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武の国の物語  作者: なみ
第二章
10/18

(1) カスムの町

 領主様がいるカスムの町は、山をへだてており、通常であれば1泊はかかる距離である。

「案ずるなかれ、ウマカモは夜でも平気じゃ」

 狩人はシシタカと行李をウマカモの背に乗せ駆け出し、翌朝にはカスムに着いた。


 カスムの町の一番奥に領主様の屋敷はあった。白塗りの壁が続く様は、田舎とはいえさすが領主の屋敷である。

 門には坊主頭の大きな男が棒を片手に立っていた。


「私は狩人のサーヘルモウニシャクニムと申す者でございます。ご領主様にお目通り願いたい」

「ご用件はいかに」

「む、それはここでは申し上げられませぬ。直接ご領主様にお話ししたい」

「客人、たいへん申し訳ないが、ご用件をお伺いせぬとお通しはできないのだ」

「急ぎの用なのだ。頼む!」

「いかんともしようがない。最近はなにかと物騒での」


「ハマの村のシシタカにございます。ご領主様に大事なお話しがございまして、夜通し駆けてまいりました。なにとぞ会わせてくださいませ!」

「む・・・ そなた、夜通し駆けてきたのか」

 門番はシシタカの目をじっとみすえた。

「して、そなたの父の名は?」

「父はおりませぬ。母はシノと申します」

「シノどのであるか…… よかろう、参るがよい」


 こうして二人は中に通された。



 門番はシシタカと狩人を客間に案内したのち、奥の間に入っていった。

 奥の間では領主様が若武者相手に何やら談じていたところである。

 領主様はもう初老であろうか、頭髪はうすく、鼻の下にたくわえた髭もかなり白んでいる。恰幅はよく、いかにも人のよい丸顔をしている。


 門番が領主に告げた。

「ご領主様、ただいま、ハマの村のシノの息子のシシタカという者が得たいの知れぬ武者を連れて参っております。なにやら危急の用があるとか」

 領主様の傍らに座っている若武者が声を荒げた。

「雲海よ、得たいの知れぬ者を通すとはどういうことじゃ。隠密がはいったかもしれぬという噂があるのがわかっておるのか」

「は、それは重々…… ただ、シシタカという小僧の様子がただならぬものだったゆえに……」

「ふむ、まあよい。ハマの村のシノといったの、ちょっくら覗いてみるか」

 領主様は鷹揚に立ち上がり、シシタカたちが控えている間をこっそり覗きにいった。


 しばし覗いていた領主様の顔はなにか笑みをかみ殺したような泣きそうな変な顔になった。

「わかった。あの者どもの話しを聞こう」

 そう言うといそいそとそのまま部屋へ入っていってしまった。


「ほうほう、その者どもよく来たな」

「ハマの村のシシタカにございます」

「狩人のサーヘルモウニシャクニムと申します」

「ふむ・・・」

 領主様はまじまじとシシタカと狩人の顔を見つめている。

「ほう……」と言ったっきり、黙ってしまった。


「本日は、ご領主様にお伝えしたき儀がございまして参りました。詳しいことはシシタカがご説明しますが、内密の儀でありますゆえ、お人払いを願いまする」

 狩人に促され、領主様は門番やお付きの小姓たちに退出を命じた。小姓たちはそれはなりませぬ、と抵抗したが、領主様の「よいのじゃ」の一喝のもと退散していった。

「これでよいかの? こちらは息子のシゲムじゃ。息子は傍らに置いても構わぬな」

 さきほど門番をとがめた若武者を指しながら領主様はにこにこしている。


 シシタカはことの成り行きを語った。



「それはなんとも奇態な話しであるな……」

 話しを聞き終え、領主様は驚いている。

「じゃが、先ずは狩人どのにお礼を申そう。我が領民が危ういところを助けていただき誠にかたじけないことでござった。それにシシタカと申したか、怖い目にあわせてしもうたの。許せよ」

 領主様が頭を下げたものだから、シシタカも慌てて平伏した。

「しかし、さきほどの話しが誠だとすればその行李の中に地図があるというわけか……」


 領主様と若武者はうなずきあい、行李を開けた。

 若武者が脇差しを抜き、行李の底を丁寧に切り取り始める。

 シシタカと狩人は固唾をのんでその(さま)を見ていた。


「あったぞ」

 若武者が布きれを3枚取り出した。


 シシタカが、飛び上がって駆け寄ると、若武者は丁寧に布きれを広げて畳に置いた。


 無人島の場所を標した布

 宝を秘した場所を示した布

 そして、宝の分量を記した布があるではないか……


「なんとこれは驚いた。この財宝の量が誠とすればとんでもないことである」

 領主様がつぶやいた。


「やっぱりおっちゃんの話しはほんとだったんだ・・・

 財宝はほんとにあるんだ!南海の無人島に!

 ご領主様、どうされます!? 財宝探しにいかれますか!?」


「はて、そうじゃな……」

 領主様はそれだけ言うと、息子とともに奥の部屋に引っ込んでしまった。

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