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武の国の物語  作者: なみ
第一章
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(4) 秘密

 一刻ほどたち、日も落ちはじめた頃、村に働きにでていたシシタカの母親が戻ってきた。


「おっかあ!おっちゃんが倒れたんだ」

 男は布団の中で、大量の汗をかきながら悶え苦しんでいた。


「これはどうされましたか!」

「お、おかみさん、わ、わしも…… もうダメですわい……」


 母は男をじっと見つめ、静かに言った。

「なにか欲しいものはありますか」

「さ、さけを」


 母はわかったとうなずいた。

「お、おっかあ、なにするんだい。おっちゃん、やばいよ、酒なんか飲ませたら……」

「いいのですよ。いいのです。さあ、シシタカ、ジロウ、水主(かこ)どのを起こしてあげなさい」


 男の口に酒を注ぎこみしばらくすると、男の汗はひきはじめ、苦悶の表情もやわらいだ。

「か、かたじけない」

 男はふーっと息を吐いた。


「われらに何か言い残すことありますか」

 (言い残す?)シシタカが顔をみると、母は穏かな笑みを浮かべそれは優しげな目で男を見つめていた。


 男も悟ったのであろうか。

「そ、それでは、聞いていただけますか」

 ぽつりぽつりと倭寇として多くの命を奪ってきたことへの懺悔の言葉を並べ始めた。「仕方なかったんや」「わしも生きていくのに必死だったんや」ひとしきり語ったあと、誰へともなくつぶやいた。


「どうか許されよ」


「おかみさん、わしはいままで懺悔などしたこたなかった。じゃが、いまこうして聞いていただき、許しをこうて、ほんま楽な気持ちになりましたわ……」

「ついてはもう一つ…… これまで誰にも言わなかったことです」




 男が切れ切れに語ったのは、おおむねこのようなことだった。


「あの日、わしらの船団は泉州の沖合におった。泉州は南シナにある大きな港で、貿易船が集まってくるんや。沖合で網を張っていたところに大きな船がやってきた。ムスリムの船やった……


 ムスリムっちゅうのは、シナのそのまた西の彼方にあって、ムスリム人は目の色から服装からわしらとはまったく違う。同じ人間とは思えぬほどや。わしらもムスリム船を襲うのは初めてやったが、果敢に戦い、かなりの損害を被ったもののなんとか船をのっとることに成功した。


 そしたらな…… 信じがたいほどの金銀を積んでいたんや。シナ船が積んでいるぶんの100倍には達する量じゃ。わしらは狂喜乱舞やった。


 そうやったが、それがいかんかった……


 倭寇は、取り分について、細かい取り決めがある。基本は山分けやが、船を借りている場合は、船主の取り分もあるし、戦いで死んだ者にもその取り分を家族に贈ることも決まっている。それに船団の資金としてとっておかれ、分配されない部分もある。後でもめることがないように、細かく決まっているんや。


 今回ばかりは額がでかすぎた。財宝を独り占めしようとする(やから)がでてきたんやな。そのような者がでてきたが最後、みんな疑心暗鬼となり、内部争いが始まったんじゃ。だいたいは船ごとに徒党を組むことになった。わしは船団の(かしら)(くみ)したわ。頭は最後まで取り決めどおりに分配することにこだわり、もめてる間は各船には分け前を渡さなかった。それが余計に疑心を生んだのやろな。各船から一斉に猛攻撃を受けることになった。わしのこの口の傷もそのときに負ったものや……


 わしらは際どく撃退して逃げたのだが、多くの水主がやられ、船も傷んでいたため、倭国までたどりつける見込みもなく、ある無人島に財宝を隠したんや。 隠したのちに、他の船に追いつかれたが、財宝はもうない。怒り狂ったやつらに頭とわしは捕らわれて過酷な拷問をうけることになった。


 わしは隙をみつけてなんとか逃れることができたが、頭は高齢でもあり、拷問に耐えきれなくなって死んでしもうたという話しだ……


 それ以来、わしの逃げる日々が続き、ついにはここまでたどり着いたということなんや」



「ということは、さっきの眼帯のやつはおっちゃんを追ってきた海賊なんか」

「そいうことやな……」

「あの黒札は?」

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