極められし龍の言の葉
「なぁゼロノス、やっぱりお前、俺と戦ったときに比べて桁違いに強くなってるだろ?」
俺は適当な切り株に腰掛けながら横に立つゼロノスを見上げ、問いかける。
『うーむ、強くなっているかと言われればそうかもしれないが、どちらかと言うと『本来の力を取り戻した』と言ったほうが正解に近いな』
「あの戦いの中で、最後の方急に強くなったのとは違うのか?」
『アレは極龍言の力によって一時的に我の全盛期の力を投射し、呪いを抑えつけていただけに過ぎない。だが呪いが完全に破壊された今となっては、そんなもの使わずとも平常時からあの時の力が何の制限もなく出せるようになったというわけだ』
「ちょっと待て―――今俺の聞き間違いじゃなければ、『ごく』龍言って言わなかったか?」
『確かに言ったが、それがなんだ?』
「龍言なら俺も僅かに使えるから理解できるけど、その『ごく』龍言とやらは全くの初耳なんだが?」
『ほう、初耳だったか?』
ゼロノスがニヤニヤしながらこちらを見てくる。
聞いたことないんだから仕方ねぇだろ!
「ナビさんはごく龍言って何だか分かる?」
『すみません、私も龍言は分かるのですが、ごく龍言が何かまでは分かりません。ですが、意味合い的に究極の龍言―――すなわち『極』まった龍言ということではないでしょうか?』
『その通りだ! お前の助手はかなり優秀のようだな』
『「えっ!?」』
突然俺とナビさんの会話に入ってきたゼロノスに、思わず俺達は声が揃った。ナビさんの声が聞こえるのはあくまでも俺の脳内だけであって、外部には漏れていないはず。
「おいゼロノス! なんで俺達の会話がお前に聞こえてるんだ!?」
『ハハハハ! 当然だろう? 我は神龍、人間であるお前の脳に流れる信号に干渉する程度のことができないワケがない』
「…………いやいやいや、普通はどうやったってできねーから!」
『そんなことはない。むしろ、これしきのことさえできなければ神龍としての面目が丸つぶれだ。そもそも我くらいになれば、自身の戦闘時の領域内に発生する全ての事象を直接見ずとも理解できるようになる。というか我の同族はこれができて初めて一人前といったところじゃないか?』
「じゃないか?って言われても俺はドラゴンじゃねーし、分からねーよ!」
『ハァ、今の人間はそんなことすらできないのか。そんなのでは戦闘中の虚を突かれた攻撃に対応できないぞ?』
「そんな人間がいてたまるかってんだ」
いや―――第六感が異様に冴えてるって点で言えばマスラルなんかがそれに該当するのか? だけど流石にあの怪物でも、人の脳の信号に介入することなんてできっこないだろうから、やっぱりゼロノスの言ってることが頭オカシイだけだ。うん、きっとそうだ。
『いたぞ、かつて『勇者』と呼ばれた人間がそうだった』
「………勇者ァ?」
出たぞチートの代名詞、勇者。ほんっと何でもアリだな勇者様よォ?
『あぁ、だが其奴がいたのは随分昔のことだからな。今はもうその末裔がいるだけで、おそらく当の本人はもうこの世にはいないだろう』
「ふーん。まぁ、いないなら安心だ。っていうかそうそう、大分話がズレかけてるけど、俺まだ“極龍言”とやらについて詳しく聞いてねーぞ?」
『おっとそうだったな。だがこの話をする前に一つ聞かせてくれ。そもそも大前提としてお前は『龍言』というものが何なのかは分かってるのか?』
「簡単に言えば、言葉に己の意思を乗せて理を捻じ曲げる力、だろ?」
『概ね正解だ。龍言というものは我らドラゴン、即ち龍種と呼ばれる者たちの中でも上位の者だけが世界に対して行使し得る力だ。そしてその中でも通常の龍言より群を抜いて強力なものが『極龍言』と呼ばれるものになる。己の最も得意とする龍言を極限まで極めた先に会得する、つまるところの“必殺技”というやつだ。
極龍言と通常の龍言の威力の差は最早言うまでもない。同系統のものならば、例え龍言を行使できる者が数十集まったとしても、たった一つの極龍言の前に為す術もなく掻き消される』
「お前……そんなやべぇヤツを俺との戦いで使ってたのか?」
『過去時空の投影で一回、時空間の断絶に一回だけだぞ?』
「いやいやいや『だけだぞ?』じゃねーよ! そんな危険なモンをポンポン使うな!」
『ハッハッハ! 安心しろ、この我であっても極龍言の行使はかなりの負荷がかかる。龍言ならそこらの半端な龍種と違って、日に何度も使用できるが極龍言はそうもいかない。だからこそ切り札として普段は温存しておくのだ』
おいおい、え? 龍言って日に何度も使えるもんなのか……? 俺まだ簡単な自己強化とか、他者の行動の制限が少しできるくらいなんだが??
『それにこの力はあまりにも絶大すぎるが故、誰もかもが簡単に使える訳では無い。今現在我が知る限りでは、極龍言を使いこなせるのは我を除けば七体の始源龍と称される者のみだな』
しげんりゅう………しげんの龍……「始源」龍か?
いや今はそんな事はどうでもいい。それよりもっと重大な事実が発覚しちまったからな。
「―――お前の他にも極龍言使えるやつ居んのかよォ!!!!」
かなーり弱体化してたであろうゼロノスだからどうにかなったものの、他のおそらくピンピンしてるような始源龍とやらにかち合ったら生きていられる自信ないぞ? さっきちょっとだけ話題に出てきた勇者なんかよりもよっぽどヤバいじゃん。
『ここ数百年は我も会ってないから今がどうかは知らないが、出会い頭に殺しに掛かって来るような奴らじゃない………とは思うから安心していい』
「最後の一言で警戒心が最高値に達したぞ」
苦々しい顔をした俺を横目に、ゼロノスの笑い声が開けた杜に響いた。




