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飛び出す影 穿つ拳

『そう言えばご主人様、背中のカゴは空のままでいいんですか?』


「え、だからゼロノスに教えてもらったアレで―――」


『いえ、そういうことではなくて、本来ご主人様が受けた依頼の達成に必要な四種類の薬草、まだ何一つ見つけてないじゃないですか』


「あっ………」


龍獄の杜で、希少価値のあるであろう薬草を見つけたことでその存在が完全に頭から抜け落ちていた。危うくこのまま手ぶらで帰還するところだったぜ。


『その様子だと完全に忘れてたみたいですね』


「………仰るとおりでございます」


頭ん中が完全にあのなんかすげぇ薬草と、このブーツの隠し機能(ただ俺が知らなかっただけ)でいっぱいになってたわ。


俺の受けた依頼はアクセシル草、ヒーリング草、キュアトス草、マナゲイン草の採集。目標は採集だけど、その前にこいつらがまずどこに生えてんのかを探さなきゃいけない。


『では、もう一度戻りますか?』


「うーん………」


確かに「近い内にまた行く」とは言ったけど、だからといって数十秒後に戻ってくるのは流石にアホな気がする。しかもそれが本来の目的忘れてました、とかいう理由なら尚更だ。

ゼロノスの野郎、絶対に『お前は馬鹿なのか?』とか言って笑ってくるに決まってる。なんならその様子が今勝手に脳内再生されてる。


「よしっ、やっぱ戻らねぇ! このまま魔の森で探す!」


『見つかりますかね?』


「マスラルのおっさんもDランク冒険者が安全に立ち入れる場所が生息域だって言ってたし多分あるだろ」


『ねーキョーヤー、そこの茂みに―――』


肩の上(固定位置)に乗っかっているプニタが、俺達の背後にこっそり近づいてきている存在を指さす。


「大丈夫、とっくに気づいてるよ。でもあの程度のヤツならいつでも対応できるから気にしてないだけ」


『ボクが倒してこよーか?』


「いや、いいよ。もちろん手を出してきたら返り討ちにするけど、そうじゃないなら無闇に殺したりはしない」


『りょーかーい!』






それから数分の間、例の黒い影はずっと俺達の後を付けてきた。

別に襲ってくるわけじゃないからどうでもいいと思ってたけど、流石にちょっと鬱陶しくなってくる。


そして、余程腹が減っていたか、しびれを切らしたのか、ついに茂みの中から黒い影―――もとい一つ目の巨人が俺達の前に踊り出して来た。


『ご主人様!』


「あぁ!」



今思えばこれが龍獄の杜から出てきて初めてのモンスターとの戦闘。感じるオーラからして弱いだろうとは思うけど、少し楽しみだ!


右手を鮮変萬果の柄に添え、もう一方で鯉口を切―――





「危ないっ!! そこの人、しゃがんで!!」


突然後ろから飛んできた声に俺は思わずその場に身を屈める。


「ハァァァァアアッ!!」


ビリビリと空気が震えるようなけたたましい轟音。直後、腹に大きな風穴を開けた一つ目の巨人がドシンと音を立てて地に倒れ込んだ。


「そこのあなた、大丈夫? 怪我はない?」


そう言って少し返り血を浴びた涼しげな顔で俺の方を振り返り、手を差し出す銀髪の女性。

耳が普通の人に比べて若干尖っているような気がする……もしかしてエルフってやつか!?


「はい、大丈夫です! 助かりました」


差し出された手を握ると、まるで軽い物でも持ち上げるかのようにふわっと体を起こされた。


「無事で良かった。そこを歩いてたらいきなりサイクロプスが飛び出してきて、その目の前にあなたがいたものだから本当に焦ったわ」


ふぅ、と息を吐きながら彼女は腰に手を当てる。


「ハハハ、後ろから突然出てきましたからね」


「これ笑い事じゃないわよ? こいつはサイズ的にまだ幼体とはいえ、成長すればAランク、それも上位に分類される程のモンスターなんだから。一歩間違えれば死んでいたかもしれないのよ?」


「へぇ、これがAランクモンスターに………でもそれを一撃で倒した貴女は当然それより強いってことですね?」


「そうね。これでも私、Aランク冒険者だから」


「Aランク、すごい高いですね! あ、実は自分もつい先日冒険者登録したんですよ。ちなみに今はDランクです」


「え、あなた、Dランクなの!?」


一瞬目を大きく見開き、驚いた表情で彼女が反応する。


「………そうですけど、何か変なことでもありましたか?」


「ここがどこだか分かってるの? 魔の森のほぼ中心に近い場所よ? 大体なんでこんな危険地域にDランクのあなたがいるのよ」


「俺はランクアップ直後の薬草採集依頼でここに来たんです」


「あぁ、なるほど、例の依頼ね。でも残念ながらこの近辺には生えていないと思うわ。多分その薬草って、アクセシル草、ヒーリング草、キュアトス草、マナゲイン草とかじゃなかった?」


「はい、ちょうどその四種類ですね」


「ちょうど良いわね。私これからオリージネに帰るつもりなんだけど、その帰る途中に今挙げた四種の群生地があるのよ。よかったら寄っていかない? 見たところあなたのカゴ、まだ空っぽみたいだし」


これは誘いに乗ってもいいんだろうか? ついさっき会ったばかりの、しかも女性にノコノコついて行って大丈夫か?

誰も見てない森の中だから殺して装備奪ってやる、とかいうタイプかもしれないじゃん?

………いや、でもそれなら初手でわざわざ助けたりしないか。どちらにせよ警戒しておくに越したことはないだろ。


「あ、ごめんなさい、まだ名乗ってなかったわね。私はミツキ。短い間だけどよろしく」


「俺は京也っていいます」


「わかったわ、キョーヤね。それと、嫌だったら答えなくても構わないんだけど、キョーヤは何歳かしら? 見たところ結構若い感じがするのよね」


「18歳ですよ」


「へぇ、私と同い年なのね。それなら敬語は全然不要だわ。タメ語で結構よ。元より冒険者なら敬語はそんなに使わないほうがいいんじゃない?」


なんかマスラルにも同じようなこと言われた気がする……

というか、タメで話すのミアに続いてこの人が二人目じゃん。慣れねぇなぁ………


「……わかった、よろしくなミツキ」


「えぇ、それじゃあ早速行くわよ。―――あ、ちょっと待って」


すると腰に装備していたナイフをシャッと抜いたミツキ。その鋭利な刃がキラリと光を反射する。



え、もう襲われるのかよ俺!? フラグ回収が早すぎ―――

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