割の良い日雇いバイト
「それじゃあ、私はここまでね。機会があればまた会いましょう」
「こちらこそ、わざわざ教えてくれてありがとな!」
ミツキとオリージネの冒険者ギルドに帰ってきた俺は、カウンターの手前でそれぞれ互いの依頼達成報告をするために握手を交わして解散する。
「さてと、ミアはどこにいるんだ………?」
八つある窓口のどこを見てもミアの姿はない。
どうしたものか。このままじゃ報告できずに報酬がもらえなくなっちまう。奥にいるのかもしれないし、とりあえず誰かに声をかけて呼んでもら―――
「あれ、キョーヤさん? お疲れ様です!」
両手に荷物を抱えたミアが俺の後ろからひょこっと現れる。
「ちょっと待っててくださいねー。今専用の九番カウンターを開けますので!」
ミアがその長い金髪を揺らしながらカウンターの裏に消え、一分くらいした後に奥の方から「キョーヤさーん! こっちでーす!!」と明るい声が聞こえてきた。
大多数の冒険者が利用するであろう普通のカウンターの奥にこじんまりと位置する“9”の札がかかったカウンター。普通に過ごしてたら気が付かないレベルだ。
「はい、コレですね。キョーヤさんが受けた依頼は『アクセシル草、ヒーリング草、キュアトス草、マナゲイン草の採集』です。薬草はそちらのカゴの中ですか?」
ミアがカウンターの上に置いたのは、“受注依頼記録書”と書かれたしっかりとした紙。
見たところ表になっているらしく、一列目に受注した依頼の名前、二列目にそれの達成期間、三列目に五段階の達成度合い、四列目に備考を記入する欄が設けられている。
そしてその紙の右上には“キョーヤ”と俺の名前もしっかりと記されていた。
「あぁ、でもかなり量があるんだけど、ここで出しても大丈夫か?」
「それでしたら、奥の作業スペースを開けますから付いて来てください!」
ミアに従って関係者専用の扉を抜けた先には、いかにも何か解体するのに向いてそうな大きな台が姿を見せる。
「ここに広げちゃって良いんだな?」
「はい! それにしても、その大きなカゴが満杯になるまで採集できるなんてすごいラッキーでしたね。いくら中級の薬草とはいえ、一度にここまで多く手に入るのは珍しいんですよ!」
「へぇ、そうなのか。途中で偶然会った冒険者が群生地を教えてくれてな、おかげで大漁だったぜ」
喋りながらも俺は、四種類の薬草がごちゃ混ぜになってたものをカゴの中から丁寧に台の上に広げる。
「お、お〜っ! これは中々に骨の折れそうな作業ですね」
目の前に広がる薬草の山を見てミアが肩を竦める。
「多分これ、俺達二人じゃ仕分けるのに結構時間掛かるよな」
「え? キョーヤさんも仕分け作業手伝ってくださるんですか?」
「まぁ、こんなに採ってきた張本人だしそれくらいはやらせてもらうよ」
「ありがとうございます! ちなみに今、依頼受注時に差し上げた薬草のスケッチなどが描かれている紙はお持ちですか?」
「これのことか?」
四つに折りたたんであった紙をポケットから取り出してミアに見せる。
「そう、それです! 私すぐに手伝いを呼んできますので、その間その紙に従って種類ごとに分類しておいて頂けますか?」
「了解、サッとやっとくぜ!」
ペコリとお辞儀をしたミアが小走りに部屋を出ていく。
だだっ広い作業部屋に俺ただ一人。誰も見てないなら、わざわざ一回一回紙なんか確認しなくても、ナビさんとの共同作業で手早く終わらせられるな。
『―――というわけでナビさん、サクッと片付けるぞ!』
『ミアが帰ってくる前に終わらせますよ! 準備はいいですね? まずその白い花弁で茎の色が比較的濃いのが―――』
◆ ◆ ◆
「お待たせしましたー、ってえぇぇぇえ!?」
自身と同じ格好をしたような女性二人と分厚い眼鏡をかけたおじさんを一人連れて戻ってきたミアが、綺麗に分類された薬草達を見て目を丸くする。
「………おかえり」
ナビさんの指示のもと、一切手を止めること無く目まぐるしい勢いで作業に集中していた俺は、軽く肩で息をして作業台に少し体重を預けながら返答する。
「な、なんでもう全部終わってるんですか!?」
「私達、大量の薬草の分類作業があるからって呼ばれたのにもう全部終わってるじゃない」
「ねぇミア、これもう帰っちゃってもいい感じ?」
連れられてきた二人の女性職員らしき人たちが、自分たちの出番がないことに不満を漏らす。
「あ、でももしかしたら分類ミスがあるかもしれないですし、その後これらを束にして縛る作業もありますからまだダメです!」
「「は〜い」」
「エフティミアさん、この薬草、素晴らしいぞ!!」
一緒に入ってきたメガネを掛けたおじさんが薬草に顔を近づけながら興奮気味に話す。
「分類は今ざっと見た感じでは一切間違えてないし、そして何より保存状態が良すぎる! なんと言ったって切り口がまだ生きてるんだ!! これは商人ギルドにかなりの高値で卸せるぞ」
「確かにいつも冒険者さんたちが持ってくるのに比べてツヤがあるっていうか、なんだろ、なんか新鮮な感じがするわね」
「メレトさん、この品質なら10本一束でいくら程になりそうですか?」
その後ろから覗いていたミアがおじさんに向かって尋ねる。
「うーむ、通常なら300ネカーだが、これなら最低でも600はいけるんじゃないか?」
「それなら手数料の100ネカー分を引いても、キョーヤさんに一束あたり500ネカー支払われるってことですよね?」
「それは間違いないだろうな」
「ですって! 聞きました、キョーヤさん!?」
「あ、あぁ! それは中々うれしいね!?」
突然名前を呼ばれて、思わず語尾が疑問形になる。
だけどもし本当に、この薬草全部がその価格で取引されるとしたら、見た感じここにある合計100束近い薬草が50000ネカーにもなるってことだろ? 日給5万………日雇いバイト5日分じゃん。もしかしなくても、これは定期的にやる価値あるかもな。
「あ、そうだミア、今マスラルさんっている?」
「はい、多分ギルドマスター室にいらっしゃいますよ。何か御用ですか?」
「少し相談事があってね、できれば内密に会いたいんだ」
「わかりました。すぐ確認してきますね」




