真贋 1
凪のような日々はちょっとだけ続いた。
ぼくのお話もちょっとづつ成長を続けている。15話を超えた時点ではこんな感じ。
総合評価 102pt
評価者数 8人
ブックマーク 15件
総合評価が3桁に乗った。うむ。
まぁ当然のことだ。ぼくはなんといっても元プロ作家だからね。アマチュアの遊びの場を荒らしちゃって申し訳ないなぁ。軽く3桁に到達してしまった。
大したことないけど、悪くはないね。
そんなわけないよね!
3桁。ああ3桁。
見てほしい。評価者が8人。ブックマークはなんと15件だ。聞いてほしい。本当に聞いてほしい。例のジャスミナさんの自殺未遂事件あたりから、ブックマークしてくれる人が増え出してね。評価もね。これは凄いことだよ。なんといってもブックマーク。まさにブックマーク。読者の証といえる。つまりぼくには15人の「固定読者」がいる。
ぼくのこのお話は15人の頭の中に滑り込んだ。そしてこれからも滑り込み続ける。
なんと偉大なことだろう。
感想も来たよ。
「主人公の内面描写がリアルで面白い」って好意的なやつ。記念すべき2通目だ。前回もらったものもそうだったけど、思わず長文の返事を書きそうになって——実際に書いて、ぐっと堪えて軽いものに書き換えた。
一行感想に2000字近い返信とかあまりにもアレだ。だから堪えた。でも内に渦巻くパッションは消えない。
この炎が消えないうちに、次の展開を考え出した。
現状の物語を紹介しよう。
例の事件以降、ジャスミナさんとアントワン3世の仲がちょっと縮まった。実はその余波でブリューベルさんとの関係も改善の兆しを見せている。
王は自分を暗殺しようとした者が獄中で謎の死を遂げたことを部下から聞き、強いショックを受ける。責任を感じて自分を責めるんだ。
この辺りの描写はじっくりやった。こういうタイプの自責の念はぼくの得意とするところ。生活の7割くらいは大体この感情で埋め尽くされている生き物だからね。
ただ、ぼくとアントワン3世が違うのは、ぼくにはその感情を慰めてくれる人がいない一方で、彼にはいるということ。
落ち込んだ彼の前に秘書のブリューベルさんが現れる。
彼女は主人公を包み込み、優しく肯定してくれる。その上「問題を自分のものとして受け止めようとしているあなたは勇敢な人だ」と言ってくれる。
さぁ! ここからメロドラマが始まるよ。
と、自分もそのつもりで書き始めたんだけど、実際の文章は全く以て予想外の方向に飛んで行ってしまった。
王はブリューベルさんの言葉に反発を覚える。
「他人事の綺麗事は絵空事だ」と。
あ、王は気弱なタイプなので公言はしません。心の中で思うだけ。
そしてさらに思考は続く。「この見目麗しのご令嬢に”ぼく”の何が分かるというんだ」って。
本当にひねくれたヤツだ。こういうタイプのやつは本当によくない。近くにいたら絶対に友達になりたくないね。
だけど、ぼくの逆恨みはあながち的外れではなかったことが後に分かる。
ブリューベルさんは、お父さんというか、実家ドゥ・ラモール家のために王と接近することを意図している。観察眼に優れた彼女はぼくが弱っている瞬間を見抜き、あえてそこに楔を打ち込もうとしてくるんだ。
ただ、彼女を弁護しておくと、政治的動機のみから起こした行動というわけでもない。そこには憐憫の情もある。何はともあれ目の前で人が苦しんでいたらかわいそうだと思う。そういう普通の心情を彼女もまた備えている。
一方、ぼくもまた、変にひねくれた思考は意識の下に潜む「責任から逃れたい」という卑怯な心象に端を発するものなんだ。この後ろ暗い部分を直視できないまでも感じるがゆえに、ブリューベルさんの「憐れみ」に救いを感じる。
表面的には感動的な場面でありつつ心内では互いにすれ違ってる。でもどこかしら、互いにプラスの感情を秘めて。
受けないことは分かるよ。もっとストレートに書くべきだ。
責任に打ちのめされたジャスミナさんを、責任を背負うアントワン3世が救う。そしてアントワン3世の堂々たる姿を目の当たりにしたブリューベルさんは彼を見直し、支えようと考える。
ほら、これでいい。
実際に表面的な物語はこういう流れだからね。
でも、ぼくが描きたい真実じゃない。
決してそうではない。ぼくが許容できる「フィクション」を越えてしまう。
フィクションといえば、自殺した人間が他所の世界に転生するという前提がそもそもありえないこと(たぶんね。確認したわけではないので断言は出来ない)だし、細かい部分のご都合主義も山のように積み上げてきた。でもそれは全部物語装置に過ぎない。核心ではない。
ぼくが書きたいのは人と人との関係なんだ。
人の心がどれほどに複雑で、矛盾していて、自己欺瞞に満ちて——そして美しいか。
それを描きたいと思っている。
だからこそ、あえて地味な心内描写を延々続ける。
そんなわけで、ジャスミナさんは「負い目」、ブリューベルさんは「打算」を秘めて王と距離を縮めた。王はというと、2人の好意を喜びながらも疑いを解くことは決してない。彼は人を信じることができない。
いいでしょ? この3人。ぼくは結構満足しているよ。
表面的にはタイプの違う2人の美女から慕われる主人公だ。
肝心の仕事の方も、彼は何もしていないのにそこそこいい結果——まだ破滅していないというのは十分に素晴らしい成果だからね——を出していて、「あれ? 実は自己評価が低いだけで有能なヤツでは?」と思ってもらえる雰囲気すらある。
でも一皮剥けば結構グロテスク。
つまりぼくは2種類の楽しみ方を提供した。
外側の筋を追う楽しみと内側の筋を見る楽しみ。両者に上下はない。
メニューを増やした感じだろうか。醤油ラーメンと味噌ラーメンみたいな。店主であるぼくはどちらもお薦めしたい。両方食べて両方好きになってくれるのが理想だけど高望みはしない。片方でも好きになってくれればそれだけで最高の気分だよ。
こうして調子に乗ったぼくは、満を持して3人目のヒロインを登場させることにした。
リュテス王国西部とアルビオン(ご存じの通りイギリスの古名だね)東部にまたがる家領を持つ、ほぼ独立国に等しい従属国家ダンジー公領の姫サジェシアさん。
sagesseというフランス語を適当に改造した名前なので現実にはいないね。で、モデルはね。分かるね。
ダンジー公領もちゃんと発音すると「ドゥ・アンジー」。まぁアンジュー公国がモデルです。時代的にありえないのは分かっている。でもこれは「リュテス」という謎世界なので許してほしい。
ダンジー公国はリュテス(主人公の国ね)とアルビオン(不倶戴天の敵)の両者を天秤にかけてしぶとく生き残る公国なんだ。リュテスとしては国土をきりよく統一する観点から自分たちの方に引き込みたい。ダンジー家も家領の大半がリュテス側、つまり大陸側にあるのでこっちに寄ってきている。こういう小公領が生き残れる時代ではなくなりつつあるからね。
で、サジェシア姫がリュテスの首都ルテシアにやってきて、アントワン3世の宮廷に滞在することになるんだ。
彼女は快活で闊達、可愛らしいお姫様。でも、もちろんその表層の下には強靱な意志と知性を秘めている。自分がダンジー公領の行く末を左右する存在であるという確固とした自覚がある。つまり規模は違えどアントワン3世と同等の視野を持った——持たざるをえない姫だ。
彼女が加わることで、お話はリュテス王国から周辺地域へと対象を広げていくことになる。
そしてこの新展開は、ぼくの平和な深海がかき乱されるその端緒ともなった。
なってしまった。
◆
サジェシア・ドゥ・アンジー大公令嬢を登場させて、さぁ新しい物語開幕と心を躍らせて眠り、翌朝。
ぼくはいつもの日課を行った。
各種ポイントとPVチェック。
ひょっとしたら新しい感想をもらえているかもしれない。そんな期待がないといえば嘘になる。もう期待マックスだったね。
サジェシア姫の描写には自信があった。これでもかと可愛い年下の女の子を描きつつ、時折ぞっとするような「ヒント」を置いた。こういうのいいでしょ。可愛い系要員が実は! みたいなの。
だから、今回こそは——といってもまだ2件しかもらってないけど——念願の「サジェシア姫、超かわいいです!」みたいなコメントが来るのではないかと密かに期待してた。
結果はまあ、うん。
ユーザーページには例の表示は見当たらない。「感想が書かれました」って赤字のヤツね。あれがない。
うん。分かっていたのでショックはないよ。
まだ登場したばかりだ。
これから彼女の複雑な魅力をしっかりと見せつけてやろう。
そう気持ちを新たに評価チェック。
総合評価 122pt
評価者数 8人
ブックマーク 25件
ん? ん?
おかしいな。バグかな。
誰も見ていないにもかかわらずそんな素振りをしてみる。
分かっているよ。そうだろう!
やっぱりみんな分かってる。満を持しての新キャラ登場だからね。
これは知子さんに感謝してもしきれない。
サジェシア姫はちゃんと幸せになるよ。物語の都合で不良品を掴まされたりはしないから。
これほどに清々しい一日の始まりはない。
生憎外は土砂降りだけど、こころは見事に日本晴れ。
ぼくは軽やかに「アクセス数ボタン」を押した。
PV:1012
1012……。
なにこれ。
謎の数字だな。
不思議な数字だ。
昨日までのPVは1日平均40くらいなんだ。それが1012? ちょっとね、本当に意味が分からない。
まず、可能性としてはランキング入りがある。
「ノベルライターになろう」というサイトはトップページに各ジャンルのランキングが掲載されている。そこに作品が載ると一気に見てくれる人が増えるらしい。
「ノベルライターになろう」は超巨大サイトでPVはとんでもない数だ。そのサイトの一番人目に付きやすいところに名前が載るんだから、作品PVが一気に跳ね上がるのも当然。
お恥ずかしながら目を皿のようにして探したよ。
作品を登録している「異世界ファンタジー」ジャンルを。さらにさらにお恥ずかしながら、他の項目ランキングまで一通り見た。
無い。
考えてみれば無いのは当たり前だ。ランキングに掲載されるためには毎日凄い量のポイントを獲得しなければならないんだから。ぼくの作品はそもそも1週間ポイント増加0とか普通なので論外もいいところ。
そうなると、他にどんな理由があるだろうか。
考え出したところで慣れ親しんだ不安が押し寄せてくる。
好意であれ悪意であれ、幸福であれ不幸であれ、理由の分からないものはとにかく怖い。ここ数ヶ月ぼくはそれを現実世界で痛感した。そして逃げ出そうとした。
これも幸か不幸か物理的に逃げ出しはしなかった。そのときは。
代わりにこうやって物語を書くことにしたんだ。
物語の中で、ぼくは、登場人物の行動は当然のこと、自然環境の変化のような巨視的な動きでさえも「理由」を完璧に把握することができる。より正確には創り出すことができる。ぼくが書いているんだから当然だ。
ぼくの世界には不条理が存在しない。物語内の人物にとってはそうであっても作者であるぼくにとっては違う。
「不条理」を消し去った、ぼくの「理想の世界」。
にもかかわらず、それが原因で今度は現実世界のぼくが不条理に襲われている。こんなにも皮肉なことがあるだろうか。
「ノベルライターになろう」の内部に異変の原因が無い以上、それは外部に存在するはずだ。ネット上かもしれないし現実世界かもしれない。
取りあえずやるべきことはすぐに思いついた。
自作のタイトルを検索窓に入れて検索してみる。
1ページ目には普通に「ノベルライターになろう」のぼくの作品ページがずらっと掲載されている。2ページ目以降はぼくの作品タイトルが元ネタにした聖書の言葉に関する記述がほとんどだ。
で、3ページ目に発見した。
ウェブ小説やラノベ、アニメの話題を扱った掲示板だった。
そこのスレッドの一つに、ぼくのお話が好意的に紹介されていた。比較的ね。
「暗いけどまぁ読めるのでお勧め」
みたいな感じで。
新鮮だ。
感想は作者に直接送られるものだから、当然受け取り手である作者の心情をある程度慮って書かれる。つまり優しい。でも作者と関係ないところで放たれる感想に忖度は必要ない。だから、この一言を書いてくれた人は心底「お勧め」と思ってくれたんだろう。
もちろん忖度ありとはいえ直接の感想も同じだけの真心があると感じるよ。だって、自分が思ったことを文字にして送信するってかなりエネルギーを要する行為だからね。わざわざそれをしてくれた。行為そのものが既に評価であると感じる。
忖度のなさを痛感したのはその後だ。
最初のコメントに対応する形でいくつかレスが付いていた。
「まぁまぁ」とか「面白い」とか好意的なものが2つくらい。
問題はその後だ。
「ざっと見たけど『この人を見よ』のパクりじゃん。新キャラ、ゾフィの劣化コピー」ってね。
ああ、なるほど。そう見えるのか。
衝撃を受けるというほどではない。
正直なところ、ちょっと文学理論や芸術論をかじった人間として「類似」「模倣」や「剽窃」の問題についてはそこそこ語れるから、やろうと思えばいくらでも反論できる。もちろんやらないけど。
世界設定について言えば由理くんの『この人を見よ』もぼくの作品も似通っている。どちらも近世ヨーロッパ風の世界。現代人が王に転生する。
ただ『この人を見よ』の作者を知っているぼくからすると、彼の発想がどこから来ているのかは大体分かる。彼は仏文専攻、特に18世紀がメインだからその知識を使ったんだろう。そしてぼくも哲学ながら特にフランス現代思想がメインなんだ。
よって、ぼくも彼も18世紀フランスを発想のモデルに据えた。
ただ、彼の作品は恐らく日本の平安期以降、荘園制とかあの辺りのネタを混ぜ込んでいる。ぼくのやつは中世フランスの諸々をエッセンスとして入れ込んだ。
で、現代人が王様になるという設定については……他にどれくらいあるのかな。多分10じゃきかないくらい?。
ただね、そういうことを長々説明する意味はない。読者の誰かがそう思った。そう感じた。それは事実だから。
幸いなことに「パクり」を否定するコメントもいくつかあった。「これをパクりといったら王様転生全部アウトだろ」みたいな。
一方で「パクり」を主張する人も何人かいる。ヒロインの立ち位置がそっくり、とか。
確かにこれはそうだね。ブラウネとブリューベルさんは共に重臣の娘。メアリとジャスミナさんは軍関係者。ただ主人公との関係性においては様相が全く異なる。ブラウネとメアリは王に庇護されるお姫様(のちに天才であることが明らかになるけど)なので、王に従属する恋人。
対するブリューベルとジャスミナは王の”同僚”なんだ。こっちは二人とも——もちろん王も——天才じゃないので、イメージとしては使えない上司とそこそこ有能な部下で構成された部署って感じ。
ただ、形式だけ抜き出すと確かに似ている。
さすがにキャラの内面が似ているとかストーリーが同じとか言う人はいなかったのは幸いだった。
で、この難癖というか考察というか、実は本心から心が躍ったよ。なんというか、光栄だった。
自分の話があの大ヒット作『この人を見よ』と比べられて、ああだこうだと議論されてるんだから。これほどにうれしいことはない。
議論をしている人たちは、少なくともそれだけのエネルギーをぼくの作品に使おうと思ったんだ。ぼくの作品はポジティブネガティブを問わず他者を動かした! たとえそれが指先一つを動かすだけであっても。
タイミング的に『この人を見よ』は今一番熱い、盛り上がってる作品だからね。アニメが始まるし実写も控えてる。そのお陰もあって同ジャンルのお話に読者の興味が派生したんだろう。
誰とも分からぬ数人の人々のやりとりを見て、彼らに感謝の念を送り、ぼくはブラウザを閉じた。
◆
数日は平穏に過ぎた。
ありがたいことにね。
読者数は明らかに増えたよ。PVも1000とはいかなくても300くらいは行くようになった。更新した日はね。
感想もちょこちょこもらえるようになったな。例の小議論がそこそこ有名なのか、あるいは謎の共通認識が醸成されはじめているのか分からないけど、ごく稀に返事に困るコメントをもらうこともある。
「『この人を見よ』よりも断然好きです!」みたいな。
正直なところ、こういうのはやめて欲しい。
角が立つのもそうだけど、土台のところで比較すべきお話じゃない。
『この人を見よ』は華麗な戦記、内政もの。世界の変化を書いてる。主人公が強靱な意志で世界を能動的に塗りつぶしていく話。
ぼくのお話は延々数人の人物がじめっとした会話を繰り返す、人の心理を描いた劇だ。その結果世界が変化することはあるけど、それはあくまでも(作中における)偶然の帰結に過ぎない。究極的には受動的な話だ。
一言で言えば、『この人を見よ』のグロワス13世は世界を変え、ぼくのアントワン3世は世界に耐える。
だからなんというか、婉曲に「楽しんでもらえて嬉しいけど、他の作品を悪く言うのはやめてね」みたいに返して終わる。
ちなみにぼくが求める「ブリューベルさん気品ある!」「ジャスミナさんカッコいい!」「サジェシアさんかわいい!」みたいなキャラ評価コメントは一切来ない。
大体アントワン3世についての考察だ。それはそれでうれしいけど、こいつは嫌なヤツなので妙に読者に可愛がられてるのが苛立たしい。
辛いね。
さて、では本当にしんどい話をしよう。
PVが10000を超えた。
突如。
「ノベルライターになろう」のアクセス解析ページには、時間毎のPVを見られるところがあるんだ。それがね、毎時間400以上。
これまでは1日の最大が1000。通常で300。1日だよ?
それが通常1日分のPVを1時間で超える。
ランキングに載った形跡はない。
でも今回はすぐに理由が判明した。
感想が教えてくれたんだ。
「作品を取り下げた方がいい」とか「『この人を見よ』の劣化版」とか「ユリスさんも怒ってる」とかね。
ユリスさんって誰かって?
『この人を見よ』の作者。つまり由理くんのPNだ。
怒ってるの? 彼。
確かめるために電話しようかとも思ったけど、すんでの所で思いとどまった。
そもそもぼくが物語を書いているって彼に伝えてなかったから。本当に危ないところだった。
由理くんに知られるのは別に構わない。お互い文学論やら何やら延々語り合った仲だ。そして今では彼はベストセラー作家。その批評を聞けるなんて光栄なことだよ。
でも、なぜだか言う気にはなれなかったんだ。彼に限らず誰にも。
ぼくのお話はぼくが創り出した”理想の世界”だ。現実に侵食されたくはない。
ぼくは自分のお話を多くの人に読んで欲しい。そして多くの人の心をどんな形であれ動かしたい。でも、ぼくがそれを為したいわけじゃない。作品がそれを為してほしいんだ。
消える者と残る物がある。
それでいいし、そうありたい。
直接確かめないとなると、彼が怒っているかどうかは調べるしかない。
そこで順当に彼のSNSをのぞきに行った。
そして発見した。
昨日の夜のポストだね。
そこには、ぼくの作品のリンクだけが張られていた。
特にコメントもなく。
ただポツンと。
引用とコメントはまぁ凄い有様だった。
コメントにはね、「ああ、これは痛い」とか「有名税だとおもって諦めましょ、先生」とか、ユリスさんを慰めるものがずらっと並んでる。
引用のほうはもう多すぎて追う気にもならなかった。
フォロワー数10万を優に超える大ベストセラー作家が、総合評価ポイント500にも満たない1アマチュアが書いたウェブ作品のリンクをポストしたんだ。コメントも何もなしで。
彼のこれまでの発言を遡ってみてもそういうことをしている形跡は一切無かった。自著の宣伝、アニメ製作に関わる諸々、他の商業作家の作品リツイートくらいかな。
時々料理の写真とか載ってるんだけど、よく見るとこれ、ぼくと二人で飲んだときのものだね。
「尊敬する先輩と飲んだ」
とかご丁寧にキャプション付きで。
ちょっと面白いね。コメント欄ではその”先輩”が誰かについて詮索が始まってる。超大物作家さんの名前とか並んでる。
申し訳ないがぼくなんだ。本当に申し訳ない。
まぁ、いずれにしろ、あまりいい状況ではないことは分かった。
ただね、雰囲気だけで叩く人も多い中で、ありがたいことに内容を読んでくれる人もいる。さらにその中にはぼくのお話を面白いと感じてくれる人もいる。
結果ブックマークもポイントもガンガン増えました。
感想欄?
地獄だよ。
パクリ、パクりじゃないバトルロワイヤルが開催されてる。
時代設定や転生設定とかそういう定番は見飽きた。
そこでちょっと面白いのを紹介しよう。
アントワン3世の3はグロワス13世からパクった。ジャスミナの髪型がショートなのがパクり。中にはヒロイン3人いるのがパクリというのもあった。
『この人を見よ』のヒロインは4人では?
ぼくは思ったね。これはいっそ4人目出してやろう!って。
◆
由理くんが何をしたかったのかは分からない。彼自身の意見は何も書かれていないからね。
例の掲示板での言い合いがSNSに飛び火したか何かで、たまたまその目にとまったんだろう。自分の作品をパクっているお話があると聞けば一応見には行くはずだ。彼は商業作家だから、本当に剽窃であればお金も絡む問題になるし。
読んだ彼はどう思っただろうか。
少なくとも自分の作品を剽窃した話だとは思わなかったはずだ。彼とは長い付き合いなので、剽窃、模倣、類似にまつわる複雑な問題を彼が理解しているであろうことは分かる。定番設定に派生する構造の類似を「パクリ」とは考えないだろう。
でも絶対とは言いきれないな。人の心は分からないものだから。
いずれにしても、ぼくはチョウチンアンコウではなくなってしまった。
釣り上げられて、船の上で嘲笑われている。
醜いと。
ただね、チョウチンアンコウはそういう姿をした生き物なんだ。
別に醜くない。それが彼なんだ。
ぼくはそう思う。
でも、醜いと思う人もたくさんいるみたいだ。本当にたくさん。
これは結構辛いね。
だから久しぶりに、本当に久しぶりに、ぼくは朝から助けを呼ぶことにした。
頼もしい、南米原産のもふもふした動物をね。
ちょっとね。




