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武の国の物語  作者: なみ
第一章
1/18

(1) 奇妙な男

 ハマは小さな漁村だ。

 村のはずれに宿がある。

 うらびれた漁村を訪れる者はほとんどいないが、古くから馴染みの船乗りが定期的に宿としてくれるため、母とその息子はなんとか宿を営んでいた。


 息子は11,12歳であろうか。宿の掃除をしながら母と話しをしている。

「おっかあ、昨日までは十兵衛さんたちがいたから忙しかったけど、急に暇になったねぇ。次のお客さんはいつだい?」

「10日後に予約が入っているけどそれまでは予定なしだねぇ」

「それじゃあおまんま食い上げだね」

「ほっほっほ。よいではないですかシシタカよ。そんなに儲からなくても生きていくだけの実入りがあるだけましなほうですよ」

「そうはいってもなあ……」


 ドンドン! 戸を叩く音が聞こえた


「へいへーい、どちらさんだい」

 シシタカが戸をあけると異様な風貌の男が立っていた。


 男は、(まげ)を結っておらず、塩にあたった縮れ髪が伸び放題。黄色く膨れあがった顔は傷だらけであり、口元に大きな傷を負っているためか口は半開きである。水主(かこ)の着物を丁寧に着こなしているが、古くすり切れたあとを消すことはできずみすぼらしい。傍らには大きな行李(こうり)を置いている。そして、左腕がなかった。


「へ、へい。い、いかがいたしましたか」

「いかがもどうかもあらへん、しばらく宿をかりたいんや」

 シシタカは異様な風貌に圧倒され、返事ができなかった。

「なんや、金を心配しとるんか」

 男は懐からなにやらとりだし、シシタカに渡した 。

「前金としてぼんに渡しとくわ。足りなくなったら言うてくれ」

 渡されたのは粗末な切銀(きりぎん)であったが、1週間分の宿代にはなろうか。

「ほな、泊まらしてもらうで」

 男は行李を抱えズカズカとあがってきてしまった。


「はいはい、ようこそいらっしゃいませ」

 母が愛想良く迎え入れ、男の宿泊生活が始まった。




 妙な男である。

 男は離れには泊まりたがらず、母屋(おもや)の奥の部屋を指定してこもったまま、ひがな一日部屋からでてこない。シシタカに酒を買いにいかせては酒浸りである。


「おっかあ、あの人、なんかおかしいよ。部屋からでてこないし酒ばっかり飲んでてさあ。おまけに酒代はつけだしね」

「そうだねぇ、まあそのうち酒代も払ってくれるだろうよ」

「あの行李(こうり)には大金がはいってるのかなあ。お酒を運び入れるときに行李につまづいたらさ、すっげえ怒られてさあ。二度と行李に近づくんじゃないってね。それにね、なんか窓をみたりしてキョロキョロして落ち着かないんだよ。なにかに怯えてる感じで」

「あの人ねぇ…… 病気だよ。もうあまり長くないんじゃないかね。あたしもお泊めするのはどうかと思ったんだけどねぇ、病人に冷たくすることもできないじゃないか。だから好きなだけ泊めてあげて好きなことさせてあげたらと思ってねぇ」

「そっかあ……」


 シシタカは母に言わなかった秘密があった。

 男は来た日にシシタカにびた銭を渡しながら言ったのだ。

「ぼん、頼みがあるんや。わしを訪ねてくる怪しいものがおらんか見張ってて欲しいんや。怪しいやつがきたらすぐに知らせてくれ。ちゃんと見張ってくれたらこのびた銭を1日に1枚やろう。頼んだでぼん」

 シシタカはいい小遣い稼ぎになると引き受けたのだった。



「おい、ぼん、ちゃんと見張ってくれてるか」

 シシタカが酒を運び込むと男が聞いた。

「うん、ちゃんと見張ってるよ。扉の横に小窓があるだろ。お客はそこから必ず確認するようにしてるし、町のほうから誰かこないかいつも気にしてるよ」

「そうかそうか。水主(かこ)には特に注意してくれよ。では約束だ。銭をとっておけ」

 見張り代の払いは気前がよい。

水主・・・船乗りのこと。水夫とも

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