第4話
「はなみさん、お昼一緒にいかない?」そう声をかけられて、一瞬だけ迷ってから、「今日は予定があって、、」と答えた。本当は一人になりたかっただけなのに、断ったあと胸がざわつく。変に思われたかな。感じ悪かったかな。嫌われたかもしれない、という考えが頭から離れない。
少し離れた席で、同僚たちが笑っている。「はなみずやばいんだけど」「それ花粉じゃない?」その言葉が耳に入った瞬間、心臓が跳ねた。
私のことじゃない。分かっている。それでも、全部が自分に向けられたみたいに聞こえてしまう。
黒板の前に立つ小学生の自分が浮かぶ。日直の名前を書く欄に、誰かが「はなみず」と書いていた。消しても、また書かれる。昼休みには「菌つけ鬼だぞ!」と追いかけられて、触られるたびに笑い声が増えた。誰も本気で止めなかった。
逃げるように図書館に行って、誰もいないすみっこでうずくまって泣いた。声を出したら見つかる気がして、肩だけが小さく揺れた。
「はなみさん?」名前を呼ばれて、現実に引き戻される。「ぼーっとしてた!」作った笑顔でそう言って立ち上がってトイレに向かった。
私が周りにバレないように作った笑顔さえ、ヘラヘラしてる、気持ち悪いと言われる。
何が正解かわからない。でも、笑ってないと自分が壊れてしまいそうで…。
個室の鍵を閉めて、ようやく息を吐く。
職場で唯一気を使わない場所。




