田舎者ならぬ、原始人認定された件
「―――そんで、今何やってんだ? それ」
何やら先程倒した一つ目巨人の胸部を、まるで何かを探すようにナイフで抉っているミツキに後ろから問いかける。
「コイツの心臓の中にある魔石を取り出しているのよ。このレベルのモンスターなら結構良い魔石が手に入るかもしれないからね」
「へぇ、それでその取り出した魔石を売っ払って儲けにするって感じか」
「大抵の人はそうね。でも私は加工して使うのよ。ほら、こんな感じで」
そう言ってミツキが見せてきたのは、両手に装備してある指先に穴の空いたグローブのようなもの。ただその甲には光り輝く石が填め込まれている。
「それは………?」
「私、とある事情で魔力が全く使えないのよ。だから自分の魔力を使う代わりに、このグローブに填めた魔石の魔力を使って拳撃の威力を上げてるの。
でも面倒くさいことに、魔石に込められた魔力は使えば使うほど減っていくからその都度交換しなければいけないのよ。だから強いモンスターを倒して、大きな魔石を集めてるってわけ」
さっきの一つ目巨人の腹をブチ抜いた一撃もそれによるものだったってことか。納得納得。
でもそれとは別にふと疑問が浮かぶ。
「でもミツキはその……エルフじゃないのか?」
「半分正解だけど、半分不正解ね。私は人族と森人族の間に生まれたハーフエルフよ。でもそれがどうかしたの?」
「いや、何となくのイメージでさ、エルフってよく魔法とか弓とかをメインに使う感じがしてたんだよね。だからミツキみたいな戦闘スタイルは珍しいなと思って。偏見とかだったらゴメンな」
「いいえ、別に偏見じゃないわよ。実際、森人族の母は弓を武器にしてるしね」
「そうなんだ。というかそもそも、出会って間もない俺にそんなにいっぱい自分のこと喋っちゃって大丈夫なのか?」
「聞いてきたのはキョーヤでしょ? それとも何、キョーヤは悪人か何かなの?」
「別にそういうわけじゃないけど、隠したりしなくて良いのかなーって」
「まぁ、Aランク冒険者にもなれば自然とその戦闘スタイルとか、使う武器の種類とかも結構皆に知られてるのよ。だから今更、誰かに話したって然程問題はないのよね」
確か、ミアも初めにギルドでランクの説明をしてくれた時にこう言ってたよな。Aランクは他の街や都市にさえその名声が聞こえる程だって。それならこのくらいの認識でも間違っては……ないのか。
「あ、あった!」
そう言ってミツキが取り出したのは、彼女の握りこぶしの二倍くらいの大きさの魔石。軽く汚れを拭き取ったあと、彼女は腰につけていた手のひらサイズのポーチにそれをしまう。
「ミツキ、そのポーチって………」
「多分キョーヤの想像してる通り、空間拡張の魔術が施されたものよ。父と母が私が独り立ちするときにくれた大切な物なの」
あとで聞いた話だが、このポーチは収納したい物(生きているものを除く)がポーチの口に触れさえすれば、最大で家1軒分くらいまでなら余裕で入るらしい。
こんな代物をくれるような両親、一体どんな金持ちなんだ………
「娘想いの良いご両親なんだな」
「そうね、家族仲は割と良い方だと思うわ。さ、これでもう用事は済んだし、後片付けだけして早く帰りましょ」
ミツキが例のポーチから小さな袋を取り出したかと思えば、それをサイクロプスの残骸に向かって放り投げた。
袋が死体に接触した次の瞬間、黒い炎が立ち昇り、みるみるうちに燃え尽きて塵も残さず消滅する。
「えっ、今の何?」
何事もなかったかのように先に歩き出したミツキを追いかけながら尋ねる。
「キョーヤ、あなたこれ知らないの?」
「生憎この国には最近来たばかりでね。詳しいことは何も知らないんだな」
「そうなのね、てっきり私この魔道具はどこの地域でも使っていると思ってたわ」
「初めて見て驚いてるよ。それ、モンスターを燃やすための魔道具なのか?」
「そうよ。使い捨てだけど、モンスターの死骸だけを燃やしてくれるものなの。だからこんな森の中で使っても全く問題無いのよね」
「便利なもんだな、魔道具って」
「その言い方だとまるで、キョーヤのいた所には魔道具が無かったみたいじゃない」
「そうだよ? 実際俺はこの国に来て初めて魔道具ってモンを目にしたんだ」
「………嘘でしょ!? 逆に一体、魔道具無しで今まであなたどうやって生きてきたのよ?」
どうやって、と言われても当然こっちの世界に電化製品とか元いた世界には普通にあったものがあるわけじゃないし、ここはどうやって答えるべきなんだ……?
よし、ここは俺の必殺『根幹合ってれば大体正解戦法』で乗り切ろう。
………ナビさん、その『絶対ロクなものじゃないですよね』ってのは一旦しまっておいてくれ。
「うーん、(ガスコンロで)火を起こして料理をしたり、(上水道から)水を引いて洗濯をしたり、基本ここと変わらないと思う」
主語は省いたけど別に間違ったことは言ってない。オーケー、カンペキ!
「………ず、随分と原始て―――いや、趣のある生活をしていたのね」
ん?? 今「原始的」って言いかけたなかったか? 文明的には多分こっちのほうが栄えてると思うんですけどねぇ!?
「とは言っても、ここも同じようなもんだろ」
「全然違うわよ。わざわざ火を起こしたり水を引いたりしなくても、元々それ専用の術式が組み込まれた魔道具があるから、そこに魔力を少しだけ流せばあとは勝手に火が着いたり水が出たりするのよ」
「へぇ、意外と便利なもんなんだな」
………ミツキ、その「かわいそうな人ね」みたいな表情やめてくれない??
決して惨めじゃないけど、なんか惨めっぽく感じるから!!
あとそこのナビは笑うな。
◆ ◆ ◆
それから軽く話し続けながら歩くこと約10分。
途中少し険しい箇所もあったが、ほとんど難なく進んでこられて、俺達は目当ての薬草の群生地に到着した。
目の前いっぱいに広がる種々の薬草。ここだけ少し開けているせいか、木々の隙間から差し込む光によってより一層輝いて見える。
「どう? ここならかなり採集できるでしょ?」
「あぁ! このカゴなんてすぐに満杯になっちまいそうだ」
「良かった。私はその辺をブラついてるから、終わったら声かけてちょうだい」
「了解ー」
その後、サクッと風魔法で目当ての四種類の採集を終えた俺が呼びに行くと、近くの湧き水で汚れた防具を拭いていたミツキにその手際の良さに驚かれつつ、妙に納得された。
だけどそれが、「まぁ、魔道具も無い原始生活してたくらいだから慣れてるのね」みたいな顔して納得された気がするのでどうも微妙な気持ちだが。




