第八話~続々迷宮~
17階層
「ひどい目にあった・・・」
「ご、ごめん」
16階層でミーシャが一撃でキラーエイプを両断した
そこまではよかったのだがその階層に居るキラーエイプを全員相手するハメになり
結局ほぼ全てのキラーエイプを死体に変える事になった
そこまではまだ良いがその死体に集まってきたゴースト達が一斉にキラーエイプの死体を操り襲いかかってきたのだ
ミーシャが居いて広範囲の魔法が使えないため水の刃や篭手で相手をすることに
ミーシャも大剣を横薙ぎして一気に吹き飛ばしてはいたがゴースト本体にダメージを与えない事にはこいつらは永遠にこちらへ向かってくる
死体もまだまだいっぱいあるしゴーストからしてみれば随分な好条件だろう
全部を相手にせずお互いの背中を守りながらなんとか次の階層へたどり着いたというわけだ
「ミーシャを責めてる訳じゃないよ
まぁ良い経験だと思えば良いさ
別にどちらも死んではいないだろ?」
「うん、でも普通の人だったら絶対に助かってない状況だったよ
キラーエイプの群れをほぼ無傷で超えられるなんて低ランクの中で何人いるか
しかもその後のゴーストなんて絶望的」
耳がシュンと垂れてちょっと涙目になりながらこちらを覗いてくる
あれだ、子供が悪戯して親に怒られた時の様な顔
許してほしそうな顔だ
「そうだな、じゃぁまた耳を撫でさせてくれよ
今回はこれでチャラだ」
「えっでもそれじゃぁ…うん、じゃぁ今日宿に帰ったらね
・・・今の私じゃ無理だけどいつか恩返しするから!
白狼族は受けた恩を必ず返すんだよ!」
なんか違う方向に立ち直られたが元気なったから良いか
18~19階
先ほどの16階が恐らく大きな罠だったのだろう
森のフィールドであったし明らかキラーエイプの群れが大きすぎる
この階ではワームとゴブリンが出てきただけだった
ワームというのはベビーワームの成長した姿で体が少し緑がかってるのが特徴だ
強靭な顎の力は健在で動きも若干早くなっている
だがこいつらは群れでの行動をしなくなっておりある意味ではベビーワームより危険性は少ない
もう少し成長するとサナギになるため適当な場所を探しているのだろう
換金部位は同じく無い
ワームを水で切り裂きゴブリンに回し蹴りを入れる
後ろでミーシャが大剣をふるっており3体まとめてゴブリンが吹き飛ばされた
真ん中にいたゴブリンの角はもう使い物にならないな
丁度大剣に当ったのか粉々に砕けていた
恐らくミーシャの素の能力もかなり高いのだろう
途中で宝箱を2個発見し体力回復の霊薬(小)を3個、なんに使うか良くわからない木の枝を5本取得
「あ!あれって20階への魔法陣じゃない?」
部屋の中心に魔法陣がポツンと描かれている
「って事は次はエリアボスだな
20階に入った瞬間まずは強化魔法だ
これである程度優位に戦えるだろう」
「うん、分かった。何が出てくるか分からないけどレンとなら大丈夫だよね」
20階
俺たちが20階に足を踏み入れるとすぐさま魔法陣が起動してボスが召喚され始めていた
前回みたく召喚まで時間が有るのなら強化魔法をかけてから万全の体制で臨めたのだが
「水よ、全てを弾く盾となれ!」
「風よ!私を押す追い風となれ!」
~水の障壁~
~韋駄天~
魔法の完成と同時に20階のエリアボスが姿を現した
「う、うそ…オークだなんて、それに肌の色が全然違う
10階から20階に上がっただけでランクが2個も上がるなんて聞いたことないよ」
「オークの亜種って所か、どの亜種かは分からないがレッサーって事はないだろう」
本来オークは赤橙色の肌をもっている、悪魔系の中堅には属してるだろう
人間の落とした武器や防具、魔道具までも扱う事から知性はかなり高い
亜種には種類が有りそれにより名前の前にレッサー、グレート、レア、アークと名が付く
レッサー(下位)ならば本来より力は落ちるが希少やアーク(高位)だと本来のオークとは別の魔物と判断した方が良い
見たところ白い肌を持ちバトルアックスを担いでいる
銀製の鎧を着込みマジックアイテムと思われる腕輪を両腕にしていた
レアかアーク系のオークがフル装備…本来Bランクの魔物だがAに届いてるかもしれない
「ミーシャ、まずは遠距離から魔法で牽制だ
Bランクの悪魔系のだから完全に無効化される可能性もあるが
近づくまでの時間稼ぎにはなるだろう」
近づく時は必ずこちらからでなければならない
相手か近づかれると受け身になってしまう
「わかった。やるしかないよね
倒さないと帰れないわけだし」
オークを見据え同時に詠唱を開始する
「水よ、打ち抜け! 水弾」
「風よ!切り裂け! 風刃」
魔法を打つと同時に距離を詰める
ミーシャも韋駄天の効果によりかなりの速度を出せるようだ
魔法はオークに当る直前に拡散してしまった
あのオークが少なくとも下位の風と水魔法に対しては完全耐性を持ってる事が確認できる
俺は正面からオークに近づきまずは一発と拳に力を込めた
オークがグワっと目を見開きバトルアックスを構える
予想以上の速さだったのだろう
バトルアックスが振り下ろされる前に俺の拳がオークに胸に突き刺ささる
銀製の鎧がベコっと凹みオークを2~3歩後退させた
追撃しようと距離を詰めようとするが
もう体制を立て直したのか一歩踏み出し横薙ぎにバトルアックスをふるってきた
両手を並べ篭手でバトルアックスを受け止める
本来なら衝撃を受けた方向に飛んだ方が良いのだがあえてそれをせずに力を込めて受け止めた
ギリギリと競り合いが起こり力と力の勝負になる
俺が弾こうとするとさせるものかとオークが力を入れる
一対一ならさぞかし良い勝負だがこれは勝負ではなくて戦闘なのだ
背後からミーシャが跳躍しオークの頭目掛けて大剣の切り落とした
オークの耐久が高いのかミーシャの力が弱かったのか分からないが
切り裂く事はなかったが強い衝撃を与える事には成功したようだ
頭に衝撃を受けたオークは大きくぐらつき俺の競り合っていた力が緩くなった
バトルアックスを横に弾きオークの腹部目掛けて掌底を繰り出す
内部にダメージを通そうとしたのだが最初の打撃でガタが来ていたのかオークの鎧に大きくヒビが入った
そのお蔭で衝撃が拡散してしまい内部でダメージを通すことができなかった
ミーシャと並びお互いの怪我の有無を確認した
「レン!さっきは大丈夫だった?
正面からバトルアックスなんて受け止めて」
「大丈夫だ、力に関してはほぼ互角
それに受けた止めた衝撃でぽっくり逝くようなやわな体はしてないつもりだ」
「オークと力が互角って・・・
それより、あのオーク凄い硬い
私は頭蓋骨を叩き割るくらいの勢いで叩きつけたのに」
ミーシャもあの大剣を軽々と振りまわすくらいだから力は見た目以上に有る筈なんだが
あのオークの耐久が勝っていたんだろう
「あのオークは耐久が高い、それにタフだ
俺が防御と攻撃をするからミーシャは攻撃に専念してくれ」
「分かった、気を付けてね」
ぐらつきは完全に取れたのか鼻息を荒くしてこちらを睨んでくる
見たところダメージは殆どなくまだまだ元気そうだ
前と同じようにまずはこちらから距離を詰める
俺がバトルアックスを受け止めてミーシャが攻撃する
ミーシャに攻撃が行きそうになったら俺がすかさず打撃を加えてオークの体制を崩れさせる
バランスが良いのか直ぐに体制を立て直してバトルアックスを振りかぶるが俺が受け止めてミーシャが攻撃を加える
この動作を繰り返し行い何とかオークにもダメージが見えてきた
「ミーシャ、俺があいつを転ばせて動きを止める
だからその瞬間胸に大剣を突き立ててほしい」
ミーシャは短く返事をして大剣を構えた
俺はバトルアックスを受け止めた後にすぐさま弾く
もともと力は互角だったが今は弾くことができるくらいにオークの力は下がっていた
弾いたと同時に下から上に突き上げるようにしてオークの腹部に肘を突き立てる
オークの体が一瞬浮いたと思うと内臓に傷が入ったのか口から血の塊を吐き出した
その後仰向けに倒れるようにして足を狩り、頭の部分を押さえるとそのまま地面へ叩きつけた
バトルアックスを握っている腕を膝で押さえ、手は首をギリギリを締め上げる
ものすごい力で抵抗してきたが抑え込めない程ではない
ミーシャが渾身の力で大剣を胸に突き立てると力は段々収まりピクリとも動かなくなった
「終わったか」
俺は首から手を離し立ち上がる
胸を見ると陥没しており心臓は破壊されているだろう
「す、すごい・・・オークに勝っちゃった」
ちょっと興奮気味にミーシャが呟いてる
俺はバトルアックス、マジックアイテムであろう腕輪を2個、換気部位である角を回収した
「この腕輪2つはミーシャが貰ってくれ
とどめを刺したんだしこれくらいなら良いだろ」
そういって腕輪を2個差し出した
マジックアイテム類なら動きを阻害せずに自力の底上げになるだろう
「そ、そんな…流石に貰えないよ
レンが居たおかげで攻撃に専念できたんだし
16階でもすごい助けられたし…
それに私が居なくてもきっとレンなら倒せたよね?」
あたし足で纏いだったかなぁ・・・とかレンなら持ち前の速さで翻弄できたよねとか
そもそも私が居なければレンは受け止めるなんて方法取らなくてもよかったんじゃ…とか
どんどん思考がネガティブに捕われてるようだった
「そんなことないぞ
ミーシャが居たからここまで効率よくダメージを与えられたんだ
俺だって防御だけしてたわけじゃないし
ミーシャが攻撃して隙を作ってくれたから俺も攻撃に全力をつぎ込むことができた」
回避を考えて攻撃を行うとやはり重さはなくなってしまう
ミーシャもこの点については納得してくれたがまだ不満が残るようだった
「わかった、じゃぁこの腕輪は俺からのプレゼントってことで受け取ってもらえないか?
友好の印とかこれからもよろしくって感じの贈り物ってことで」
「・・・これからも私に付き合ってもらえるの?
レンなら一人の方が効率良いような気がするけど」
「一人では絶対に限界ってものが必ずあるんだ
だからこれからもミーシャは俺に付き合ってほしい」
絶対的な力を得るまで…俺はミーシャを利用する
その為にもミーシャには強くなって貰わないといけない
ミーシャの祝福回数がまだどれだけ残ってるか分からないが
本格的に能力が離れ始めたら別れればいいだろう
「嬉しい…私を必要としてくれるなんて嘘でも嬉しいよ
じゃぁ有りがたくその腕輪は貰うね
早く邪魔にならないくらいの力をつけるから!」
そういってミーシャは腕輪を受け取った
ズキズキと胸が痛むのは戦闘のせいだと思い込む
残ったオークの角とバトルアックスは山分けで良いだろう
「よし、じゃぁ早く帰還して今日は休もう
11階から一気に20階まで抜けたんだし流石に疲れた」
帰還用の魔法陣の前まで歩くと奥に宝箱が見えた
そういえばエリアボス毎に宝箱があるんだよな
宝箱を開けると手袋が入っていた
俺にはもう篭手があるしなぁ
装備できない事はないが明日には剣が、その二日後には鎧が出来てる予定だ
今の時点でそこまで装備にこだわっていない俺はミーシャに問いかけた
当然最初は遠慮されたがいろいろ理由をつけて無理やり貰ってもらった
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迷宮での戦利品
木の枝×3
体力回復の霊薬(小)×2
バトルアックス
換金部位
ゴーストの核 ×42
ゴブリンの角 ×7
レア・オークの角×1
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ダンジョンを抜けてギルドへ立ち寄る
エレーヌの元へ行き早速ポイントの確認と部位の換金をお願いした
「オークの角だけは二つに割ってくれ
後オークが持っていたバトルアックスなんだがそれもこちらで買い取ってもらえるか?」
「今日は二人で狩りを行っていたのですね
了解しました、バトルアックスの方もこちらで買い取りましょう
それではお二人の換金部位をお確認しますのでその間にポイントの確認をお願いします」
ミーシャと一緒に指輪を水晶に近づけ情報を表示させた
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ゴブリン討伐数 11匹 ポイント加算 110
ゴースト討伐数 44匹 ポイント加算 660
キラーエイプ討伐数 20匹 ポイント加算 800
レア・オーク討伐数 1匹 ポイント加算 4000 二人で倒したので半減
変わらずの迷宮 20階層到達 ポイント加算 2000
合計 7570ポイント
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「相変わらず凄まじい戦績ですね
レア・オークが20階層で出てきたなど聞いたことがありません
ここまで来ると期待の新人ではなくて、どこか異常性を感じます」
そういってエレーヌは机の上に袋を置いた
「今回は銀貨64枚となります
全て指輪に振り込みますか?」
俺達は全て指輪に振り込みギルドを後にした
ちなみにミーシャは銀貨57枚と銅貨が40枚だった
「お、今日はお兄さんとミーシャが一緒なんだね
早くご飯食べちゃってよ
まだ時間はあるけど折角作ったんだからやっぱ暖かい時に食べてもらいたいし」
食堂へ移動すると他の人はもう食べ終わったのか魔人の青年が一人いるだけだった
食べ終わるとミーシャと一緒に俺の部屋に移動して明日の予定を話した
「明日はこの街を見て回ろうと思う
俺の剣も受け取りに行かないといけないし
ミーシャの腕輪二つと手袋も鑑定してもらいたいしな
そういう事で明日は二人で街を見て回らないか?」
まるでデートの誘いの様だが構わないだろう
「う、うん。レンが良いなら私も良いよ」
案の定顔を赤くしてそう答えてきた
俺に一定以上の好意があるとみて間違いないだろう
ダンジョンに行って帰っていたのだからある種の吊り橋効果があったようだ
俺がどこか違う街に移動する時も恐らだが付いて来てくれるだろう
「朝から出発して昼はどこかの店で食べようか
俺はまだこの街にきて間もないからミーシャが案内してくれると嬉しい」
「わかった、じゃぁ明日はまずレンの剣を取りに行った後に
いろいろ回った後お店に案内するね
闘技場とかも見ておいた方が良いかな」
「あぁ、そうしてもらえると助かる
それとこの街の周辺にある地理なんか教えてもらえないか?」
「うん、近い所から言うとまずは死の山と不浄の森だね
不浄の森を抜けるとエルウィス王国の国境を越えてメウロ帝国に入ると思う
エルウィスの城下町は此処から歩いて1日で行ける距離にあるかな
城下町からいろいろ入ってくるからこの街も発展していけるんだよね」
俺が最初にいた森は不浄の森というのか
人の手があまりにも入ってないしワリとピッタリな名前だろう
「ありがとう助かった
じゃぁ約束通り」
俺はそういって自分の膝をポンポンと叩く
最初は首を傾げていたミーシャだがその理由を思いつくと
顔を赤くして俺の膝の上に座り頭を胸に預けた
「今日はこの前より堪能させてもらおうかな
眠いなら別に寝ちゃってもいいからな」
そういうと俺は毛並に逆らわぬように優しく撫でていく
最初触った時にピクッと反応したが直ぐ落ち着いてミーシャの呼吸が次第に深いものへと変わっていった
ゆっくりと手を移動させて耳の先端まで撫でるとその手を頭へ持っていき撫でていく
その後背中に手を移して摩るように背中を撫でる
相変わらず癖になりそうな撫で心地だ
いや、もうなってるのか
急にミーシャの事が愛しく感じてくるが気のせいだ
ペットの飼い主がそのペットへ感じる愛情と似たようなものだと割り切る
20分程撫でたあと最後にギュッと抱きしめてミーシャを解放した
「ミーシャ、まだ起きてるか?」
今にも眠りこけそうな表情をしているがかろうじて意識はあるようだ
うん、と小さく返事はするが俺の膝の上から移動しようとしない
俺は前回と同じくお姫様抱っこでミーシャを抱え221号室にミーシャを送り届けた
自分の部屋に戻ってきた俺は直ぐにベットへ横になりギルドカードを表示した
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名 前: レン
レベル: 38
ランク: E
職 業: 水の魔法戦士レベルMAX (超過分は次の職業へ繰り越されます)
属 性: 水
ポイント:11286
筋力558 B-
耐久860 B
魔力648 B-
退魔743 B-
俊敏409 C+
器用584 B-
称 号
ドラゴンキラー
アンデットキラー
森の支配者
天運
戦女神の加護
技能
魔力操作+++
戦闘技術++++
生存術++
補 正
剣術補正++
水属性魔法の威力補正+++++
水属性魔法の精度補正*+
水属性魔法の詠唱短縮+++
マスター:無し
迷宮情報
変わらずの迷宮20F 攻略済み
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「明日行くべき場所が一つ増えたな」
久しぶりの更新
半年ぶりとか悲しすぎる