第一話~森の中なのよ~(改)
気が付いたら深い森の中で一人立っていた
見渡す限り木、木、木
まだ朝だというのに差し込んでくる光は僅かしかなく
鬱蒼とした草木が視界を尚悪くしている
獣道のようなものはあるが到底人なんか住んじゃいないってことがわかる
遠くの方で聞こえる猛獣のような声もそれをそれを裏付けていた
まずは身体能力確認
仮にもさっきまで死んでいたのだ、どこかおかしな点があっても不思議ではない
腕を振り動かすのに問題がないか確かめる
軽くステップを踏み足に問題がないか、走れるかどうかを確かめる
次に筋力、近くに落ちていた石を拾い上げる
力を込めると呆気なく砕けてしまった
それによる皮膚へのダメージもまるで感じさせない
続いて脚力や腕力、どれも俺の考えている常識以上の力が俺には有った
一瞬で5メートル程ジャンプできる脚力、そしてその高さからの落下にものともしない丈夫さ、木をくりぬく事ができる腕力
力が落ちたと聞いては居たが121回の転生は伊達ではないらしい
次に記憶の確認
俺には記憶がない、だがどの記憶がなくなったのか
生活に支障はないのか?
生きる上で必要な事まで忘れていてはここに来た意味がない
幸運と呼べるかどうか分からないが食べる、飲むなどは忘れていないし、一般的な人間が知ってるような事は覚えていた
この世界の通貨の事やギルドや迷宮の事
だが残念な事に戦闘知識は基本的な事しか覚えてなさそうだ
そして、この世界には魔法がある
4属性と呼ばれる火、水、風、土
そこに4つ足して理と呼ばれる 木、氷、雷、金
上位属性である 光、闇
その派生である 聖、魔
使い手が歴史上数えるほどしかいない 時、空間
俺が魔法を使えたかどうかは覚えていない
だがそういうものがあると覚えていたのは正直ありがたい
魔法がある、それを知っているだけでもこの世界では大きな違いだ
そしてこの世界の大きな特徴……『祝福』
この世界はこれにより成り立っていると言っても過言ではないだろう
『祝福』を受ける為にもさっさとこの森からは出なければならない
サバイバルについても少しは心得があるようだ
このような状況ではまず川、というよりは飲み水
水を探すべきだ
魔物を狩ってしばらく生活できればよいのだが
記憶の整理はこんなものか
俺は飲み水を探して森の中を探索し始めた
俺の体内時計が確かなら2時間程歩いただろうか
幸い体の疲れを感じる事はなかった
おそらく一日中歩き回ってもこの体は大丈夫だろう
途中で果実を見つけたので5~6個貰ってきた
もともと果実は食べられることを前提としたものだし毒の心配はないだろう
川らしきものが見当たらないのが残念だがこれでしばらくは食べるものには困らない
洞窟でも見つかればそこを拠点として探索ができるのだが
そんな都合の良いものは早々見つかるものではない
だが夜になれば視界は一層悪くなるだろう
その時に魔物の群れにでも合えば正直厳しい
どこか息を潜められる場所があれば今日はそこで過ごそう
まだ日没までかなりの時間がある
先ほどから大きくなっている猛獣の声と苦しげな声から逃げるように俺は歩みを速めた
少しひらけた場所にでた
川ではなかったが泉があり日差しも差し込んでいて水がキラキラと光っている
だがこの神秘的な風景を邪魔をするものが茂みにポツンと置いてあった
動物の死体
比較的大きな動物だったのだろう
だが腹であったであろう場所は無残にも食い散らかされており
なにか鋭い刃物で抉られたような跡が体にいくつも発見できた
そしてその周りに飛び散った血はまだ新しく数分前の出来事だった事がわかる
ガザッ!!っと茂みから音が聞こえた時には俺の体はもう反応していた
その場から飛びのき俺がさっきまで立っていた場所に目を移す
黒い4足歩行の一目で肉食であるという事がわかる体格
発達した爪に跳躍力のありそうな後ろ脚
そして口には大きな2本の牙が生える事を確認した
黒銀の毛並をブワッと逆立ててこちらを威嚇してくる
ここはこいつの縄張りだったのだろうか?
せっかく見つけた水を手放すのは相当惜しい
それ以前にこいつが黙って逃げるのを見逃してくれるとは思えない
目の前に魔物を見据えて様子を見続けた
相手の力が分からない以上こちらから行くのは少々分が悪い
なにより俺はこんな所でやられるわけにはいかない
暫く様子を見ていたが痺れを切らしたのか
一気にこちらへ飛びかかってきた
「・・・・・・っ!!」
速い!常人よりは明らかに良いであろう俺の目でも速いと感じる速度
俺は大きく横へ体を移動させ通り過ぎた魔物へすぐさま向き直る
その直後にガリッ!!と嫌な音をさせて木が倒れるのが見えた
幹が抉れてる…
恐らくはあの異様に発達した爪により倒れたのであろう
もし直撃したらこの丈夫な体でも耐えきれるかどうか
ドクドクと心臓の音が早くなるのが分かる
全身に血が周り呼吸は自然と速くなり体温が上昇する
脳に酸素が行き渡りまるで思考が加速されたような感覚に陥った
魔物が体をこちらへ向け、牙をむき出しにしてゆっくりとこちらへ歩を進めてくる
初撃に自信があったのか奴の警戒レベルも一気に跳ね上がったようだった
俺とトラ型の魔物との距離が3メートル位になった所だろうか
鼓膜が破れる程の咆哮と同時に一気に距離を詰めてきた!
先ほどより大きく動かずに回避を行う
幾ら早くても直線的では躱すのは容易い
もう目が慣れてしまったので反撃できる余裕が生まれてくる
こちらを殺せる力があるとしてもだ
3度目の回避を行う際に、前進しながら最小限の動きで爪を躱し
すれ違い様に腹部にヒザを入れる
瞬間ボキッと骨の折れる感触が伝わってくる
恐らくは丁度あばらに入ったのだろう
あの感触からおそらくは肺に突き刺さった
案の定後ろ足を震わせながらなんとか立とうとしているトラがこちらを睨んでいる
上手に息が吸えないのか不規則な呼吸音がこちらまで聞こえてくる
あぁなってしまってはとどめを刺さなくても間もなく死ぬだろう
俺は拳を振り上げ、渾身の力で奴の脊髄を叩き折る
一際鈍い音が聞こえると同時にその魔物は息絶えた
この転生してから初めての戦闘だがまるで初めての感じがしない
恐らく体に刻みこまれた知識
この状況ではこうしろと頭で考える前に最善の答えを体がやってくれる
まず優先するべきは食事だ
食えるかどうか分からないが焼けばなんとかなるだろう
俺はそう思うと火をおこす準備をすべく乾いた薪を探しに歩みを進めた
泉の近くには洞窟があり小動物だと思われる骨が多く散らばっていた
恐らくは先ほどの魔物の住家だったのだろう
俺は魔物の死体をここまで運び込み、集めた薪を使い火を起こした
木を擦り合わせて火を熾すなんて事は酷く体力を使う作業なのだが
このバカみたいな身体能力のお蔭で大した苦労もせず熾すことができた
こういう時に魔法が使えると楽なんだが
俺の記憶の中で一人の魔法使いが野宿の時に魔法を使って火を起こしていた情景が思い浮かんだ
顔は霞がかかっていて思い出せないがその時言っていた言葉が
「火よ、灯れ」
静かな洞窟のなかで俺の声だけが響いた
そう簡単に魔法が使えたら苦労しない、魔力自体は持っているが世界にまだ認められていないのだから
火、水、風、地、木、氷、雷、金属性のすべてに鍵が掛かっている状態だ
無理やりこじ開ける事も可能ではあるが此処でやるのは不味いだろう
下手すると2~3の昏睡は覚悟しなければならない
肉食という事もあり匂いがきつかったが食べられない程ではない
肉を平らげてしばしゆったりとした時間を俺は過ごしていた
外は真っ暗でこの洞窟もこの火が消えたら暗闇に包まれるだろう
少なくなってきた薪を足しつつこれは今後の予定を考えた
しばらくは此処を拠点にして探索を続けよう
ある程度この森の構造を理解したら食料を持ってこの森を抜ける準備だ
この森がどの位置にあり、この周辺には町があったのかどうかすら覚えていないが、森を抜けない事には話にならない
此処で力をつけるのも良いが街で『祝福』を受けなければ大きな力は望めない
少し大きめの薪を追加して俺は眠りついた
記念すべき第一話目
小説を書くということがこんなに難しいとは思っていなかった作者です
特にバトル部分がつらくてしょうがなかった
この回で初めて主人公が喋りましたが未だにどんな性格にするか決めてない
早くハーレムとか俺TUEEEEとか「龍牙雷光斬!」とかやりてぇ