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貧乏くじ

村井の表情は完全に憔悴していた。大野は黙って村井の前に座る。


 沈黙の時間が流れる。


「弁護士」


 村井がか細い声で言う。


「なんだ?」


「弁護士…呼んでくれ…それまでは話さねぇ」


「わかった。だが、接見の日時はこちらが決めることになっている」


「すぐ会えねぇのかよ!」


「そう言ったつもりだが」


「これじゃ貧乏くじじゃねえかよ!」


「村井君、君が唆されてやったって事になれば話は別だ。このままじゃ、事故であれ事件であれ、君一人が罪を被る」


「……」


「笠原に唆されたか」


「違う、笠原さんじゃない。会ったこともねぇ…」


「じゃあ誰なんだ?」


「…城戸さんっていう…営業部長だ」 


「城戸だな」


「あぁ…松澤って営業部長が居たんだけど、途中から城戸さんになったんだ。500万やるからって」


「お前、500万で人殺しを請け負ったのか!」


 小林が詰め寄るのを、大野が手で制した。


「これで始末しろって。前金で100万受け取ったんだ。でもこんなんじゃ全然割に合わねぇんだよ!」


「城戸から何と言われた?正確に答えないと、お前の罪は変わらんぞ」


「呉服屋の娘に脅して始末しろ、やり方は問わねぇって。城戸さんにはそう言われた。それ以上の事は本当に知らねぇんだ」


 その後、成功報酬で残りの400万を受け取る手筈になっていた。


「これだけは覚えておけ。割に合う犯罪なんてねぇんだ」


 大野の言葉に村井はうなだれた。


「課長、完落ちです」


 取調で判明したことを全て課長に伝えた。交通捜査課で出来る事はここまでだ。


「いやぁご苦労様。大野さん、ここからは刑事部のヤマだ。うちで全部やれないのは残念だがね」


 課長は申し訳なさそうに大野に言い、本庁へ連絡を入れていた。


「うちで出来るのはここまでかぁ」


 小林が大野へコーヒーを運んできた。


「仕方ないさ。それでも、黒幕への足掛かりはつけられた」


「後は、相島京子さんの回復ですね」


 その後、この事件は道路交通法違反から殺人未遂と組織的犯罪処罰法違反の疑いへと切り替えられ、所轄署に捜査本部が立てられた。


「今度の事件、組対との合同捜査になるみたいですよ」


 黒田が言う。


「それだけじゃ済まんかもしれんぞ。国際建設に捜査が及べば、二課が出てくるかもしれん」


「大野さんは、もっと上がいると読んでいるんですか?」


「うん?…まぁ、勘だな」


 大野は笑いながら席を立った。


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