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テスト  作者: ひさち
2/7

離宮・午後のサロン

https://ncode.syosetu.com/n9653jm/683

元ネタ


 外は冬の日差しが傾きかけ、庭の薔薇垣に淡い橙が射し込んでいる。

 銀盆に載せた茶器の前で、ヴォルフが無言のまま茶葉を計っていた。慎重に指先の感覚で葉の硬さを確かめる。その真剣さに、思わず口元が緩む。


――……酒飲み剣士だった頃から、そうだったけど。

 ひとつひとつの仕草は無骨なはずなのに、どこか色っぽくて、目が離せなくなる。


「それにしても、あなたがお茶にこだわるようになるなんて、信じられないわ」


 からかうように声を掛けると、彼は淹れたばかりの紅茶の湯気から、ふん、と鼻を鳴らしてそっぽを向いた。


「俺だってやりゃあできる。それに――レズンブールがどこで聞きつけたのか知らんが、こう言ってきやがった。『酒を止めたなら、茶など嗜んではいかがかな』と」


「それで?」


「最初は断ったさ。だが……しつこくてな。仕方なくやってみることにした」


 わたしは笑いをこらえきれない。彼の言う「仕方なく」という言葉とは裏腹に、その蒸らす手つきは驚くほど丁寧で、真剣そのものだから。


「へぇ、その割に、ずいぶん熱心みたいだけど?」


「奴に言われたんだ。『陛下に喜ばれますぞ』……とな」


「まぁ……」


 胸の奥が、ぽっと温かくなる。レズンブール元伯爵は、すべてお見通しなのね。


「ポットも茶葉もあいつに押し付けられた。ご丁寧に手書きの指南書まで」


「さすが伯爵先生ね。あなたも、彼の生徒になったというわけだ」


「うるさい。これは奴からの挑戦状みたいなものだ。数字では逆立ちしても勝てんから、せめてこれで唸らせてやれば、俺の勝利だ」


「はいはい。仲のいいことで」


「よくない」


 むっと唇を尖らせながらも、どこか楽しそうだった。

 公には水と油と評される二人が、こうして密かに気脈を通わせている――その事実が、この離宮の冬に、また一つ、温かな灯を増やしてくれるような気がした。

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