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その薬草、取り扱い注意

「おっ、プニタ! やっと起きたか!」


かれこれ体感30分程、真夏のアイスかってくらいに溶けていたプニタが、ぷるんとハリのある元の形状に戻って地面に寝っ転がっていた俺の腹に乗ってくる。


『もう元気だよー!』


「よし! じゃあ早速採り始めよう」


むくりと上体を起こした俺はプニタを肩に乗せて、白銀色に輝く薬草のそばに向かう。


ハラルドもエリクシール草とやらは採取方法が厳しいって言ってたし、ここはなるべく傷まないようにしたい。

サッと刈り取るイメージで、指先から風魔法の刃を形成して―――


『ご主人様それは―――』


「えっ?」



空気が張り裂けるような爆音と共に、俺とプニタはかなり高い空中に身を投げ出されていた。恐ろしい速さで視界から地面が遠ざかって行く。


至近距離からの爆音のせいで耳がかなり痛いが、今はそれどころじゃない。


「プニタ! 大丈夫か!?」


『ボクはへーき! でもこの高さだとキョーヤが危ないんじゃなーい!?』


人ひとり(とスライム1匹)をこんな高さにまで吹き飛ばす威力の爆発とはな……

それでも怪我なくピンピンしてるんだから、この『天威武萌(テンイムホウ)』の優秀さには感謝でいっぱいだ。



………今はまだ上に向かって行ってるけど、多分加速度的にもうすぐ止まる。そしたら俺達は地面に真っ逆さまだ。

恐らく停止位置は上空100m程。そこから逆算すれば落下時間は約4.5秒くらいか。


俺のこの服で無効化できるのはあくまでも攻撃の“威力”のみ。衝撃まで緩和できないことはマスラルとの戦闘で確認済みだ。

だから現に今も、上空に身を投げ出されてるわけだが。


「おいプニタ! 俺の背中側に回って、俺達が地面にぶつかるときの衝撃を抑えることってできるか?」


『もちろんできるよー!! 今そっち行くねー!』


プニタが身体を俺に向かって細く伸ばす。だけどここは空中。思い通りに上手く伸ばせない。

俺も一緒になって手を伸ばすも、想像以上に距離があるらしく、なかなか届かない。


『うーん、あと少し……』


「頑張れ……ッ!!」


突然、上向きにかかっていた力がフッと消失し、ほんの一瞬、まるで無重力空間にいるような感覚に襲われる。


―――最高到達点だ。



ここから先はどんどん加速しながら落ちていくだけ。アッと言う間に地面にクラッシングだ。

地面のシミになるまで残り約5秒………


覚悟を決めろ!!

最悪、頭さえ無事なら体はどうにか再生できる! だから早く頭部の保護を―――!



プニタの方に伸ばしていた腕を引っ込めようとしたその時―――



『届いた!』



指先に確かに感じる弾力。



―――衝突まで残り3秒。



「来いッ! プニタぁぁぁああ!!!」



柔らかい感触が物凄いスピードで伸ばした右腕を伝わってくる。

でもただこっちに来るだけじゃダメだ。プニタが俺の背面に回って、そこからさらに巨大化しなきゃいけない!



―――衝突まで残り2秒。



地面がもうすぐそこだ! 頼む、間に合え、間に合え、間に合えぇぇえええ!!



―――衝突まで残り1秒。



ズシーンという鈍い音とともに土埃が空に舞った。








◆ ◆ ◆


「ふぅー、よかった、よかった!」


『ギリギリだったねー』


俺はギリギリのところで、ヨギ◯ー化したプニタに護られて(を下敷きにして)事なきを得た。


「本当に危なかったぜ。あと1秒でも遅かったら、全身粉砕骨折もんだったよ」


巨大化したプニタを間に挟んでなお地面にできたヒビを見ながら、俺は安堵のため息を吐く。


「そういやナビさん、俺達が吹き飛ばされる直前に何か言いかけなかったか?」


『爆発するから止めたほうがいいですよ、って言おうとしたんです。まぁ、言う前に飛んで行きましたけどね』


「でも、なんで爆発するって分かったんだよ」


『ほら、私昨日ここでご主人様がゼロノスと戦ってる最中に言ったじゃないですか。この辺り一帯の魔力濃度が急上昇しているから、近くで魔法を使用すれば暴発しますよって』


「………確かにそんな事言ってたような気がする。だけどあの時は戦闘中だったからその時だけ魔力濃度が上がったとかそういう訳じゃないのか?」


『確かにあの時はゼロノスが極龍言で力を取り戻した際に発生した余剰魔力でそうなっていました。

ですが今はその力が完全に回復したことで、常にとんでもない濃度の魔力が周囲に垂れ流されてる状態なんです。なので状況的にはほぼ変わらないんですよ。

そしてその強すぎる神気と魔力をたっぷり浴びた薬草の周辺で魔力を使用すれば……当然暴発しますよね、ってことです』


『というかキョーヤ、そもそもお前なんで空に吹っ飛んでいったとき、我が作った『タラリア』を使わなかったんだ?』


「え?」


このブーツ、ちゃんと色とか形状も変えられたからてっきり『天威武萌』と全く同じ機能だと思ってたんだけど違うのか……?


『その様子だと、そもそもそのブーツの効能を知らなそうだな』


「……正直なんも分かってないです、はい」


『実はそのブーツには我の鱗の他に、翼を少々素材として練り込んである。それ故、普通ならば触れられぬ空間を面として捉え、足場にすることができるのだ』


「…………?」


『イマイチ我の言っていることが分かっていないような顔だな。試しにそのブーツに魔力を注いでみろ。そう、そうだ。そしてそのまま空中に足場があると思ってそれを踏むように登るんだ』


「おっ? え? な、何だこれぇぇぇぇ!?」


空中歩行という普通に生きてたらまず体験しないであろう事象に興奮が止まらない。

しかもこれ、使い方次第じゃ空中戦闘もできるんじゃねーか? そしたら戦術の幅がさらに大きく広がる。平面上の二次元的な戦闘から、空間を駆使した三次元的な戦闘が可能になるってことだ。


『“天駆ける靴”を想定して作ったからな、訓練次第では地上で動くのと遜色ない動きで空中を動けるようになるだろう』


「おぉーっ! すげぇ、これ真下だけじゃなくて横にも蹴れんのかよ!」


『横だけではないぞ? それは靴の底に対して平行に足場を作って移動する物だから、やろうと思えば空中で全方位自由に跳ね回ることだってできる』


今動いてみた感じ、重力は下に向かってかかり続けてるけど、それさえ考慮すればマジでぶっ壊れ性能だぞコレ。止まろうと思えば空中に止まれるっていうか、最早浮けるし。


『ご主人様、新しい機能を楽しむのもいいですが、当初の目的の方も忘れないでくださいね?』


「わ、分かってるって! でも魔力が使えないとなると、この薬草はどう採集すりゃりいんだ?」


『それなら一つ我に名案があるぞ? ますお前がその腰の剣で―――』









◆ ◆ ◆


「……今みたいな感じでやればいいんだな?」


『そうだ、それなら街中でも問題ないだろう?』


ゼロノスが教えてくれたコレ、下手したらこの世界で生きてく上でかなりアドバンテージになるんじゃねーか?


確かこういう機能がついた製品って例え小さなサイズでもかなり値が張るはずだし、正直一文無しの俺じゃ手が出せないような代物だろうから、この()()は大変ありがたい。


「あぁ、カンペキだ! また近いうちに顔出しに来るから、そん時はまたヨロシクな」


『おう、我も頼まれたアレをサクッと造っておくからな』


俺達は見送るゼロノスを後に、外の世界に繋がるワープホールをくぐり抜けた。

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