前時代的気合流修行法
あの地獄のような魔結晶吸収を続けて早1週間。段々と体が魔結晶から供給される膨大な魔力に慣れてきた。
魔力放出のための魔力弾を打ち続け、初めの頃はパチパチと、今ではメラメラと弾が炎を纏うようになり、ついにその時が来た。
【スキル『火魔法』を習得しました】
「よっしゃ来たぁあああ! ついに、魔法が!! 使えるようになったぞぉぉおおお!!!」
心の底から出た歓喜の叫びが明るい洞窟にこだまする。
『まさかたったの一週間で体に火の魔力を刻み込むとは思いもしませんでしたよ』
「早い方なのか?」
『もちろんです』
「ってか、今言った『火の魔力を刻み込む』ってどういうことだ?」
『この魔結晶に閉じ込められた火の魔力が繰り返しご主人様の体の隅々まで行き渡ったことで、魔力がご主人様の体に馴染んだといいますか、細胞に焼き付いたといいますか、まぁそういう感じの意味です』
「イメージはなんとなく分かった。これで俺は魔力がある限りいつでも火魔法が使えるってわけだな?」
『魔力がある限りは、ですけどね。ご主人様の身体には魔力の生成器官が無いので、泉の高濃度魔力水で魔力を供給するしか今は魔法を使う方法がないんですから』
そう、問題はそこなんだ。
俺は魔力を自給できない。だから魔法を使って魔力が空になる度に泉の魔力水を飲むしかないんだ。せっかく魔法を使えるようになったとて、これではとてもじゃないが実践で使えるとは思えない。
『でも1つだけ、その問題を解決できる方法があるかも知れません』
「詳しく」
『ご主人様は剣を振るとき、特有の呼吸法があるのは知ってますか?』
「なんか聞いたことあるぞ。剣道の高段者とかがやってるっていうやつ」
『ケンドウというものが何かは知りませんが、頭の中のイメージを見る限り、ご主人様のいた世界の剣の修行を目的とした活動か何かですかね」
「ま、そんなところだな」
「なるほど、それなら理解は早いかもしれません。剣を振るときには一呼吸で全身にくまなく空気を送り込む必要があるのは知ってますよね?
その呼吸法で修行をすると、必然的にランニングの時よりもさらに効率良く体内に魔力を取り込むことができるんです!』
「ふーん、でも俺剣なんか持ってないけど」
『そんなものはそこら辺に落ちてる太めの枝を、そのなんちゃって石包丁で研げばいいじゃないですか』
「なんちゃって石包丁言うなし。意外と切れるんだぞアレ」
ナビさんは認めてくれないけど、俺の料理用具セットは色々ある。
まず(粘土質の土を練り固めたのち、乾燥させてから素焼きしただけの)鍋。火の魔力を宿した魔結晶をブチ込んでも壊れないのがウリだ。
そして(洞窟に落ちてた、固くて割れやすそうな石にいい感じの枝を括って作った)石包丁。
さらに(やけに堅くて平らな拾った木の板をそのまま使ってる)まな板と(細い木の枝を石包丁で削った)箸なんかがある。
素材そのままの天然物だ。サバイバルの才能あるのかもな俺。
洞窟を出た先に広がるのは広大な森。太めの枝なんてそこら中に落ちている。
木の枝を削って作る木剣―――思いつく形は色々あるが、どうせなら使い慣れた形の方が何かと便利だろう。
俺は手頃なものを拾い、おおよその形をイメージしながら早速木目に沿って石包丁を滑らせる。
粗方削ってみて分かったことだが、石包丁の切れ味が良すぎるせいか、この枝がしっかり乾燥しているせいかは分からないけど削った面がやけにツルツルしてる。ヤスリで磨いたわけでもないのにここまで毛羽立ちが少ないのも奇妙なものだ。
『意外と器用なんですね』
「即席にしては、なかなか良い出来だろ? 世の中は知恵と少しの工夫で大抵どうにかなるもんだ」
………ってどっかの発明者か偉い人だかが言ってた気がする。
まぁそんなことは今はどうでもいいので、できたばかりの木刀を軽く一振り。
長さ、形ともに地球にいた頃に使っていたものとそこまで変わりはない。が、俺の手の中にはかなりの違和感があった。
「やけに重いなこの木刀。なんとなくの重さは分かってるつもりだったんだけどな」
『ここの森の木は濃厚な魔力をふんだんに吸収して育っているので、密度が普通の木とは段違いに大きいんですよ』
重さは普通の木刀の3倍くらいか? 100本素振りとかしたら腕がもげそうな気がする。
『ではいいですか? 剣を振るときはまず―――』
「いいや、大丈夫だナビさん。コイツの扱いには少々自信があってな……見てろよっ!」
正眼の構えを取り、持っている木刀だけに全神経を集中させる。
息を吸い込みながら木刀を真っ直ぐ振り上げ、一歩踏み出しながら、目の前にいるであろう自分の等身大の架空の相手を正中線で真っ二つにするイメージで勢いよく振り下ろす。
その重量ゆえか、ブォンッと低く鳴る風切音。本来ならもう少しヒュッって感じの音が鳴るはずだから違和感がすごい。
『おぉ! すごく綺麗な素振りでしたよ、ご主人様!!』
「元の世界にいた頃、これを使う部活……団体に入っててさ、仮にもそこのトップだったんだから、せめてこのくらいはできないと」
『私が言うことは何も無いですね。あとは毎日素振りと魔法の訓練を倒れるまでやるだけです!』
「最後になんか嫌な言葉が聞こえた気がするんだが……」
『倒れるまでやりましょうっ!』
この1週間、高濃度魔力下でのランニングに加えて、魔力が空になるまで魔力弾を撃っては泉の水でフル回復とかいう地獄みたいなサイクルを繰り返していた俺のステータスは、HPの最大値が110から200にMPの方は100から300にまで上昇している。
この300ある魔力を空にするまで魔力弾を撃つとなると、最低でも60発は撃たなきゃいけないから地味に大変な作業なんだよな。
これにさらにこのクソ重い木刀での素振りも追加となると本当に体が保たない。あのクソゴブリン倒す前に俺の方が先に自滅しそうな気がするのは気のせいだろうか……?
京也が剣道部の部長になったのは、当然人望とか実力とかそんなものではなく、ただただ押し付けられたから。
例によってご両親は部活動など認めたくはなかったが、部長になったと聞いて、「それなら是非続けろ」と喜んで受け入れた。
部長というハズレくじを掴みながらも結果として良い方向に転がった稀有な例である。
本来なら進学などの際に実績として書けるほどの肩書きであるはずの部長が、なぜ負けくじで選ばれるほど不人気なのかにはこれまた理由があったりするのだが、それはまたいずれ。




