第三話:Confession et regret and Next ray
どうも、これで二回目の担当とさせていただきます、グリモアです。しばしのお付き合いを、よろしくお願いします。
どうやら、運命というモノは酷いモノでございます。幼馴染である少年、少女は、同じ魔術師として戦う運命にあるのです。
しかし、彼らは共闘する道を選びました。その判断が吉と出るか、凶と出るか……。それは、運命の神、ノルンのみしか知らぬことでございます。
それでは、彼らの物語、第三話、始まります……
私の名前は、氷雨 ノエル。これでも日本人とフランス人のハーフだ。というのも、私はどうやら、日本人の要素がかなり少ないらしく、必ずと言っていいほど純粋なフランス人と間違えられる。
まぁ、苦労するのはフランス語を話してくれ、ということぐらいだけど。私は基本、単語しかしゃべれない。不十分な学問のせいである。ちゃんとすべきだった……。
まぁ、いい。問題は、私自身の今の状況だ。
「キューリ。来て」
私がそう呼ぶと、相棒が金髪の中から現れた。なぜ金髪の中にいるかと言うと、そうした方が情報収集ができるからだ。座学より実体験した方がいいのと同じことだ。
「なんですか、ご主人様。私、とても眠いんですが」
「それは昨日の夜中まで、ずっとテレビ見てたからやろ! しかも、……な番組を!!」
そう、この相棒。その風貌からして執事のような人格を連想させるが、残念なことに人格はただのオスである。私の目の前で平然とえ、えっ……な番組見て……。
「用件はあれや。今日、白い方に干渉することや」
「昨日の可愛い方ですか?」
一発キューリを殴って、訂正させた。
はぁ……なんでこんな相棒なんだろう。
「しかし、どうするのですか? あなたは戦い好きなのは知ってますが、無益な戦いはしない主義でしょう」
「無益やない。強いやつを仲間に加えたら強いやん」
私の作戦は、力で圧倒し敵を自らの配下に置くことだ。力には自信がある。なぜなら私は元々、魔術師だからだ。
私はこの街にいた魔女、通称“師匠”に魔術を教えてもらった。その後、魔術の腕を見込まれてフランスに二年間ぐらい行っていた。
そして、師匠が死んだことを聞き、急いで帰ってきたわけだ。
私の真の目的は、師匠を殺した犯人を殺すこと。敵は知っている。だが、挑めない。挑むほどの戦力ではない。だから私は仲間を集めるのだ。絶対の勝利のために。
「さて、もうそろそろ行こか」
「そうですね。ちょうど来ましたしね」
「解っとる」
さて、力試しといかせてもらおうか。文月 光。純白の魔術師よ。
勝と夜に合流すると約束付けた後、私は帰路に着く前にとある場所に行っていた。
「香、いる?」
朝鐘中学校の中枢……と言えばカッコイイけど、実際は生徒間だけの中枢である、生徒会だ。
先程言った名前は、中学一年の私の妹である、文月 香のことだ。ここ近くは、生徒会の作業で徹夜続きだったため、私は邪魔にならないように触れないようにしていたのだが、勝情報によると、昨夜ぐらいに何とか収拾がついたらしく、迎えに来たわけだ。
ついでに、役どころは会計。数学が得意だしね。
「残念。いない」
しかし、書記担当である土偶 木葉が、ここにいないことを伝えてくれた。
うーん、今日は朝に迎えに行くと言ったはずなんだけどなー。
「今日、早く家に帰って、姉さんにしてあげることがあるって」
土偶さんはそう言って、扉を閉めた。収拾が着いたと言え、やはり、後処理などで忙しいのだろう。
しかし、先に帰ったのかー。終わった記念に、アイスでも奢ろうかと思ってたのに。
『懐は寒いだろうにな』
言わないで、ライ……。ただでさえ、悩ましいことなんだから。
原因は魔法少女と戦いである。
どうやら、母が私の酷くなった寝相が心配になったらしく、睡眠薬を買わされたのだ。勿論、使ってはいないけど。
『まぁ、これで変な理解はされなくなったわけだ』
だね。
と、先ほどからずっと心で話している技術は、朝からずっとライに鍛えられた技術だ。人がいるところでライとの会話は、どうしても口意外に頼らないといけなくなる。なので、ここ三日間ずっと練習していたのだ。何度、意味もなく口から言葉が流れただろうか……。
『おい』
ん?
『魔の反応があったぞ』
まだ夜じゃないよ。
『違う。魔獣じゃねぇーよ。魔法少女……少年かもしれないな』
あぁ、なら納得。夜だけしか行動できない魔獣と違って、昼でも動けるしなー。
って、いるんだ。勝以外にも、この学校に。
『どうする?』
一応、干渉してみようと思う。できれば、戦いにも持ち込まないようにね。
勿論、そんなことができるとは限らない。相手がどんな相手かは判らないし、場合によれば戦闘に発展するかもだけど、それでも出来れば話し合いだけで終わるようにしたいと思った。
『反応は屋上』
解った。
私は急いで屋上へと向かった。
階段を何度も躓きながらも駆け上り、屋上へと行ける扉の目の前で私は立ち止まった。荒い息を何とか抑えようとするが、無理そうだ。
『これを開けば、向こうには敵がいる。気をつけろよ』
「解ってるよ」
周りに人がいないことを確認し、私はそう返した。
ライには咄嗟のために、具現化してもらっておくことにした。もし、いきなり攻撃を仕掛けられても変身の時間を稼ぐためだ。
「行くよ」
『あぁ』
ライが私の肩から返事をした。彼女も少し緊張しているようだった。
私は一度深呼吸して、扉を開けた。そこには――――
「うわぁ……」
と、思わず口から驚きの声を出してしまうほど、美しい少女がそこにいた。
彼女は私に気づいていたようで、振り向いて微笑んだ。
白と黒のリボンで括られ、ツインテール状になっている美しい金髪。瞳は澄んだ青色をしており、どこからどう見ても外国人である。そして、スタイルがいい。本当に中学生なのかと疑うぐらいに、いい。同じ女である私が、嫉妬よりも先に尊敬に値するほどに。
見とれている私を見て、少女は微笑を残しながら口を開く。
「やっと来たか。もー、ほんまに待っててんで。ずっと魔力放ちっぱなしやったんやからなー」
……関西弁で話した。あれ? 美人って、関西弁で話す人種なの? 私のこれまでの認識が偽りだったの?
と、我ながら馬鹿な発想をした。
そんな私を見て、苦笑しつつ少女は続ける。
「この関西弁やろ。ま、外見と全然合わんことはよく解っとる。でも、育ちが育ちやったからな。ま、しょーがへんと思っといてや」
少女がそう言うなら……、まぁ、しょうがないだろう。
しかし、美人だなー。それに、可愛くもある。パーフェクトビューティとはこのことか。いや、キュートビューティか。そして、さりげなく胸も負けている気が……。はぁ……。
あ、一度訊いてみよう。
「好きな食べ物は?」
「たこ焼きっ!!」
おぉ……。ナイスツッコミ。流石、関西育ち。
てか、何気に初の生ツッコミだったり。嬉しいなー。
「って、ちゃうちゃう。ウチがしたいのはこれちゃうって!」
と、笑いながら少女は、胸ポケットから水色のキーホルダーを取り出した。
……ナクルスだった。
「これ見たら解るやろ?」
それを取り出したこと、それすなわち……
「グっ!?」
私は突然の風――――5月に入るというのに寒々しい風が吹き、目を一瞬少女から離した。そして、再び少女がいた場所に目をやると、そこには――――
「水の魔術師、凍てつく懺悔。参上」
水色のドレスを着ており、手には水色の杖を持った少女がいた。杖は先端部分が花のように花びらが重なっており、もう片方は刃上になっている。
その姿、まさに魔法少女。
「……やっぱり、戦わないといけないんだ」
その姿になったことは即ち、敵対視しているという証拠だ。
話し合いで解決できたらよかったんだけど……。
「ライ。いくよ」
「了解した」
私は、制服の中に隠してあったナクルスを取り出し、天に掲げるように持って、あの言葉を言う。
「変身!!」
その瞬間、私の周りから光が四方八方にプリズム反射するかのように放たれた。その間に私の制服は、あの白を基調とした民族衣装のような服に変わり、腰には大きく目立つ淡い赤色のベルトが巻かれた。
そして、手には私の基本装備、明日の光が握られていた。
「白の魔術師、光を産む者……でいいのかな?」
と、自信なさ気に言うと、相手である少女が盛大にズッコケてくれた。
おぉ……リアクションもすごいなぁー。
「そこは、自信持って言うもんやろ!!」
そ、そうかなー?
というか、この名前だって勝とライとでやっと決めたやつなんだけど……。必要なのかなー?
「まぁ、ええわ。とりあえず――――」
と、少女は持っていた杖を地面にズサッ、と置いて、堂々と仁王立ちをする。
「ウチの名前は氷雨 ノエル。先に言っとくで。ウチが勝ったら、ウチの部下になりや」
「えぇー……」
堂々と言った氷雨さんには悪いけど、いきなり過ぎてリアクションに困る。
個人的には友達になりたいんだけどなー。そう、上手くはいかない感じだ。
「今やったら戦いなしもええで。どうする?」
そう言われても、なんとも言えない。元より戦う気なんてさらさらないし、温和に解決したいものだ。
でも、戦うしかないのだったら、私は戦う。彼女と仲良くなりたいけど、部下とかそういう関係は好きではない。
「ううん。戦うよ」
「ん。じゃ、やらせてもらうで」
そう言い残して、氷雨さんはその場から飛び去った。下に降りたようだが、どこに行ったかは見れなかった。
「学校全体がバトルフィールド、ってわけだな」
ライがそう言ってるけど、私はそれよりも別のことを考えていた。
「みんなに見えないようにしないと……」
主に世間体的な意味で。
「オレ達は、魔力干渉のために魔力化してんだ。バレやしない」
と、ライは言っているが、やはりまだ信用できない。要人にこしたことはないから、気をつけて戦おう。
あれから五分が経過した。一向に彼女が出てくる気配がない。
私達は上空に魔方陣を展開し、そこに乗って相手の出方を窺っていた。
「どんなタイプの魔法少女かは判らないが、少なくとも勝負を挑むほどだ。強いやつだと思ったほうがいいぞ」
「解ってるよ」
あの自信、何か根拠があるに違いない。しかも、何気に私のことも知ってたし。
となると、ライにも言われたが警戒は必要になる。私は、明日の光を構えつつ、上空から見張る。
「いた! 二時の方向に魔力反応」
「解った!」
ライがそう言うと同時に、私は魔法陣から飛び降りた。そして、二時の方向に銃を向けて――――
「――――そこっ!」
氷雨さんと標準があった瞬間、私は引き金を引いた。狙いは彼女の武器。
でも、そうは上手くはいかない。彼女はさらりと簡単に避けた。そして、余裕の笑みを浮かべながら、言う。
「狙いは悪くないで。でも、宙に浮いてる状態で、これは避けられるか?」
そう言って、手を振り払うようにする。すると、そこから水色の魔法陣が展開された。
「呪文展開!」
彼女がそう言い終えた瞬間、そこには四つほど氷柱状の塊が存在していた。
彼女は、杖で肩を叩きながら、
「さぁ、避けてみな」
と、私を試すような目つきで見てきた。
じゃ、やるしかない!
「どうする?」
ライの問いかけに、私は即答する。
「撃ち抜く」
魔法少女になって、ふと昔の感覚を思い出すことがある。
その感覚があるなら、少なくとも一発は当たる。
氷柱が猛スピードで飛んでくる。それに合わせ、私は構えていた銃で数発銃弾を放った。
「へぇー」
彼女の驚き半分、感心半分の声が聞こえた。撃ち落せたのだ。氷柱を。
一発だけだが。
「くぅ……」
私は撃ち落すの断念し、魔法陣を左右に展開する。そして、その魔法陣を使って氷柱を受け流すようにかわす。
魔法陣による防御。これは勝が提案した技だ。私みたいな、遠距離、中距離戦闘を得意とするタイプにはとても嬉しい技で、今後活躍の場が増えていきそうな技である。
と、技の説明をしているうちに彼女と同じ高度になったので、魔法陣を展開して魔法陣の上に乗る。
彼女は、腕を組んで何やら複雑そうな表情で私を見ていた。
「うーん、ウチの予想やと、全部撃ち落してくれると思ったんやけどなー」
「私にそこまでの技量はないよ」
あったら、嬉しいよ。
いや、あったらじゃないか。使えたら、か。
「さて、今度はこっちから――――」
「そうはいかへんで!」
私の意気込みを遮り、彼女は動いた。そのスピードは余りにも速くて、敵が後ろにいると気付いた時には、もう彼女が私に手を出していた。
「拘束」
杖をこっち向きに向け、そう呟いた瞬間、私の周りに魔法陣が展開され、身動きできなくなっていた。私の使う、拘束式と同系の技だ。
と、説明しているのだけど、これは実にやばい状況ではないだろうか。
「悪いが、終わらせてもらうで! 解放っ!!」
こ、これは……、やばい。
「呪文展開、できるか?」
「時間がかかるよ」
「やれ!」
ライに言われ、私は呪文展開を展開し始める。というのも実際、呪文展開は時間がかかる魔法である。魔力の量に比例するので、私の魔力では三十秒ぐらいかかる。
ただ、完成するまでに氷雨さんに攻撃されないかどうかだが。
「雪華展開。繋がれ、二面の後悔」
そうは上手くいかないのが戦いである。
氷雨さんが持っていた杖――――二面の公開というらしいその武器の、花だと思っていたその部分から放たれた、同じく花びらだと思っていた刃上の何かが、杖の先端の刃と重なっていく。そして生まれるのは、巨大な矛を持った突撃槍。
「武器の性質が変わった!?」
「言ったやろ。二面の後悔。一つは救えなかったという後悔、杖。一つは力を得てしまったという後悔、突撃槍。さぁ、ウチの後悔、受け取ってみいや!!」
そう言って、氷雨さんが動き出す。だが、それと同時に青いドレスが引き裂かれていくように消えていく。そして現れたのは、先ほどとは違い露出が多い、青い革の鎧だった。
「懺悔と後悔と水色槍っ!!」
彼女がそう言った瞬間、加速度が更に速くなった。このままじゃ、間に合わないっ!?
「未完成だが、やれ! 威力はないが、かく乱は出来る!!」
「う、うん」
ライの一言に、途中まで作り上げていた呪文展開を中途半端に発動させる。
瞬間、私の足元から白い魔法陣が展開される。
「呪文展開! 名は……」
何しようかな? この技のモデルは熱光という技なんだけど、威力ないし……、
「閃光っ!」
うん、やはり安直に。
しかし、名の如く放たれたのは強い光。そこには熱など存在せず、ただただ強大な光が放たれただけだった。
「ぐっ、魔法陣が!?」
だが、敵の目くらましにはなる。そして、拘束のために定めていた魔法陣の座標が崩れて、魔法陣は崩壊する!
「今っ!」
「くっ!?」
私は素早く、明日の光で氷雨さんの武器を攻撃し、軌道をずらした。氷雨さんは、目をつぶっている状態だったのでバランスを崩し、体勢を整えるのに時間がかかる状態だ。
それを見て、私は一旦逃げた。急降下する。降下場所は、あの茂みがいいかもしれない。
「体勢を整えるよ!」
「了解した」
ライのその一言が聞こえたときには、私は地に足がついていた。
我ながら、逃げ足が速い、と感じた。
突然の目くらまし。私はそれに驚いて、とっさに目をつぶってしまった。
魔術師としては悲しい失態だ。流石の私でも、落ち込む。
「キューリ。彼女はどこに行ったんや? 見とった?」
「残念ながら。私でも、流石にあれには驚いてしまいまして」
そうか。いや、期待はしていなかったけど。
しかし、まさかあの技を回避するとは。私の思った以上に、彼女は強いのかもしれない。
いや、それは考えすぎか。彼女は、私の見たところ人を撃てない。先ほどまでの攻撃を見て、確信した。彼女は、人を撃てない。ゆえに、武器しか攻撃してこない。
「人間としてはいいんやろうがな」
そりゃ、私だって人間として、人を攻撃したくはない。
「でも、魔術師としては最悪や」
やらないといけない時は、やるしかないのだ。別段、魔力干渉中だから肉体に傷がつくわけではない。だから、私はこうやって戦うことが出来る。
「行くで、キューリ。作戦は練った」
人を傷つけることを怖がっているのか、それともただ単に優しいだけなのか。そんなのは、私には解らないけど。
「次こそは、貫くっ!」
敵として、あなたを貫かせてもらう。
「茂みに隠れたのはいいが、どうする気だ?」
茂みに隠れ、彼女の動きを監視しながら、私はライのその問いに答える。
「整理すると、彼女は一度、解放を使った。となると、チャンスだと思うんだ」
解放は、ナクルスが基本抑えている魔力を解放することだ。そして、それを一度使用したということは、彼女のナクルスには魔力がほとんど残されていない。となると、まだナクルスに魔力が残っている、私に勝機はあるわけだ。
だが、先ほどの彼女の動きを見て、まだ何か必要な感じがする。
「あの速さに追いつける技……」
私の必殺技である太陽線上の閃光は、確かに速いけど充填に時間がかかる。その間に攻撃されたら元も子もない。
だからと言って、拘束式を当てることが出来るわけではない。
「銃の種類には、面白い物がある」
私がそう思考していると、ライが氷雨さんを見ながらそうつぶやいた。
銃の種類……。銃で、彼女に追いつくほどの速度を出せる、便利なことってあったっけ?
少なくとも、勝のエアーガンにはなかったんだけど。
そんな感じで何も言わない私を見て、ライは呆れながら説明してくれた。
「散弾。威力は低いが、当てる確率は上がる。で、それに追尾性能を足せば、更に確率が上がる」
こんなの常識だぞ、と最後に怒られた。いや、常識じゃないと思うんだけどなー。
でも、確かに聞いたことはある。散弾。確か、銃弾がバラバラに放たれるやつだったはずだ。確かに、あれなら速度関係なく当たりそうだ。
そして、それに追尾性能が足されたら、必中になるのではないだろうか。
「じゃ、作戦はそれで行こう。氷雨さんは?」
「いる。直立でオレらをずっと探している」
じゃ、ある意味チャンスなわけだ。先制できたらそれほどこちらに大きい利益を生む。
「頼むよ、明日の光。展開、結合、散弾スタイル。展開、結合、追尾式」
私は、散弾を生み出す細長い筒状のパーツと、追尾機能を足すことが出来る歯車のようなパーツを展開し、銃口とハンマー部分に付けた。
あとは、これをどうやって当てるかだが……。
「魔力を調整して、一撃じゃなくて、二撃で落とす」
私の作戦は、二連続での散弾攻撃だ。ただでさえ威力の低い散弾攻撃を、更に威力を下げるのは重大なデメリットになるが、彼女は恐らく逃げる。あの速さ、例え追尾機能があったとしても、やすやすと避けるだろう。だが、流石に二連続でなら避けるのは厳しいはずだ。
しかしライは、それでは無理だ、と反論した。
「当てるに関してはOKだ。だが、敵を倒すには至らない。三発目も必要だ」
確かに。威力の低い散弾だけじゃ、まだ足りない。となると、三発目をどうするかだが……。
「そこで太陽線上の閃光だ。威力は落ちるが、敵を落とすには充分だろう」
なるほど。そこまで至らなかった。流石だなー。
「ふ、ふん。これぐらい普通だ」
照れてる、照れてる。
「それより、さっきから何で武器しか狙わねーんだよ。今の状態なら、人を撃っても死にはしねーのに」
その問いに、私は答えることができなかった。確かに、魔力干渉をしないので、人体に影響はないらしい。でも、人間を撃ちたいと思わないのだ。
「だが、それじゃ勝てねーよ。やつは、オレ達より圧倒的に強い。加減して勝てる相手ではない」
「解ってるよ……」
でも、それじゃ……あの人と同じだ。
「動いたぞっ!」
ライがそう言ったのを聞き、私は明日の光を構えた。そして見る。方向は私と逆。即ち、背中を向けた。
チャンスは一度、いや一発でも当てなければ負ける。一発が当たる確立は、恐らく低い。でも、当てる。それが勝利条件。
「解放。強化」
強化により、脚部に魔法陣を展開、脚部を強化させる。そして、大地を一歩大きく、飛び上がる。そして、一気に敵の背後へ行く。
「決める!」
彼女がこちらを振り向いた。とっさに持っている杖で防御しようとするが、それは意味を持たない。
「広域太陽閃光っ!!」
私は二段に分けて小さい魔法陣を展開、素早くそこに銃口を向け、撃つ。放たれた銃弾は、魔法陣を通過し多数の銃弾へ変化する。そして、一弾一弾が意思を持ったように、彼女の武器へ飛んでいく。
彼女はその突然の攻撃に対処できず、身をかばうように身体を丸めるような体勢になる。だが、それでは私の散弾を受け止めきれることはできない。散弾も集まれば、凶悪な攻撃に変わる。
そして、全ての散弾が彼女に被弾した瞬間、爆風が発生した。急な風に、私は片目を瞑りながら、敵がいる方向へ焦点を合わす。
「おかしい……なぜ避けない?」
ライが不思議そうに言ったが、私は気にせず爆風と共に発生した煙が途切れる瞬間を狙う。
そして、煙が消えた瞬間、私は引き金を引――――
「あんたらのその油断が、敗北への引き金となる」
そんな、冷たく見下したような声が、後ろから聞こえた。
私は素早く振り向くと、そこには――――
「これで、終わりやっ!!」
その槍で振りかぶっている彼女がいた。その矛先は私にもう向かっている。
殺される。
だが、私にはまだ残しておいた魔力がある。それさえ、それさえ当てればいい。
だが、場所が悪い。本体を、彼女を狙わないと止まらない。
「くぅっ……!!」
私は嫌な気持ちを振り切って、銃口を彼女に向ける。そして、魔法陣を展開。あとは、引き金を引くだけで弾が放たれる。
しかし、私は。私は、引き金を引く。ただその行為に、異常なほどの恐怖を覚えた。
だが、ここで止まれない。止まったら負ける。やる。やらないと、死ぬ……っ!!
私は意を決し、引き金を引こうとした。しかしその時、
思い出したくもない、あの嫌な記憶を思い出した。
「あっ、あっ……」
体中から汗がおかしいほど出る。怖い。怖い怖い怖い怖い。撃つのが怖い。人を撃つのが怖い。人を殺めるのが怖い。引き金を引くのが怖い。死ぬのが怖い。
全ての恐怖の感情が重なり、私は震えた。
「あっ、あぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああっ!!」
口から出るのは絶叫。そこに勇気などはなく、ただ純粋な恐怖しかなかった。
引き金。引き金を引く。引き金を引けば全てが終わる。終わって、解放される。
でも、解放された先に、彼女は生きているのか?
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁあああああああああああああああっ!!」
恐怖に身を任せるように、私は銃口を彼女に向け力強く銃を握った。
引き金が引かれる。これで解放される。解放……される。
そして、絶叫の中、一発の光が、彼女の武器を貫いた。
名もなき魔女(以降、マ)「あ、あちゃー……」
グリモア(以降、グ)「これはまた変わった展開になって参りましたね」
マ「いや、彼女の過去に関してはもう少しあとになるはずだったのに……」
グ「早過ぎですね」
マ「そうね。あれじゃ、次の領域にはいけないわね」
グ「しかし、彼女が絶対になるとは限りませんが」
マ「期待よ、期待」
グ「ホープなだけはありますね」
マ「そうよ。では、本題に行こうかしら」
グ「そういえば、ラジオみたいなコール、しないんですか?」
マ「飽きた」
グ「早いですねー。まさに三日坊主ですよ」
マ「今思えばイタいわ。私、自分を疑っちゃう☆」
グ「キャピキャピしないでください。で、本題をよろしくです」
マ「今回は、あまりにもタイミングが悪いから、呼ばないでおくわ」
グ「妥当です」
マ「今回は、二つの形態を持つ武器を使う少女、氷室 ノエル、通称、ノエルちゃんを紹介するわ」
グ「あのツインテールの子ですか。可愛いですよね」
マ「そうね。朝鐘中学校、二年。転校生ね。その実態は謎に包まれている……てのが設定」
グ「設定言わないでください」
マ「嘘よ。彼女は、魔術師の血統の子ね。魔術の使い方も上手いし、戦いに余裕があるわ。しかも、解放したあとも戦えたことから、彼女の魔力量はハンパないことが伺えるわ」
グ「文月さんよりもですか?」
マ「そうね。彼女は、少なくとも過去に魔術に干渉していたからあぁできるから強いけど、文月ちゃんはその点スゴイけどね」
グ「ベタ褒めですね」
マ「ま、初日で魔獣と戦って勝てたのは、ノエルちゃんと、もう一人の魔術関係者と、文月ちゃんだけだからね。魔術に一切干渉がなかった文月ちゃんは、スゴイと思うよ」
グ「それもそうですね。しかし、彼女はなぜに関西弁を……?」
マ「どうやら、日本に来た際に覚えた日本語がそうだったらしいわ」
グ「それはとんだ災難ですね」
マ「どこぞのマンガでもあるまいしねー。で、彼女の力に関してだけど、属性は氷ね」
グ「しかし、彼女自身は風みたいな気がしましたよ」
マ「のようね。ま、それに関しては追い追いね。で、彼女の武器は……とてもイレギュラーだわ」
グ「通常、武器が二面性を持つことはありえませんからね」
マ「彼女の杖形態は、基本遠距離用の武器よ。先端の花びらの形の刃を飛ばすように使う」
グ「槍形態は、近距離用に早変わりですがね。花びらを槍の刃に集中させ、巨大な槍に変えることもできますし」
マ「ま、強いに変わりなし。今後、彼女がどういう道を行くか、見物ね」
グ「では、次回コールしますか」
マ「そうねー」
『次回、黒い光と雷光の弓者』
グ「次回も、よろしくです」