神なる龍を超えるは真なる強者 其の二
かつてゼロノスに挑んだ破天丸も使っていたこの鮮変萬果。勝つため、いや、生き残るためにはこいつをどれだけ使いこなせるかに全てがかかっている。
掠れば即死のブレスを避けつつ、隙を見て即座に抜刀する。
抜きはなたれたの白銀色の刀身に風属性の魔力が吸収され、その刃が緑色に染まる。
「嵐刃、風切ッ!」
刀身に渦を巻くように纏わっていた風が、鮮変萬果を振ると同時に透明な刃を形成し、ゼロノスに向かって飛んでいく。
―――カァァァアン!
金属どうしがぶつかったような音が響き、爆発が起こるが、ゼロノスに効いている様子は全く無い。
「クソッ、いくら斬空のちょっぴり下位互換の技だとはいえ、まったくの無傷かよ………」
遠距離最強の技である斬空は、居合の構えから超高速で刀を振り抜き、放った風の刃が周囲の魔力や対象の魔力を吸引し、巻き込みながら、その軌道上の全てを一刀両断できる。だがその反面、なかなかに発動が難しい。
その超高速かつ、圧倒的な威力のためには色々手順を踏まなきゃならない。
一度納刀して、さらに鞘の中で刃に沿って風の魔力を高速で循環させなければいけないという、戦闘中においてはかなり致命的な問題を抱えているのだ。
すなわち初手ブッパ以外では使い勝手が悪く、今みたいな一瞬の停止すら許されないような戦闘では使いたくても使えない。
だからこそ何の準備もいらずに撃てる風切にしたんだけど、失敗だったか。
一応この技もそこら辺のモンスターなら一刀両断できるくらいの威力はあるはずなんだけどなぁ……
『そんな生易しい斬撃が我が龍鱗を砕けるはずがないだろう』
並大抵の攻撃では傷一つつかないのをありありと見せつけるように煌めく龍鱗。こいつに真正面から挑んだところで無意味なのはハナから分かっている。
だけど、鱗と鱗の隙間ならどうだ? 巨大生物かつ全身フルアーマーみたいな奴の弱点といったら関節部分か鎧の繋ぎ目だろ?
「その中から灼き尽くしてやるよォ!」
鮮変萬果の刀身が赤く染まり、その周囲の空気が刀身から溢れ出る熱気によって揺らぐ。
「炎刃、灼烈ッ!」
上からこちらを消し飛ばさんと迫るブレスを避け、ゼロノスの腹部に滑り込みつつ、その鱗の狭間に一閃。
その勢いのまま転がり抜けるように、受け身を取りつつ更にもう一太刀。
流石にこれ以上の追撃は危ういと判断した俺はその場から即座に退避する。
ゼロノスの下腹部から立ち昇る白煙。
取り敢えず一撃が入ったという安心感が僅かながらに俺の中に広がる。
『…………ご主人様』
だが、それが幻想であるとでも言うようにゼロノスはニヤリと笑う。
『鱗の僅かな隙間を狙うのは良い判断だが、威力が低い。そんな傷、痛くも痒くもないわ!』
確かに手応えはあった。それなのに………傷跡が全く存在しない!
「こいつは斬った箇所から、斬られた者の魔力を伝ってその周辺全てを焼き尽くす技だぞ? それが再生してたまるかよ!」
『だからその炎ごと封じたのだ』
再生した、ではなく封じた、と言ったゼロノスの言葉が妙に引っかかる。
「そんなことできるはずが………」
ふと脳裏にこの身に覚えのある感覚が浮かび上がる。
たとえ理不尽な状況でもその意思だけで思うがままに理を捻じ曲げる力。
「………龍言、か」
破天丸から授かった『冥鬼の加護』の効能の一つである、龍の権能の一つである理を支配し操る力、龍言。
俺が以前試しに発動してみた時は反動で全身の骨が砕け、魔力水のお世話になった。
幾度となる検証の結果、自分にだけ影響を与える内容を、それも数秒のみ、というのが今の俺の限界だ。
だがその権能の本来の持ち主である龍、しかも神龍であるゼロノスなら、いとも簡単に封じることができたに違いにない。
『ほう、よく知っているな。まぁ冥鬼の力を受け継いだのならば知っていてもおかしくはないか。だが、それに気づいたところで我が龍言を打ち破る術など貴様は持ち合わせていない!』
それに関しては全くもってその通りだ。
だが龍言は絶大な力を誇る分、いくつかデメリットも存在する。その中の一つが、己の限界を超えて発動しようとすれば、命に危険が及ぶというものだ。
恐らくゼロノスは今、灼烈で斬ったところから本来なら広がって焼かれているはずの肉体を、斬られた肉体の時間を止めるか、消えない炎それ自体を時間的にか空間的にかは分からないが封じているんだろう。
時間、空間を操るなんていう規模のものはとてつもない力が必要なはず。だったら俺が取れる手段はただ一つのみ。
「お前はいつまで俺の技を封じ続けられるかな?」
俺は同じ龍言は一日に一度きりしか使えないけど、ゼロノスも同じかは知る由もない。
仮にゼロノスが同一内容を日を跨がずに発令できるとしても、全く同じものを全身の様々な箇所に、それも同時に行うとすれば、流石にその数に上限はあると見ていいだろう。
そう、即ちとにかく多くの傷跡をつくり、その一つ一つを封じさせることで発令できる龍言の上限に達させてしまえばいいのだ!
「氷刃、凍壊ッ!!」
極寒の冷気を纏う水色に染まった刃が、鱗の隙間を斬りつける。
だがそれもやはり、侵食しきる前に傷口の氷の拡大が止まる。
「やっぱりな! ゼロノス、お前同じ龍言を一日に何度も、しかも同時に発令できるんだろ?」
『我は龍の頂点。他の龍ができなかろうが、我に不可能は無い』
「ならお前にも限界を教えてやるよ!」
俺は氷刃状態のまま、鮮変萬果で鱗の隙間だけを狙って斬りつけていく。
撒き散らされる即死攻撃を間一髪で躱しつつ、近接最強の凍壊でヒットアンドアウェイを繰り返す。
だが―――
「おいおいマジかよ、軽く30箇所は斬ったってのに、全然余裕そうじゃねぇか!」
『たかがこれしきで限界を教えてやるだと? 吐かせ!』
今まで地上で俺の攻撃を受け続けていたゼロノスが遂に四つの翼をはためかせ、上空へと舞い上がる。
その羽ばたきによる暴風で俺は思い切り地面に叩きつけられた。
口の中に広がる鉄の味。
クソッ、多分どこかの骨か内蔵がイカれたな。
「ゼロノスお前なんで急に飛ぶんだよ! 攻撃届かねぇじゃねぇか!!」
『…………』
「『貴様はバカか?』みたいな顔すんじゃねーよ!」
『我にはこの雄大な翼があるのだから、飛ぶのは当然だろう?』
少しニヤッと笑ったかのようにも見えたゼロノスが、上空からブレスを所構わず地上に向けてぶっ放してくる。
「うぉぉぉぉおお―――!!!」
ひっきりなしに撃ち込まれるブレスを今のところ全部ギリッギリのところで躱して何とか持ち堪えてはいるが、このままでは埒が明かない。
この無限かのように思えるブレスを回避するのに、剥き出しの刃はかえって邪魔になる。
だが逆に言えばこれは好機。納刀しさえすれば、あの技が使用可能になるからな!
だからこそ無闇に納刀するだけじゃダメだ。それをどこの部位に、どのタイミングで放つかが重要になってくる。
この休む間もない戦闘の中で使えるチャンスはたった一度きり。それを逃せばもう俺に勝ち目はないと言っても過言じゃない。
とは言っても狙う場所は現状一つだけ。位置の不利を覆さない限り、この先戦闘続行は不可能だ。
『ご主人様、まさか―――!!』
俺の思考がリンクし、その決断に驚いたナビさんの声が頭の中に響く。
「あぁ! 奴の翼をぶった斬る!」
さぁ、龍墜としといこうか―――神龍ゼロノス!!!




