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武の国の物語  作者: なみ
第二章
14/18

(5) ジロウの意地

 シシタカと狩人の小さな一行は川を渡っている。

「ここでサーにぃと出会ったんだねぇ」

「そうであったの。あのときシシタカは海賊に追われておって」

「サーにぃはジロウに連れられて…… 実はさ、ジロウがね。あっ! ジロウ!」


 川の向かいにジロウが立っていた。仁王立ちである。

「やいシシタカ! おらを連れて行け! お宝を独り占めなんてずるいぞ!」

 腕を振り回しながら叫んでいる。


「サーにぃ、ここ3日間ジロウはずっとあの調子なんだ。毎日やってきては連れていけって」

「ふむぅそれは困ったの。領主様が許さぬであろう。

 おいジロウよ、この旅には危険が伴うのだ。わたしはシシタカを守るよう仰せつかったが、さすがに2人は無理だ。あきらめよ」

「なんだよサーにぃまで! おらが声をかけたからサーにぃも宝探しに行けるんじゃないか。おらがいなけりゃサーにぃなんていまも山をさまよってるだけさ」

 いつのまにかジロウが狩人を助けたことになっている。狩人は苦笑しつつ

「いいやまかりならん。そのかわりわたしの取り分はそなたにやろう。わたしたちが戻ってくるのを大人しく待っておれ」


「ダメだダメだダメだ! おらがいなけりゃシシタカは海賊にやられてたし地図も奪われてたんだ。おらがいなきゃ宝もみつかりっこないんだ。おらを連れてけ! この薄情者! ろくでなし! とうへんぼく! あたまでっかち! 卑怯もの! あんぽんたん! おたんこなす!」

 ジロウはありとあらゆる罵詈雑言を立ち去る2人に投げかけた。


「よくぞあれだけの言葉かでてくるの」

 狩人は妙なところで感心している。

「ジロウは口がたつからね。あっ! ジロウがついてくるよ!」

 なんとジロウが後ろをついてくるではないか。

「よいよい、捨て置け。カスムまでは1泊の距離だ。さすがに途中であきらめるだろうよ」



 半分の行程まできたところで日も暮れ2人は野宿することとした。

「ジロウは途中でいなくなっちゃったね、あきらめたのかな……」


「ところでサーにぃ、今晩はえらい冷え込みそうだね。この焚き火か消えたら寒くて我慢できないかなあ。どうやって寝るんだい?」

「うむ」

 狩人はウマカモの荷鞍からなにやら取り出している。

「これはの、カモシカの毛皮でつくった寝袋だ。わたしたちは山を旅するときはこれに入って寝るのだ。まあ山で生きる狩人はこれぐらいの寒さなら寝袋は必要ないがな。そなたが使うがよかろう。入ってみよ」

「うん。うわあ! くっせー」

 寝袋は猛烈な臭いを発している。しかしとにかく温かい。シシタカは臭いに悩まされたもののいつの間にか眠ってしまった。



 パシャリ

 枝を踏みしめる音がする。


「うむ、来たか」

 なんとジロウが木陰から現れた。

「な、なんでえ、お、おらが、つ、ついてき、きてたのし、しってたのかよ」

 寒さで震えて歯がかちかちなっている。

「うむ。途中であきらめたとシシタカは思っていたようだがな」

「ち、ちぇっ。せ、せっかく、に、にちょうは離れて追いかけてきたのにな。と、とにかく、お、おらあ薄情もののおめえらには世話にはなりたくねぇ。た、ただ……」

「ただ?」

「さみぃんだよ! た、焚き火にあたらしてくんろ」

 ジロウはそれっきり口を真一文字にむすんで火にあたっている。


「おし、体もあったまったし、おらいくぞ」

「まてまて、どこで寝るのだ? 寒さで震えていたではないか。焚き火のそばで眠るがよい」

「だれがおめえらのそばなんかで寝れるかい! おめえらの世話になんかならねぇよ」

 焚き火にあたることは別らしい。ジロウは林の中に消えていった。


 しばらくして狩人が息をひそめ林の中を探してみると、ジロウは落ち葉に身をくるめ震えながら眠っていた。

(ふむ、ここまでついてくることや、意地をはるところもなかなか見どころはある。連れていってやりたいのは山々だが。はてさて)

 狩人は上着を脱ぎ、そっとジロウにかけてやった。




 領主様のお屋敷に到着した一行は滞りなく奥の間に通された。

 シシタカたちがしばし待っていると、領主様が息子と門番と長身の男を連れて入ってきた。


「こ領主さま、シシタカ参りました」

「おお、よくぞまいった。こちらも金策や通行手形などの用意がようやく整ったところじゃ。こたびの旅に供する者をそちたちにも紹介しておこう。こちらが雲海じゃ」

「雲海でござる」

 門番がお辞儀をした。

「あのときの門番さんだね」シシタカが嬉しそうに言った。

「おお、そうじゃ雲海は見知っておったの。こちらはどうじゃ。相乗という」

「相乗でござる」

 雲海の隣りにいたほっそりとした長身の美男子がお辞儀をした。


「この二人はの、我が家中きっての武辺者で、雲海は棒使い、相乗は弓衆じゃ。我が国でその道で二人の右にでるものはおらぬ。我が国いちということは日本いちということでもある」

 領主様の国で一番すなわち日本いちというのはどうかと思うが、領主様は武に秀でることを誇りとされているようだ。


「そしての、我が息子シゲムは剣術を得意としており、雲海も相乗も剣の扱いにおいてはシゲムにかなわぬ。つまりシゲムは日本いちの剣づかいということよの。はっはっは」

「そういうわけでそちらも安心して旅にでるがよい。じゃが、ゆめゆめ油断するな。いくら一騎当千の強者ぞろいとはいえ、幕府は多勢じゃ。かなわぬときは逃げるも勝ちじゃ。こころして行け」

「ははっ!」


「ところでご領主様、僕の親友でジロウという者がいるのですが、一緒に連れていってもらえぬでしょうか」

 唐突にシシタカが言った。

 

「まさかおぬし、そのジロウとやらに財宝のことを明かしたのではなかろうな」

 シゲムが恐ろしい目つきで言った。


「あ、いや、そ、そうではなくて、僕が旅にでると話したら、い、一緒にいってみたいと」

 シシタカの口調はあまりにも頼りなく、狩人は冷や汗が流れ出るのを感じた。


「ふむう、他の国を見てみたいのじゃな。わかるぞ。幕府による禁令で領民は故なく領国からでられね。このような、ちっぽけな国からでられぬとはなんとつまらぬことであるか。かつては広大な領土を誇った我が国であるのにの。領民には誠に苦労をかけておる」

 どうやら心やさしきご領主様はいいように解釈されたらしい。目には涙さえ浮かべている。一方シゲムはいぶかしそうな目つきでシシタカを見つめていた。


 (ふむ。シゲムどのはご領主様よりきれると見た。冷徹な面もあるようだが、乱世にあってはシゲムどののようなかたのほうが国を富ませることができるのであろうか)などと狩人は考えていた。


「じゃが、連れてはいけぬぞ。理由はいわずともわかるなシシタカよ」

 領主様は断をくだした。

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