管理官登場
翌朝大野が出勤すると、課長に呼ばれた。
「もう一仕事してもらいたい。相島京子さんの事件だ」
ジーアという会社が反社会性を持っている以上、組対が動くことになる。
「最初からこのヤマを知っているのは、大野さんだけなんだ。署長からの指示だ」
「分かりました。ならば、小林君の同行も認めてください。彼も同じ現場にいました」
課長は承諾した。
捜査本部に赴くと、組対の面々と顔を合わせた。
「よう、元気そうだな。大野さんが居てくれると心強いよ」
「昔一緒に組んでた、渡瀬さんだ」
大野が小林に紹介する。捜査一課の刑事も大野の元へ挨拶に来た。多少のセクショナリズムはあるが、ドラマのように強い対立があるわけではない。
「お噂はかねがね」
捜査一課の島津が、笑いながら名刺を出す。
「良い噂であることを願ってますよ」
「またまた。ところで大野さん、このヤマ、かなり大きくなりそうですね」
「おそらくは。小林君と私は後方支援になると思いますが、宜しくお願いします」
大野と島津は握手をした。
[管理官が到着されました!]
一気に部屋の空気が張り詰めた。全員が席に着くと、捜査本部に署長と管理官、捜査一課長が入ってきた。大野と小林は一番後ろに着席した。
全員が起立し、敬礼をする。脱帽の場合は体を前方に15度傾ける。
「これより、〇〇町殺人未遂事件捜査会議を行います。捜査一課、榊管理官です」
捜査会議の進行役は井上捜査課長が行っている。榊は30代前半の見立て。身長が高く、髪は七三に分けられている。黒縁の眼鏡は、榊を実年齢よりも歳上に見せていた。実際には見かけより若いのかもしれない。
「大野君、現場の報告を頼む」
大野は資料を手に立ち上がった。
「被害者は松村呉服店の相島京子さん。自動車運転中に加害車両から側面衝突を受け負傷。現在も意識は戻っておりません。同乗していた娘さんは親戚宅に身を寄せています。加害者の村井は現行犯で逮捕。被疑者の関与は、ドライブレコーダーの映像と目撃者証言で確認しました」
管理官が頷き、メモを取る。
「組織的関与の可能性はどうですか?」
「村井は元早雲興業の構成員で、現在はジーアに関与。指示者については営業部長の城戸という名前が上がっています」
その他、ここまで判明していることを全て報告した。
署長は手を組んで考え込む。
「管理官、組対と合同で捜査を進めるのがよろしいかと」
全員が頷く。会議は淡々と進みつつも、緊張感が漂っていた。
また、大野はこれまでの流れから、自説を管理官へ伝えた。
「では、黒幕はジーアの社長、笠原の線が濃厚なんですね」
「村井が笠原の名前を出していない以上、現時点では憶測です。ただ、城戸一人でやることとは思えません」
「まずは城戸を引っ張って、どう崩すかですな」
捜査一課長が腕を組んで考える。
「家宅捜索をかけるのはどうでしょうか。我々は組織犯罪処罰法違反で、捜一さんは教唆ってとこですかね」
組対班長の成川が言う。大野がさらに見解を伝えた。
「ジーアを動かしているのは、おそらく国際建設です。城戸は操り人形で、黒幕は国際建設の誰か。私はそう睨んでいます」
「国際建設!?」
榊が驚いて大野を見た。
「国際建設といえば、大手の優良企業だと思っていましたが…間違いありませんか」
「松村呉服店一帯の開発は、ほとんどを国際建設が請け負っています。国際建設が絡んでいると考える方が自然ではないかと」
「分かりました。しかし、現時点ではジーアへの家宅捜索令状と、城戸の逮捕状発行に集中してください」
捜査会議が解散すると、榊管理官は退出した。捜査の陣頭指揮は署長に委ねられた。
この時は、まだ誰も知らなかった。
〇〇町の小さな交通事故が、日本有数のデベロッパーを巻き込む巨大事件へ発展することを。




