授からぬ者の果て
同じような生活を続けて早一週間。少しずつ体に変化が出てきた。
MPはそもそも魔力の使い方がさっぱりだから増えることも減ることもなくそのままだが、HPは110から200まで上昇した。
例のランニングも初日に比べてだいぶ早く終えることができるようになったし、濃い魔力に慣れてきたってことなんだろうか?
「ナビさん、今日のランニングも終わったよ」
『お疲れ様です。先週に比べて体に魔力が馴染み始めてきてますね』
「おっ、やっぱり? なんかランニングがかなり楽になった気がするんだよな」
【スキル『抗魔力』を習得しました】
突如頭の中に響くナビさんとは違う女性のような声。いつの間にボイスチェンジャー機能なんて付けたん―――
ん?
待て待て、今しれっとすげぇこと言わなかったか?
スキル?
俺って“苦痛耐性”以外のスキルはつかないんじゃないのか?? これは一体どういうことだ?
「ナビさーん、この頭の中に今聞こえた声ってナビさんのか?」
『いいえ、その声はスキルなどを授与された際に頭の中で響く声ですね。この世界の人々は皆その声を “神様の声” と呼んでいるそうですよ』
「へぇ、スキルをくれる神様なんているのか」
『15歳になった全ての子供にスキルを授けてくれる神様がいます』
「でも俺17歳なのになんで今このタイミングでスキル授けてくれたんだ?」
『いえ、ご主人様に授けられているスキルは“苦痛耐性”のみです』
「え、なら、この新しいスキルは一体何なんだ?」
『それについて話すにはまず、“スキル”とは何なのかを話さないといけませんね。
そもそもスキルというものは先程も言った通り、15歳の誕生日にスキルを授けてくれる神様―――創造神クリエ様から授けられるもので、その種類は多岐に渡ります。戦闘向きのモノもあれば、生産向けのモノもありますね。
そしてそれらは習熟度に応じて進化したり、関連スキルの獲得ができたりもします。なので大抵の場合、発展させる基となるスキルが無いときに、いま所有してる他のスキルに全く関係性のないものが新しく増えるというのはかなり稀な例ですね』
「稀な例ってことは、全く以ってあり得ないってわけじゃないのか?」
『はい。極めて過酷な環境下において、長い年月それだけを集中して極めたとしたならば新たにスキルとして習得することができます』
「別に俺“抗魔力”とかいうのを極めたつもりはないんだけど……」
『恐らくですが、この環境が原因となっている可能性があります』
「この濃度の高い魔力環境がか?」
『以前傷ついた体をこの泉で治そうとしたとき、過剰回復によって体が壊れないようにするために体がより強靭になるって話をしたの覚えてますか?』
「もちろん覚えてるよ」
『今回の場合は、今まで一切の魔力に触れてこなかったご主人様がいきなりこんな魔力濃度の高い場所で高負荷なトレーニングを始めたものですから、周囲の魔力に侵されて体が壊れるのを防ぐために“抗魔力”スキルが得られたんだと思います』
「なるほど……ってことはこの魔力濃度の高い環境を活かしてもっと高負荷な鍛え方をすれば、もしかしたら更に新しくスキルを習得できるかもしれないってことだな!?」
『まぁ、そうとも言えますけど……それ以前に体が保ちませんよ? 濃すぎる魔力は毒と何ら変わりないんですから』
「……死なない程度にギリギリまで頑張ってみるさ」
『そうですね……それなら“抗魔力”スキルも習得したことですし、そろそろ魔法の練習を始めてみても良い頃かと思います』
「えっ、でも俺って魔法が使えないんじゃ……」
『ご主人様には擬似的とはいえ、体内に魔力を貯蔵して置ける場所とそれを運用するための回路があるんですから、やろうと思えばやれるはずです。そしてHPとMPの差をあまり広げないためにもこのタイミングが最適かと思います』
「別にそこは物理特攻型戦士みたいにMPがなくてもいいと思うんだけど」
下手にやったことも見たこともない魔法なんかに手を出すくらいなら、物理攻撃を磨いた方がタメになる気がする。
『そういう方も少なくはないですが、ここは敢えて武器も魔法も使える選択肢を推奨します』
「理由は如何に」
『ここのような高濃度の魔力で満ち溢れてる空間はこの世界でもかなり稀で、ここでなら肉体と魔力貯蔵量の両方を同時に効率よく鍛えられるからです』
「でもそれだと所謂、器用貧乏ってやつになるんじゃないのか?」
『極めるまでに果てしない行程が必要な器用貧乏は、逆に言えば、極めれば最強ってことですよ!』
極めれば最強ねぇ……言うは易く行うは難しって感じしかしないワードだな。だけど不思議と気分は悪くない!
「その案、乗った! ナビさん、早速俺に魔法の使い方を教えてくれ!!」
多少、いや、かなり辛いであろうことは承知の上だ。ま、それくらいやらないとあのクソゴブリンには勝てっこないだろうし、全くもって問題はない。
『そうですね、まず魔力を知覚するところから始めてみましょうか』
「胡座とか組んで瞑想でもすんのか?」
『いいえ? アレを大量に飲んでもらいます』
「アレって?」
『ご主人様の目の前に大量にあるじゃないですか』
「飲めるって言ったって、飲んだら体の中で爆発が起こるような高濃度魔力水を飲めってか? 前にナビさん自身が飲むなって言ったのに?」
『はい!!!』
「え、本気ですかナビさん、意地悪したいとかじゃなくて……?」
『……ガブ飲みします???』
「い、いや、け、結構です! 軽く飲ませていただきやす!!」
恐る恐る泉から手桶一杯分の高濃度魔力水をすくい、覚悟を決めて一気に飲み込む。すぐに襲い来るであろう強い衝撃に身構え、息を深く吸い、全身の筋肉を強ばらせる。
さぁ、いつでも来いッ!
「―――体が焼けるように熱……くない??」
胸の当たりがほんのり温かくなっただけで、想定していた痛みなどは全く起こらなかった。
『先程習得した“抗魔力”スキルによって過剰回復によるダメージが軽減されているんですよ。それで、魔力は感じ取れました?』
「血管の中をすごい勢いで流れてる、このなんかちょっと熱いやつか?」
『そう、それですよ! 次にその体内の魔力を体外に放出してみて下さい!』
「放出するって言ったって、血管の中を流れてる魔力をどうやって外に出すっていうんだよ」
『ご主人様の魔力は厳密に言うと血管の中を流れているんじゃなくて、血管に沿って全身に流れているだけなので体外への放出は意外と簡単なはずです! 体の中にあるその熱いエネルギーを指先に集中させるようにイメージしてみて下さい』
「こ、こんな感じか??」
『そうです、そうです! って、あっ、そのままだと爆……』
一瞬で閃光が視界を覆い、爆発音が轟く。
「………」
『………発しますよ??』
「言うのが遅いわっ!!!!」
『でもご主人様の魔力量が少なかったおかげで爆発も小規模で済みましたし、良かったじゃないですか』
「そういう問題じゃない!!」
『反省しておりまーす』
絶対反省してないだろこのナビ。
この世界では生まれながらによるスキルの等級、即ちレア度というものには差異はなく(ユニークスキルを除く)、一番初めに「授かる」スキルの種類のみが異なります。
そしてそれを地道に極めるとスキルツリーが進化し、上位スキルに進化したり、関連スキルの「獲得」につながります。だから生まれ持ったスキルを元にジョブを決めるという感じです。
中にはどうしても獲得したスキルとなりたいジョブが違うといった人もいて、そういった人々は大変過酷な環境下において、長い年月それだけを集中して極めることで新たにスキルを「習得」し、なりたいジョブになる人もいます。そんな狂気じみたことやる人は滅多にいないですけどね。
ちなみに京也の場合はスキルを「習得」しています。




