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テスト  作者: ひさち
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テスト

ミツル視点


――どうして。


 心と身体は、いつもこんなにちぐはぐなのだろう。


 彼の指先は驚くほど優しい。けれど、触れるたびに理性の岸辺はさらわれ、足もとが崩れていく。


――こんなの、わたしじゃない。


 必死に言い聞かせても、胸の奥では別の声が囁く。


――ああ……もっと。

――やめて。……でも、欲しい。


 矛盾の波に揺れ、身は意志よりも早く応えてしまう。そのたびに「見られてしまう」ことが怖くて、胸が焼けついた。


 やがて張りつめていたものがほどけ、背がふわりと浮いた。指先はシーツを探り、つま先は小さく縮こまる。怖い、でも抗えない。光と闇の境で震えながら、消えてしまいたいほどの羞恥に覆われ――それでも隠し切れず、彼に委ねてしまった。


 言葉はなく、深い眼差しだけが覆いかぶさる。

 その沈黙に、わたしは湖の底へ引き寄せられるように乱れていった。


 唇を噛み、枕に顔を埋め、声を必死に押し殺す。

 聞かれたら死んでしまう――そう思うほどに、息の漏れる音すら恥ずかしい。

 閉じた瞼の裏で光がちらちらと弾け、耳の奥では金色の糸が張りつめるように鳴る。


 りん――鈴蘭が遠くで鳴いた気がした。


 胸の奥がひとつ震え、全身が細やかに痙攣する。指先もつま先も意志と無関係にすくみ、呼吸は切れ切れに乱れた。

 こんな姿、見られたくない。なのに、もうすべてを見られてしまっている。

 そのすべてを――彼は黙って受け止めていた。


 どれほど時が過ぎたかわからない。

 枕に顔を埋めたまま、息を継ぎ足すたびに震える。羞恥に胸が締めつけられ、睫毛から熱い雫がこぼれた。

 それは痛みでも後悔でもない。


――わたしが「女」として初めて知った、赦しの涙だった。


 その雫を、彼の指がそっと拭った。ごつごつした手なのに、驚くほど優しい。


「……お前は、そのままでいい」


 低い声。飾りも慰めもなく、ただ真っすぐに。


「気の利いたことは言えん。……どんな顔でも、どんな声でも、俺にはお前が一番だ」


 その瞬間、胸の奥に溜めていた羞恥がふっとほどけていく。

 枕に顔を押しつけたまま、嗚咽のような笑いが漏れ、涙がまたこぼれた。


「……そんな言い方、ずるいよ」


 涙と笑いが混じり、言葉にならない。

 それでも、伝わってしまう。


――こんなにも受け入れてくれる。

――こんなにも求めてくれる。


 だから。恥ずかしくても、怖くても。


「……わたしの、ぜんぶ。……あなたへ」


 震える声でそれだけを告げる。


 彼は答えず、ただ強く抱き寄せた。

 その腕の中にいると、羞恥すら赦されていく。

 涙も、震えも、弱さも――全部包まれて、温かなものに変わっていった。


 ああ、こんなにも幸せだと感じてしまう。

 息苦しいほど胸がいっぱいなのに、心は軽くなっていく。

 恥ずかしくて死んでしまいそうだったのに、いまはただ、生きていたい――彼とともに。


◇◇◇


ヴォルフ視点


 彼女は声を殺し、枕に顔を埋め、唇を噛んで震えていた。

 それでも身は意志より先に応えてしまう。

 不器用すぎて、愛しい。


 人前では毅然と立ち、隙を見せない女王が、ここではすべてを隠しきれず乱れてしまう。

 その姿を預かることが、俺にだけ許された。

 背が大きく浮き、息が喉の奥でつまずく。

 胸の奥が焼かれるように熱くなった。


「……お前は、そのままでいい」


 本心しか言えなかった。


「どんな顔でも、どんな声でも……俺にはお前が一番だ」


 その言葉に、涙まじりの笑いがこぼれる。

 額にかかった髪が汗を含み、指先にしっとりと触れる。

 呼吸が落ち着くまで背を撫で、気づけば彼女の吐息に合わせて自分も息をしていた。


 もう、このひとを離しては生きられない。

 勝ち負けではなく、ただ共にあるために。


 沈黙の中で抱きしめながら、ひとつだけ願っていた。

――どうか、この時間が途切れませんように。

 

R15がクリアできているかどうかのテストです。具体的に何? ということはないのですけど……。


想定としては

 メービス――その魂である柚羽 美鶴にとって、これは人生で初めて「愛する男性と行為に臨む」瞬間でした。

 ミツルへの異世界転生の後、「白きマウザーグレイル」の中の加茂野茉凛と感覚を共有し、女の子同士の戯れ――実質的には“セルフ”に近い体験をしていました。けれどそれは、外部の誰かに愛される行為ではなく、あくまで“自分の延長”に過ぎなかったのです。

 だからこそ、ここで描かれる「愛する男性と臨む初めての行為」は、彼女にとって本当の意味での「初体験」。罪悪感を外に置き、理屈を外に置き、ただ“女”として誰かに委ね、受け入れる――それは彼女がこれまで一度も得られなかった救済のかたちでした。

 彼女は常に罪悪感と責務に縛られ、「巫女」としての役割や「女王」としての矜持に自らを押し込めて生きてきました。これまでの彼女は、すべてを理屈と論理で武装し、感情を鎧で覆い隠すことでかろうじて立ち続けてきたのです。

 けれど、この場面ではその鎧が外れました。彼女が見せたのは「巫女」でも「女王」でもなく、ただ一人の「女」として、愛する人に甘えてしまった姿。

 理屈ではなく、涙と笑顔で。義務や役割ではなく、愛そのものにすがって。それは彼女にとって「初めての救済」でもありました。愛する人に抱かれるという、ごく当たり前で、けれど彼女にとっては奇跡のように尊いこと。その瞬間こそが、美鶴が「自分もまた幸福を選び取っていいのだ」と、ほんの一歩踏み出せた証だったのです。


そして、一方のヴォルフ(ヴィル)

 ここで描いたのは、「戦場の騎士」ではなく、「ひとりの男」としての敗北の瞬間です。彼はこれまで、剣と酒でしか自分を測ってこなかった人間でした。勝つか負けるか、強いか弱いか――その二択でしか生きてこなかった男です。

 しかし、ミツル(メービス)の涙と笑顔の前では、その理屈も矜持もすべて意味を失ってしまう。「むしろ俺がやられている」とは、戦場での敗北ではなく、心を差し出してしまった男の照れ隠しであり、同時に彼自身がようやく自覚する幸福の形でもあります。剣の勝敗では決して語れない「敗北」が、実はヴィルにとっての最大の救済だった――。

 そんな逆説的な幸福の意味合いです。

 彼は仲間といる時には皮肉や冗談も飛ばせますが、いざ真剣な場面になると一切洒落た言葉が出てこなくなる男です。だからこそ、飾りのない短い言葉が彼らしい重みを持ち、彼の誠実さを際立たせていると思います。

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