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武の国の物語  作者: なみ
第一章
6/18

(6) 襲撃

 宿に帰り着いた2人が部屋に入ると、男はすでに息を引き取っていた。


「おっちゃん!」

 シシタカが男を揺り動かすも反応はない。


「くそっ。おっちゃん、なんてことだい……」

「シシタカや、水主どのは寿命だったのですよ。かつての仲間にあやめられるより、こうして静かに息をひきとれたことはよかったではないですか」

「いや、殺されたんだ、おっちゃんはあいつにやられたんだ。ちくしょう……」

 涙を浮かべ唇をかむシシタカを母の腕がそっとつつんだ。


 2人は男の亡骸(なきがら)に手をあわせたのち、行李を開けた。

 中には切銀や渡来銭のみならず、金判・銀判もあり、かなりの銭がはいっていた。しかし、地図はみつからない。


「地図は…… ないね」


 シシタカと母は顔を見合わせた。すると


 ヒュー! 指笛を鳴らす音が聞こえた。


「なんと、もう来たようですね。もうしばらく時間はあると思ってましたが。シシタカやあなたは行李をもって逃げなさい」

「えっ。おっかあはどうするんだい」

「わたしは残ります」


 ドンドン!ドンドン! 戸をたたく音が聞こえてきた。


「おっかあ、僕も残るよ」


 ドンドン! 「おい、開けろ! 開けないと戸をたたき壊すぞ!」


「いいのです、水主どのも亡くなりました。話しをすればわかるでしょう。ただ、その行李を渡すことだけはできませぬ。お約束ですから。あなたはその行李をもって裏からいきなさい」

 そう言うと、母は戸を開けに向かった。



 シシタカは仕方なく裏手に走った。

 しかし、裏手からでようとすると、松明(たいまつ)の火が揺れているのが見えた。逃げ出す者がいないか見張っている者がいるようだ。シシタカは行李を手に納屋に身をひそめた。



 母が戸をあけると、眼帯の男が数人の男を従えていた。男どもはいきりたっている。


「ぬ。おかみ、失礼するぞ」

 母を押しのけ入ろうとする。

「おまちくだされ。ここは我が家でございます。ご用件をお伺いいたしましょう」

 眼帯の男は「ほうっ」と感嘆の声をあげた。

「さんのじがおろう。やつに用がある」


「いまこの宿にご逗留中のかたは水主(かこ)どののみでございますが、水主どのはいましがた亡くなられました」

「なんだと」

「はい。つい先ほど」

「まことか。いい加減なことを言うとただではおかぬぞ」

「お疑いでございましたらこちらへどうぞ。ご案内いたしましょう」


 母は男たちを、亡骸のもとへ連れていった。


「ぬうう。さんのじめ、いきよったか」

 眼帯の男はしばし亡骸をながめたのち、突然遺体の服をはぎとり始めた。


「あ! なにをされまする」


「おめえら、探せ!」


 男達は部屋の中をあちこちあらため始めた。


「おかみよ、そなたなにか知らんか」


「なにをでございますか」


「おかしいであろう、こやつの持ち物はどこだ。荷物がどこにもないではないか」


 母は押し黙った。


「ええい、野郎ども、家捜しだ! 外のやつらも呼んでこい。探せ、絶対に探し出せ!」


 男どもは家じゅうの戸棚を荒らし、天井をはがし、壁を叩きはじめた。


「ああ!なにをするのですか!」

「ええい、うるさいわ。おい! 女を放り出せ!」


 母は手荒く外に放り出され、地面にしたたか打ち付けられてしまった。

 家の中からは、壁や床を打ち壊す音が聞こえてくる。


 へたりこんだ母のもとへ影が忍び寄ってきた。

「おっかあ、もうどうしようもないよ、逃げよう」

 シシタカと母は村へ向かって駆けだした。

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