(6) 襲撃
宿に帰り着いた2人が部屋に入ると、男はすでに息を引き取っていた。
「おっちゃん!」
シシタカが男を揺り動かすも反応はない。
「くそっ。おっちゃん、なんてことだい……」
「シシタカや、水主どのは寿命だったのですよ。かつての仲間にあやめられるより、こうして静かに息をひきとれたことはよかったではないですか」
「いや、殺されたんだ、おっちゃんはあいつにやられたんだ。ちくしょう……」
涙を浮かべ唇をかむシシタカを母の腕がそっとつつんだ。
2人は男の亡骸に手をあわせたのち、行李を開けた。
中には切銀や渡来銭のみならず、金判・銀判もあり、かなりの銭がはいっていた。しかし、地図はみつからない。
「地図は…… ないね」
シシタカと母は顔を見合わせた。すると
ヒュー! 指笛を鳴らす音が聞こえた。
「なんと、もう来たようですね。もうしばらく時間はあると思ってましたが。シシタカやあなたは行李をもって逃げなさい」
「えっ。おっかあはどうするんだい」
「わたしは残ります」
ドンドン!ドンドン! 戸をたたく音が聞こえてきた。
「おっかあ、僕も残るよ」
ドンドン! 「おい、開けろ! 開けないと戸をたたき壊すぞ!」
「いいのです、水主どのも亡くなりました。話しをすればわかるでしょう。ただ、その行李を渡すことだけはできませぬ。お約束ですから。あなたはその行李をもって裏からいきなさい」
そう言うと、母は戸を開けに向かった。
シシタカは仕方なく裏手に走った。
しかし、裏手からでようとすると、松明の火が揺れているのが見えた。逃げ出す者がいないか見張っている者がいるようだ。シシタカは行李を手に納屋に身をひそめた。
母が戸をあけると、眼帯の男が数人の男を従えていた。男どもはいきりたっている。
「ぬ。おかみ、失礼するぞ」
母を押しのけ入ろうとする。
「おまちくだされ。ここは我が家でございます。ご用件をお伺いいたしましょう」
眼帯の男は「ほうっ」と感嘆の声をあげた。
「さんのじがおろう。やつに用がある」
「いまこの宿にご逗留中のかたは水主どののみでございますが、水主どのはいましがた亡くなられました」
「なんだと」
「はい。つい先ほど」
「まことか。いい加減なことを言うとただではおかぬぞ」
「お疑いでございましたらこちらへどうぞ。ご案内いたしましょう」
母は男たちを、亡骸のもとへ連れていった。
「ぬうう。さんのじめ、いきよったか」
眼帯の男はしばし亡骸をながめたのち、突然遺体の服をはぎとり始めた。
「あ! なにをされまする」
「おめえら、探せ!」
男達は部屋の中をあちこちあらため始めた。
「おかみよ、そなたなにか知らんか」
「なにをでございますか」
「おかしいであろう、こやつの持ち物はどこだ。荷物がどこにもないではないか」
母は押し黙った。
「ええい、野郎ども、家捜しだ! 外のやつらも呼んでこい。探せ、絶対に探し出せ!」
男どもは家じゅうの戸棚を荒らし、天井をはがし、壁を叩きはじめた。
「ああ!なにをするのですか!」
「ええい、うるさいわ。おい! 女を放り出せ!」
母は手荒く外に放り出され、地面にしたたか打ち付けられてしまった。
家の中からは、壁や床を打ち壊す音が聞こえてくる。
へたりこんだ母のもとへ影が忍び寄ってきた。
「おっかあ、もうどうしようもないよ、逃げよう」
シシタカと母は村へ向かって駆けだした。