第5話
トイレから出る前に、何度か深呼吸をした。鏡の前で表情を整える。泣いていない。大丈夫。そう言い聞かせて、席に戻る。
「大丈夫?疲れ溜まってるんじゃない?」さっき声をかけてくれた同僚が、少し心配そうに見てくる。「平気平気!」と笑って答える。
「同僚は無理しないでね」と言ってくれた
その瞬間、胸の奥で何かがきゅっと縮んだ。
誰かに心配してもらえることは嬉しい。
私を見てくれている気がして、そう思うと同時に、私は誰にも気遣いができてない気がした。
あの時、無理しないでねって言われたと、私も「〇〇さんも無理しないでね」って言った方が良かったかもしれない。頭の中で反省会が始まる。
嫌われたらどうしよう、という考えが頭から離れない。
仕事が終わって、帰りにコンビニに寄る。棚の前で少し迷って、チョコを一つ選んだ。次の日、それを渡す。「昨日は心配してくれてありがとう。お昼時間あったら一緒に行かない?」相手は驚いて、「ごめんね。今日は予定があって」
断られた事にまた、自己嫌悪になる。
昨日私が断ったから嫌われた?でも本当に予定があるだけかもしれない。でもチョコは受け取ってくれたし怒ってない?こんなとなら昨日一緒に行ってれば良かった、、、。そんな後悔が頭の中を走り回る。
ーーー……。
高校生の頃も、同じことをしていた。毎朝、鞄にお菓子を入れていた。休み時間に配って、みんなで分ける。そうしていれば、グループの輪の中にいられる気がした。もし何も持っていかなかったら、次の日、席がなくなるんじゃないかと思っていた。
誰かに好かれたくて、嫌われないように必死で、気づいたら、自分の分が残らなくなっていた。
今も、やっていることは変わらない。笑って、渡して、安心する。それが正しいのかは分からない。ただ、そうしないと、私は一人になってしまいそうだった。




