怪物の知り合いはこれまた怪物
「―――それで、内密な相談ってのはこれまた何だ?」
案内してくれたミアが出ていき、閉ざされたギルドマスター室には俺とマスラルだけの二人きりとなった。
「あの約束を交わした次の日にすぐそれを実行するとは思わなかったぞ」
「ハハハ、俺も同感ですよ。でもこればっかりはそうするしかないんです」
「君がそう言うならかなりの大事だと見た。今ならドラゴンの鱗を持ってこられても驚かないぞ」
「そうですか? 俺が今日持ってきたものはこれです」
そう言って俺は、何もない空間に手を伸ばす。するとその先の空間がぐにゃりと歪み、俺の手が吸い込まれるようにその中に消える。
これ、マスラルからしたら一瞬俺の手が消えたかのようにも見えるだろうな。
「―――ッ!?」
マスラルがカッと目を見開く中、おもむろに引き抜いた手には、確かに光り輝く白銀色の花が優しく握られている。
「えーっと、これどこに置けばいいですかね?」
「と、取り敢えず一旦机の上においてくれ」
そっと置かれた一輪の花。
しかしその花の醸し出す圧倒的な、神々しさとも言えるようなオーラにマスラルの額から汗が滲み出る。
「キョーヤ、これは一体………」
「俺も名前までは分かりません。ですが、この花がとてつもなく強い回復力を持っていることは実証済みです」
「実証済み、か」
「はい。この花はそのまま単体で使用すると回復し過ぎるから薄めて使う必要があると思います。
だけど生憎自分ではこの花を最大限上手く活用する方法を見出だせないので相談しに来たってわけです」
「………なるほど。それで俺にその花をポーションに錬成してくれる術師を探してほしいってことだな?」
無言でコクリと頷いた俺にマスラルは続ける。
「だが、ウチも慈善事業団体じゃない。いま君が俺に頼もうとしているのは腕の立つ錬金術師への『指名依頼』だということは分かるか?」
「指名依頼………?」
「特定の個人やパーティに名指しで来る依頼のことだ。対象が冒険者ならば、Cランク以上になったら指名依頼が来る可能性がある」
「それって強制的に受けなきゃいけないんですか?」
「いいや、あくまでもギルドは仲介役で各冒険者の自由な選択を尊重している。
だが、指名依頼の報酬は通常のランク別のそれと比べて破格なことが多いんだ。だからその報酬目当てに指名依頼を好んで受ける奴もかなりいるな」
「なるほど。ということは俺はその錬金術師に依頼するために破格の報酬を用意しなければいけないということですね?」
「腕の良い奴を指名したいなら自然とそうなるだろうな」
「分かりました。それなら報酬はこれにします」
再び歪んだ空間を虚空に開き、その中に手を突っ込んだ俺はさらにもう二輪の花を取り出す。
「正気か!?」
かなり驚いたのか、マスラルはガタッと椅子を鳴らして立ち上がる。
「これなら報酬としてはどうですか?」
「………一つですらほぼ目にすることのないような物をさらに二つも貰えるとなれば、下手したら世界中の術師が手を上げるかもな」
「それは俺も望まないですね」
「ま、普通はそうだよな。世間的にはDランク冒険者である君がそんなものをどうやって入手したんだとかあれこれ聞かれること間違いない。
しかもその貴重な花を材料に使ったはいいが錬成に失敗されても困るだろう。
そういった点で考えれば、俺の昔の知り合いに一人こういうのを得意とする奴がいるんだ。だが、そいつもかなりクセが強くてな……」
「ちなみにその人の腕の程は?」
「植物を扱わせたらこの世界の誰よりも上手いと言い切れる自信はある」
このマスラルにここまで言わせる人物か………絶対凄いやつじゃん。
「ならもう決まりですね! その方に指名依頼します! 報酬は―――」
「いや、報酬はあいつが指定すると思うから特に用意する必要はない」
「え、でもさっきは破格の報酬が必要だって……」
「それは一般的な冒険者に指名依頼をする場合だ。あいつはそんな枠に収まるような奴じゃない」
「一体誰なんですか、その人?」
「数多の冒険者共の頂点に君臨し、他の追随を許さない12人の最強格の内の一人―――Sランク冒険者、フローラだ」
Sランク冒険者。
マスラルもかつてその一員だったらしいけど、話を聞く限りとんでもない奴らの集団だってことは分かっている。
だけど、本当にそんな人に依頼して大丈夫なのか?
報酬は向こうが指定するとか言ってるし恐怖でしかないんだが。
とんでもない金額を請求されたり、臓器の一部を要求されたりするかもしれない………
でも一度決めたことだ。ここで断ってはさっきマスラルが言ってたみたいに下手に注目を浴びることになりかねない。
「………分かりました。そのフローラさんという方に指名依頼をお願いします」
「承知した。それで、この三輪の花はそのままフローラに渡してしまっていいのか?」
「あ、いいんですけど一つ留意点があって、それ、とある事情でこの後丸二日は一切の加工ができないようになってるんですよね。だからその旨だけ伝えておいてください」
「わかった」
◆ ◆ ◆
『いやぁ、まさかSランク冒険者の名前がこんなところで出てくるとはな』
『そのフローラという方に任せて本当に良かったんですか?』
『まぁ、マスラルのお墨付きだし、そこまで心配することはないだろ』
『そうだといいんですけどね……』
『というかそれよりナビさん、俺上手く使いこなせてたろ? アレ』
『特訓の成果が出てよかったですね。マスラルがえっ、って顔してましたよ?』
俺がギルドマスター室で使ったのは、龍獄の杜と外界を行き来するのに使うゲート―――通称、『龍獄の門』を応用変化させたもの。
本来なら3mくらいの大きいのものだけど、それを腕一本入るくらいの大きさに設定すれば、龍獄の杜に置いてあるものを自由に取り出せるようになるってわけだ。
当然、こちらのモノも向こうに自由に放り入れられるし、ミツキが持ってたポーチと疑似的にだけど同じような事が俺にもできるってことだ。
これを教えてくれたゼロノスにはホント感謝しかねーよ。これがあるだけで重い荷物を背負って長距離を移動しなくて済むし、旅の快適度が格段に上がる。
「キョーヤさーん! ちょうど商人ギルドの方がいらっしゃたので換金の準備ができました!」
廊下を歩いた先の階段を降りているところで、下の階の作業場からミアの明るい声が聞こえてきた。




