静かな?晩餐
静かな晩餐
キャンドルの炎が、息をひそめるように揺れていた。深紅のテーブルクロスの上に落ちる影は、わたしと――そして彼。
今日は、誰にも知られていないわたしの誕生日。黒髪の巫女として生まれたその日を、華やかに祝う理由はどこにもない。因習が一夜で消えることもない。国家の再建にすべての力を注ぐべきこの時、儀礼も贈り物も、むしろ遠ざけておきたかった。
だからこそ、この静けさがいい。二人きりで向かい合う、たったそれだけの夜が、何よりも贅沢だった。
銀器のかすかな触れ合い。グラスに注がれた紅の表面に、灯がゆらりと映る。
ヴォルフは口元をわずかに緩め、短く言った。
「今夜のおまえは……格別の上の格別だ」
それきり、沈黙。
わたしはグラスの脚を軽く回し、液面に小さな渦を描きながら笑みを含ませる。
「意味がわからない。どう格別なの? わかるように言ってくれない?」
いじわる半分で問えば、彼の眉間にわずかな影が落ちる。
「……言わせるのか、この俺に」
「ええ、ぜひ聞きたい」
視線を外すとき、彼は小さく息を吐いた。その声は、低く掠れている。
「言葉にするのが苦手だって、知っててそうくるか?」
「月並みな言葉じゃないことくらい、わかってるけど?」
「ああ……そうだな。まずお前は基本からして“格別”だ。それを全部言い出したら、おそらく十分じゃ足りん」
「まあ……」
胸の奥が、じんと痺れる。だから、あえて挑むように微笑んだ。
「じゃあ、そのすべてを聞かせて。きっと、それが今夜一番のご馳走になるから」
片眉をわずかに上げ、唇の端に薄い笑みが宿る。
「……なんて悪趣味なんだ、おまえは。
いいだろう、耳まで真っ赤にするのが楽しみだしな」
「それは楽しみね。受けて立つわ」
「では、覚悟するがいい」
炎の小さな揺れが、彼の瞳の奥で金色に跳ねた。
やっぱり――わたしたちは少し変わっているのかもしれない。
けれど、この不思議な形の愛こそが、世界でいちばん愛おしい。
この後、延々惚気が始まります笑