなじに、ゆらりと死を体現する少女がナイフを突き刺す。

 最後の一人は、レダルテの足元で転がる拳銃へと飛びつく。

 先ほど放り出された、彼女の銃。たしかネットに接続されていない骨董品だったはずだ。電脳空間を支配されたこの場でも、使えるはず。

 彼は銃を掴み取ると、セーフティを外そうとする。かじかんだように震える指先と、脂汗を浮かべる顔。それでも引き攣った笑みが張り付いている。

 ようやく安全装置を外すと、男は嬉々とした表情で銃を彼女に突きつけようとした。

 その首筋の血管を、小さな刃が抉る。

「が、はっ……」

 動脈から噴水のように吹き出る血飛沫。それが付着したプッシュダガーを抜き取り、拭ってからベルトに戻した。

 銃声が響き続けた室内が、ようやく静寂に包まれた。

 彼らはなす術もなく、幽霊や影のような少女に殺された。

「はい、終了」

 ハスキーな声が戦いにも成らぬ虐殺の終わりを告げ、拳銃を拾う。そしてナイフも鞘にしまい、黒髪を指で払う。

 レダルテは改めて、少女を見つめる。

 彫りの浅い、東方系の容貌。凛々しさを感じさせる中性的な目鼻立ち。

 睫毛に縁取られた薄青の瞳は凍てついていた。目元に帯びた鋭さが険を感じさせ、抜き身の切っ先のようでさえある。

 人を殺したにも関わらず、彼女の顔には一欠けらの感情も浮かんでいなかった。だがそれが彼女にとっては当然なのだと納得してしまう程に、少女は人という範疇から離れているように思えた。

 窓から差し込む月光に照らされた彼女は、人というよりも死者に近い。

「君は……!」

 だが不思議と恐怖を感じなかった。むしろ懐かしさすら覚え、同時に喜びさえ湧き上がり、心の中を満たしていく。

 何故なら、彼女は……。

「あのさ」

 カツン、と無骨な安全靴が大袈裟に音を立てた。レダルテの考えや、こちらが言おうとした言葉を拒絶するかのように。

 少女は黒髪を揺らせながら歩みよると、釣り上がった目で見つめる。

 その表情は先ほどの亡霊じみたものではない。割と整った顔を不機嫌そうにした……それ以外は普通に見える少女のそれだった。

「あんたが、レダルテ・スパニッシュで……合ってるよね?」

「そ、そう……だけど」

 頷くと、彼女は腰の後ろに手をやる。

 取り出したのは、ピックのような細長い針状のナイフ。そしてナイフを携えて、レダルテの背後に回った。

「え、ちょっ」

「動くな。刺さるぞ」

 鋭い声とその内容に、身じろごうとした体を硬直させる。

 少女は「ちょっと待っときなよ」と言うと鉄枷の鍵穴にナイフを差込んだのか、カチャカチャと無機質な音を立てる。

 そして一分も経たぬ間に枷が外れた。続いてワイヤーを切って拘束を解く。

 ようやく身動きを取れるようになったレダルテは、少女を見つめた。

「えっと、君は?」

「僕は金で雇われた何でも屋……とでも思っといて。ユグドラシルの上層部から、あんたを助けろって依頼された」

「ユグドラシル……」

「どうして世界樹があんたを助けたのか分かるよね。といっても、こっちからすれば本題のついで的な感じなんだけど」

「つ、ついでって」

「事実だもの」

 少女はそう言い切ると、細長い刃物を鞄をしまった。

「んじゃ、行くよ。ついて来て」

「あ、うん」

 彼女に言われて、一緒に建物を出る。

 数分歩くと、物陰にサイドカーを取り付けた一つのオートバイがあった。黒に青を配した、スタイリッシュなデザインだ。

「ナナイさん、終わりましたー?」

 サイドカーに座る銀髪碧眼の少女が、手を振りながら彼女をそう呼ぶ。

「ナナイ……?」

「シャルル。報告は終わった?」

「はい。報酬はギンシュにある開発局から支払われるみたいです」

「渋られなかった? 研究費が削られるって」

「いいえ。元の領土を返せと脅されるより、遥かにマシだと言われましたー」

「あいつら、人質一人で、そんなこと出来ると思ってたの? 馬鹿だろ」

「馬鹿で無力だから、侵略されたんじゃないですか?」

「ああ、なるほど」

 納得したようなナナイの言葉に、少女ことシャルルはゴーグルを掛けながら無邪気に笑う。その腕にはメカニカルな狙撃銃が抱えられ、頭には多機能性のヘッドギアをしていた。

 狙撃手とハッカーの二人がいるのかと思っていたのだが、どうやら彼女が狙撃手兼ハッカーであるようだった。

 自分より幼そうな少女があんな離れ業をしたのかと、呆気にとられる。そんなレダルテを他所に、ナナイはオートバイの座席を開けてゴーグルとヘルメットを取り出した。

 そしてサイドカーに積まれていた別のゴーグルとヘルメットを、渡される。

「はい、あんたの分。このまま街に向かうけど、徹夜でいける?」

「だ、大丈夫だよ。ありがとう」

 頭を下げた後、レダルテは彼女を見つめる。

 艶やかな黒髪とすっきりとした顔立ち。

 そして鋭い目元が特徴の、薄青い目を。

「……何?」

 先ほどナナイと呼ばれた少女は、怪訝そうに眉を潜める。

「ううん、なんでもない」

 やはり気のせいなんだろうか。少し落胆して首を振る。その様子にナナイはまた眉をひそめたが、少しすると視線をレダルテからバイクに移した。

「さて……行くか」

 ナナイはヘルメットをゴーグルをして、バイクに跨る。後ろに乗れとジェスチャーされ、レダルテは彼女の後ろに腰掛ける。

 そうして、バイクは夜道を走り出す。


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