第12話
その日は、何かが切れる音がした気がした。はっきりした理由は分からない。ただ、もうどうでもよくなった。これまで必死に握っていたものを、全部、手放してしまった感じだった。
仕事も、人も、将来も、考える意味がない気がした。今までで一番、はっきりと、"死にたい"と思った。
死ぬならと思って、頭の中でいろいろなことを考え始める。不思議と死にたいする怖さが消えていて、静けさが勝っていた。
死ぬ前に、やりたいことは何だろう。そう考えて、最初に浮かんだのは、天の川だった。一度でいいから、ちゃんと見てみたかった。自分が、広い宇宙のほんの一部で、この先に、もしかしたら別の世界があるかもしれない。そんなことを考えているときだけ、自分が少し大きな存在になれた気がしたから。
どうせなら、自分で稼いだお金で。ちゃんとした場所で。そんなことまで考えて、部屋の中を見渡した瞬間、現実に引き戻される。
私がいなくなったら、この荷物を片づけるのは誰だろう。迷惑をかけるな。そんな声が、頭の中で響く。迷惑をかけるだろうから貯金は家族に少しでも残した方がいい。何か遺書のようなものも書いておいた方がいい。考えが次々に浮かんで、体が急に重くなった。
動かなきゃいけないのに、動けない。体が鉛みたいに、その場から動けなくなった。冷たいフローリングの上でただ座ってる。考えすぎて、息が浅くなる。結局、何もできないまま、夜になった。




