悪鬼よ、裁きの時は来た
「あ? 何も起きねぇな………」
『おい貴様、それを今すぐ吐き出せ!!』
「嫌だね。吐き出したらお前いつか復活すんだろ? お前は絶対に今日ここで殺す」
『よせ! いいから早く吐きだ―――』
最後の言葉が虚しく風の中に消える。一瞬にして魔龍の肉体が崩壊し、塵となって消滅した。
「やっぱりこれ食べるのが正解だったんじゃねぇか。これで一安心、後は―――」
―――ドクンッ!!
破天丸の心臓がかつてないほど強く波打つ。
自分でも認識できるほど血がもの凄い速さで全身を駆け巡る。
(何だこれ……、体が熱い……!? クソッ、頭の方までボーッとしてきやがった……意識が呑まれる………!!)
白目を剥いてガクンと膝をついた破天丸は、そのまま未だ晴れぬ黒雲を仰ぎ見るように地面に倒れる。
仰向けになった破天丸の体が突然黒雷を纏い始める。角の色が金色に変わり、強制的に“破天”状態に突入する。
破天は自身の力の上限を解放するためのものだが、それと同時に有り余る力で肉体が崩壊しないように常時魔力で全身を常に治癒し続けている。
即ち、無意識下で破天が発動したということは肉体の崩壊がなされそうになっているということでもある。
破天丸の体はしばらく痙攣するかのように震えていたが、時を見てそれは沈静化し、代わりに黒い靄のようなものが体に纏い始めた。
靄のようなものが体に纏い始めて数分、破天丸はようやく目を覚ます。
「ハァ、俺としたことが情ねェ………龍一匹斃したくらいで満足していちゃあ、復讐もクソもあったもんじゃねぇよなァ!?」
まるで人が変わったように血走った眼。
威圧感だけで目の前にいる者を殺せそうな雰囲気。
滝壺の中で誓った復讐の念が破天丸を一気に呑み込んだ。
「俺は両親を見殺しにした奴を全員殺さなきゃならねェ。それこそ苦痛に塗れる死を贈ってやらなきゃいけねェ。こんな所で立ち止まってるわけにはいかねェんだよなァ!!」
魔龍の力を取り込み、もはや押さえつけようのなくなった狂気が鬼の村を目指して歩み始める。
◆ ◆ ◆
「おい、向こうから誰か歩いてきたぞ!」
「何だ何だ、供物に出した奴が逃げ帰ってきたのか?」
「待て、あいつなんか黒くないか?」
「なぁに、魔龍の攻撃から必死で逃げてきて煤塗れなんだろ」
「おい、聞きたいことがある」
「「「「ヒィッ!!!」」」」
かなり離れていた所にいたはずの黒い鬼がいきなり目の前に現れ、真ん中にいた一人の胸ぐらを掴んで質問してきたのだ、当然皆ビビり散らかす。
「………………ッ!!」
「な、何でしょう?」
胸ぐらを掴まれ、顎がガックガクに震えて話ができなさそうな鬼に代わって、その隣の鬼が代弁を申し出る。
「お前たち、魔龍に生贄を差し出したよなァ? その生贄を決めたの誰だ?」
「そ、村長の獅子丸さんです!」
「ほう、村長ねェ………おい、そいつの家まで案内しろ。下手な真似をしたら全員殺す」
「ヒッ、ヒィ、わ、分かりました。すぐにご案内致します………!!」
◆ ◆ ◆
「おい、獅子丸ってのはどこにいる?」
屋敷の門を蹴り破って入ってきた破天丸に、未だ獅子丸の屋敷の中に避難していたほぼ全員の村人たちがざわめく。
「おい、そこのお前、殺されたくなきゃ言う事聞けよな? 村長の獅子丸とやらはどこにいる?」
近くにいた男の首を掴み、脅すように尋ねる。
「し、獅子丸さんなら、た、建物の中にいらっしゃると思います………」
「おい、何の騒ぎだ!」
村人たちの騒ぎを聞きつけて、獅子丸が玄関の戸を開けて外に出てくる。
「貴様が獅子丸かァ………!」
扉を開けて出てきた獅子丸の前に一瞬で破天丸が姿を現す。
「な、何者だ貴様ッ! おい、お前たち! こいつを早くつまみ出せ!!」
「そこにいる八人、一歩でも動けばこいつの首をへし折る」
獅子丸が破天丸の手の中にいるのでは獅子丸の部下たちも動くに動くことができない。
「貴様、何が目的だ! 金か? 金ならやらんぞ!?」
「金なんてどうでもいい。貴様、一番初めに魔龍の処に連れて行った生贄を覚えているかァ?」
「そんなものあの龍の封印を解き放った裏切り者に決まっているだろう?」
「あの生贄にされた鬼が魔龍の封印を本当に解き放ったのかァ?」
「当たり前だろう! だから生贄にされて当然なのだ!」
「その言葉に嘘は無いだろうなァ?」
「嘘なんてついてどうする!」
「ハハハッ、貴様、中々図太い性格だなァ! こんなに堂々と嘘が口から出てくるなんてなかなかできる芸当じゃねェぞ?」
魔龍の宝命核を喰らったことで龍の力を受け継いだ破天丸には、当然、真実を見通す龍の目の機能も備わっている。
「ほう、貴様の子とその連れたちが封印を破ったのかァ!」
「なっ……………!?」
獅子丸の顔からスゥッと血の気が引いて一気に青ざめる。
「で、出鱈目を言うな! そんな証拠がどこにある?」
「いいだろう、おいそこの屋敷の奥に隠れてる三人の餓鬼、こいつを殺されたくなきゃ今すぐここに来い!」
「や、やめろ、お前たち来るんじゃない!!」
「何をそんなに焦っている? その生贄に送り出した鬼が本当に封印を破ったのならば全く問題はないだろう? おい、餓鬼共、早くしろ!!」
建物の奥から金士郎、滝丸、焔介の三人がバツの悪そうな顔をして出てくる。
破天丸は掴んでいた獅子丸を村人の方に放り投げ、代わりに三人を村人からよく見えるように並べて立たせる。
「いいかァ? 俺の眼は真実が視えるんだ。嘘をついた瞬間にその首斬り落とすから気をつけて話せよォ?」
三人の餓鬼たちは恐怖のあまり、ただ必死で頷くことしかできない。
「じゃあ聞こう。あの当時、本当は何があった?」




