龍鬼決着
風の刃と爪による飛ぶ斬撃が互いにぶつかり合い、空中で爆ぜる。
一度納刀しなければ撃てない斬空と違い、爪の斬撃は予備動作なしに両手の爪の分、最大10本まで飛ばすことができるため、撃ち合いになると魔龍の方に圧倒的に利がある。
次々と息をつく間もなく網目のように迫りくる斬撃を寸分の狂いもなく受け流さなければあっという間に体が微塵切りにされてしまうので、下手に前に進むことができずその場で足止めされる。
(クソッ、この斬撃キリがない! 俺も全ての斬撃を正確に弾けるわけじゃないから細かい傷がかなり増えてきた。
この程度の傷なら瞬く間に治せるから全く問題ないが、万が一腕でも吹っ飛ばされたときにはこの斬撃の嵐の中で治すまでのほんの少しの間に間違いなく致命傷を食らう!)
このままここで受け続けても不利になると判断した破天丸は、多少の傷なら構わないというかのように、黒雷を纏い、超高速移動が可能になったその脚で斬撃の中を一思いに駆け抜ける。
『貴様、正気かッ!?』
「お前を殺すまで俺は止まらねぇよ!!」
『このイカれた黒鬼め!!』
魔龍が刀を振ればその刃が届く距離まで急接近してきた破天丸にゼロ距離で斬撃を浴びせようと爪を傾ける。
しかし、破天丸も何の策も無く接近してきたわけではない。
「その爪ごと叩き斬ってやるよォ!! 氷刃、凍壊ッ!」
水色に染まった刃が魔龍の爪と接触した瞬間、その金剛石のように硬い爪がパキンと高い音を立てて折れる。
『―――ッ!?』
凍壊はその名の通り、凍らせて“壊す”技である。
斬った全てを冷気によって一瞬で凍らせるが、その実は斬った内部まで根を伸ばした冷気が表面だけでなくそこに存在する全ての粒子の運動を完全に止めることにある。
それ故、刃が触れたところは大変脆くなり、即座に崩壊が始まる。
魔龍がこれを先程体に食らったとき、斬られた部分が少し体を動かしただけで崩壊してしまったのもこの作用によるものである。
魔龍の爪を砕いた鮮変萬果がそのまま宝玉に衝突する。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉおお!!!」
この瞬間に宝玉を破壊するべく全身の力を刀に全て乗せる。
『ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉおお!!!』
魔龍も必死で抗う。もう死に物狂いだ。
凍壊の影響で砕けるかもしれないことなど考えもせず、爪を失ったその手で鮮変萬果を掴み押し戻そうとする。
だが、その抵抗も虚しく、少しずつ、少しずつ宝玉に亀裂が入り始めた。
「砕けろぉぉぉぉお!!!」
『させるかぁぁああ!!!』
(この絶好の機会を逃したらもう宝玉に近づくことはできないかもしれない。今ここで破壊できなければこの先こいつに勝てる未来はない!!)
破天丸の体の纏う黒雷がさらに勢いを増す。
全身に力が漲り、宝玉を斬らんと鮮変萬果を握る力も強くなる。
「終いだぁぁぁぁあっ!!」
『クソがぁぁぁぁぁああ!!!』
宝玉に大きく走った亀裂が閃光を放ち、大爆発する。巻き込まれた破天丸は無防備なままモロに爆発を食らい、凄まじい勢いで吹き飛ばされた。
◆ ◆ ◆
ハッと目を覚ますと魔龍の姿がどこにも見えない。
(もしやあそこまで追い詰めたにも関わらず逃げられたのか?)
ボロボロの体を再生しつつ、辺りをしばらく見回っていると、少し離れた所にもぞもぞと這いながらどこかへと向かっている、肩から腰にかけて半身が消し飛んだ魔龍が目に入る。
(いたいた、でもあいつどこに向かってんだ?)
素早く魔龍のもとにいき、体を蹴飛ばして様子を見る。
「おい、お前まだ死んでなかったのか」
『ハッ、この宝玉が砕かれようと我が滅びることはない!!』
そう鼻で笑う魔龍の胸には真っ二つに割れた宝玉。
『我ら龍は不滅の存在。宝命核が砕ければ肉体は失うが、この核が時間を経て再生したとき、我は再びこの地に再臨するだろう!』
よく見れば魔龍の体が徐々に崩壊していっているのが分かる。
「俺がそんな事をこのまま黙って見過ごすとでも思ってんのか?」
『ハハハッ、貴様は見過ごすしかないのだ! 我は概念として世界に固定される者故、貴様がこの宝玉がどれだけ細かく砕き、水に流したり地に埋めたりしようとも、必ず再び集まり、我は蘇る!』
「だから伝説の黒鬼もお前を封印するしか無かったんだな」
『その通りだ。しかし貴様は本当に運が良いな。そんな羅刹とは比べ物にならないくらい弱い状態で、復活直後のほとんど龍としての力を行使できない我と戦えたのだから』
「復活直後じゃなきゃこの勝負お前が勝っていたとでも言いたいのか?」
『貴様は本当に何も分かっていないな。一方的な殺戮を勝負とは言わぬ、蹂躙と呼ぶのだ。
弱肉強食のこの世界で強者は弱者と決して勝負などしない。いたぶって楽しむだけだ』
「話にならないってか、言ってくれるぜ」
ここでピーンと破天丸の中である考えが浮かんだ。それを実行すべく崩壊が進む魔龍の胸から二つに割れた宝玉を取り出す。
『言ったろう、それはどんな事をしても破壊できないと。何をしても無駄―――』
「だけど食えないとは言ってないよな………?」
途端、魔龍の表情がガラリと変わる。大きく見開かれた眼で破天丸を穴が空くように見つめる。
『おい待て貴様、何を考えている!? まさかその宝命核を取り込もうとしているのか??』
魔龍の焦り様に破天丸はニィと悪い笑みを浮かべる。
「何、俺に食われたらマズいってのか?」
『貴様、分かっているのか!? それは概念として生きる龍の生命の源だぞ? それを取り込むなんて自殺行為に等しいわ!』
「壊しても埋めても封じても死なないっていうなら、食っちまったら養分として消えるかなって」
魔龍は呆然とした顔で破天丸を見上げる。
理論上その考えは間違っていないのだ。
事実、魔龍が他の龍を殺したときも同様に相手の宝命核を喰らって力を奪い、自身の核にその力を統合することで己の強化をしていた。
(これが野生動物なんぞに食われるのならその動物の体が爆散するだけだから全く問題ない。
だが、仮にもこいつは完全な状態の宝命核を粉々にした羅刹の子孫。こいつがコレを喰らったらどんな影響が出るのかは全く予測がつかない!!)
『一旦落ち着け、馬鹿な真似はやめろ!』
焦る魔龍を横目に破天丸は宝玉をゴクンと一気に飲み込んだ。




