〈閑話〉そう、これは偶然散歩道が重なった的なアレ(前編)
キョーヤとミツキがオリージネの冒険者ギルドに帰ってきてからのお話です。
前後編の二話構成になります。
「彼、ああいう女性が好みなの……?」
金髪の明るい雰囲気の受付嬢のもとに歩いていく彼を見ながら私はポツリと呟く。しかし、通常のカウンターの奥にまで付いて行く様子を見てその考えは一瞬で消え去った。
アレが噂に聞く9番カウンター。
稀にだけど、特別な事情を持った冒険者には専属の受付嬢がつくことがあるらしい。そして彼らは皆、1〜8番のカウンターを使用せずに9番のみを使うんだとか。実際に使われているところを見たのは三年近く冒険者をやってる私でも初めて。
でも実際あそこを使ってるということは、彼にも特別な何かがあるのかもしれない。
―――思い返してみれば、所々おかしい点はあった。
そもそもまず、あの魔の森の奥深くに普通のDランクがたった一人で入って来られるはずがないのよね。あそこは入ってすぐの所は初心者向けの優しいエリアだけど、奥に進むにつれどんどんモンスターも強くなっていく。
そんな中、防具らしい防具も身に着けずに、しかも怪我など何一つ無い状態で平然としていたのがまず有り得ないのよ。
仮に肩に乗っけていたスライムを従魔としているテイマーだったとしても、スライムなんかではあの近辺のモンスターには対応できないわ。だからあの子はマスコット的な存在でしょうね。
そしてサイクロプスが襲ってきたときだって、もし私が手を出さなければ彼自身で倒していたかもしれない。あのとき足が竦んで動けないようには見えなかったし、腰の武器に手をかけていたような気もする。
それに今もの握手もそう。彼のあの手、その見た目からは想像できないくらいに分厚いし、マメだらけだったわ。アレは余程厳しい修練を積まなければそうそうなるものじゃない。
そう考えると彼、本当の実力は全然Dランクなんかではないのかもしれないわね。
実際のところどんなものなのかはすごく気になるけど、今は二日間も野宿だったせいでかなり疲労が溜まっているから、早く宿に帰って休むとしましょう。
◆ ◆ ◆
―――翌日早朝
「おはようございます、ミツキさん。本日はどのような依頼にいたしますか?」
入って右手奥の掲示板を見ていると、ギルド職員の女性に声をかけられる。
「そうね。昨日のSランク依頼達成でかなりまとまったお金が入ったから、しばらくはゆっくりしようと思っていたところよ」
「いいですね! あ、そういえば昨日、非常に鮮度の高い薬草を持ち込んだ冒険者がいるってギルドで話題になったんですよ」
「へぇ、それは良かったじゃない」
「そうなんですよー、しかもなんとその冒険者というのが一昨日登録したばかりのDランクの人なんですって」
薬草……登録したばかり……Dランク………いや、まさかね。
「あ、ちょうど奥から出て来ましたよ。彼がまさにその噂の人ですね」
目に映るのは見覚えのある黒基調の服。
「…………キョーヤ、あなただったのね」
私は呆れたように手を眉間に押し当てる。
「あれ、お知り合いでしたか?」
「知り合いというか、昨日依頼の帰り道でたまたま出会っただけよ」
彼の持ってる依頼………添付されてるスケッチからしてバーニングボアの討伐とグレイザーディアの駆除ね。
確かあの二つは共に魔の森の北部にある村によく出没していたはずだわ。
行く場所が分かれば、彼の本当の実力をこの目で見る機会があるかもしれない。でもただ後を着いて行くっていうのも変な話だし、何かしらの大義名分が必要だわ。
「決めた。私が今日受ける依頼は―――」
◆ ◆ ◆
「ビンゴ! やっぱりここにいたわ」
少し離れたところから肩に例のスライムを乗っけているキョーヤを視認する。
ここは魔の森の北部に位置するノスティモス村。隣接する魔の森から染み出してくる強い魔力によって土壌が豊かになっているおかげで、ブランド品として取り扱われる程質の良くて美味しい作物が育つ。
しかし、それに呼応するかのように森から出てきたグレイザーディアというシカ型モンスターがそれらを食い尽くしてしまうという被害にも多々あっている。
だけど村の人々はそれを逆手に、彼らの肉を特産品として売り出すべく定期的に冒険者ギルドに駆除依頼という名でハンティングを依頼しているというのだから、中々凄いものよね。商売魂というかなんというか、そんな感じのものが。
彼が今回受けたのもその定期的な駆除依頼。
村長さんから依頼についての詳しい説明を受けてから実際に駆除に出向く。
以前私が受けた時は、「売り物にする予定だから角と肉体の損壊は最小限にしてくれ」だとか色々面倒な条件を突きつけられたっけ。条件が色々厳しくて、もう二度とやりたくないと思ったわ。




