Nice to See You Again !!!
月日が流れるのは意外と早いもので、俺がここに来てから洞窟の大きな岩に刻んだ正の字が今日、ちょうど73個目が刻み終わった。
もうあのゴブリンを斃したかって?
んなわけ無いだろ。俺はこの一年、ずっと楽しい楽しい修行に明け暮れているんだから。
おかげさまで、レベルもたった1だけど上がって、ステータスも大分成長したし、スキルもかなり増えた。あと変な称号も。
個体名:荒木 京也
種族:人族
年齢:18
Lv:2
HP:40000
MP:50000
スキル:
(剣術系統)剣術
(魔法系統)火魔法、水魔法、風魔法、土魔法、雷魔法、闇魔法、聖魔法
(その他)苦痛耐性、抗魔力、魔力転換
ユニークスキル:ナビゲート
加護:転生神の加護
称号:不運の象徴、異世界人、苦痛に耐えし者、ドM気質
最後のよくわからない称号はさておき、7種類の魔法が手に入ったのはかなり素晴らしい成果だ。
ナビさん曰く、この世界に存在する“属性”魔法はこれで全部らしい。
属性じゃない方の魔法もかなり気になるところだが、今はこの7つで手一杯だ。この7つの属性魔法を手に入れるだけでも死にそうになったしな。
だって火魔法を手に入れたときと同じような訓練を6つも追加でやったんだぞ??
やらなきゃ良かったじゃんかって?
ほら、壁に向かって魔力弾撃ってて、赤色じゃない魔結晶が偶然出てきたらさ、新しい魔法GETできるチャンスかも!?って試したくなっちゃうじゃん? あのクソゴブリン相手にも使えるかもだしさ。
でも7種類の属性魔法よりも俺が一番恩恵を受けているスキルがこの“魔力転換”だ。
このスキルは周囲から魔力を吸収して俺自身の魔力として使いこなせる、というものだ。
何が素晴らしいかって、貯蔵魔力が空っぽになる度に泉の水を飲む必要がないって点だ。
それは即ち、戦闘中に周囲に魔力がある環境であるならば、魔力切れを起こす心配がないということだ。
これは有利どころの話じゃない。上手くいけば俺自身が無限ガトリングにもなれる可能性を秘めている。
『ご主人様、順調に成長しましたね。このままいけば、あと数年であの憎きゴブリンを軽々吹っ飛ばせるようになりますよ!!』
「いや数年も掛かんのかよ」
『それはそうですよ、だってご主人様はモンスターとの戦闘は一切せずにずっとただひたすらに剣を振って魔法ぶっ放してただけじゃないですか。逆に言えば、それしかやってないのにこのステータスなのがビックリです!!』
「あと数年かぁ………その頃にはまたスキルとか増えてっかな?」
『剣術の悟り的なのが開けるかも知れませんねー』
「でもやっぱりモンスターとの戦闘は、普通の修行よりも経験値的に旨味があるんだろ?」
『それはそうですよ!! 安全な空間で一人修行をするより、危険な相手と命を削り合いながらの戦いをした方が身体もそれに合わせてぐーーんと成長しますからね』
「手頃なモンスターとかいねぇかなぁー、序盤にでてきそうな兎みたいなやつ」
すると突然、後方で茂みが揺れる音がした。
「おっ、噂をすれば兎か―――」
そこには見覚えのある大きくて凶暴な顔。
茂みから顔を覗かせている深緑色の巨躯。
奴の生臭い息が俺の顔に吹き掛かる。
「………手頃なモンスターとは言ったけれども、君はまだお呼びじゃないんだよなぁ!!」
『ご主人様!! 今すぐ退避を!!!』
「いいや、ナビさん。ここはアイツに一発でも入れてからじゃないと引き下がれないね!! なにせ1年ぶりの待ちに待った再開だからなァ!!!」
『無茶です!! 今のご主人様のステータスではほとんど勝ち目はありません!!!』
「ほとんど、だろ? ゼロじゃあない。それに、向こうも今度こそ俺を逃がす気はなさそうだぜ?」
鼻息を荒くした臨戦状態のゴブリンがのっしのっしとこちらに近づいてくる。
「さぁ覚悟を決めるぞナビさん!! あの日のお返しを存分にしてやろうじゃないか!!」
『わかりました……戦闘ナビゲーションはお任せ下さいっ!!』
「頼んだぜ!!」
『横払い、来ますっ!!』
ゴゥッと電車が通過したような音で振られた棍棒を、余裕を持ってバックステップで回避して近くの木の上に登る。
1年前の俺なら今の攻撃で消し飛んでたかもな? 今の俺はあの時みたいにみっともなくただ逃げるだけの虫けらじゃねぇってことを分からせてやるぜ!!
グガァァァァァアアアッ!!!
大きな雄叫びとともにゴブリンが俺の登っている木を棍棒で根本からなぎ倒す。
その拍子で空中に見を投げ出された俺は、少し驚きながらも落ち着いて魔法の展開をする。火の弾を一旦大型トラックくらいにまで巨大化させ、それを全体的に魔力で圧縮する。バスケットボールサイズくらいにまで圧縮すれば準備オーケーだ。
これが初めてのモンスター相手にぶつける魔法!! 存分に食らいやがれ!!
ゴブリンの眉間目掛けて射出されたバスケットボール大の火の弾は、それを弾き返すべく振るわれた棍棒より早く眉間に着弾する。
「最初の一発目だ!! 盛大に爆ぜろっ!!!」
膨大なエネルギーごと無理やり圧縮されていた火の弾が、その楔を取り払われたことで溜め込んでいた力を一気に発散し、空気が震えるような轟音を放ちながら爆発する。
爆発の影響で視界が不明瞭だが、まだ油断はできない。流石にあの爆発で無傷とはいかないだろうが、まだ生きていれば必ず攻撃が飛んでくるはずだ。
『物音も聞こえませんし、これはいけたんじゃないですか!?』
「ナビさん、そのセリフは俺みたいな存在に一番言っちゃいけないセリフだぞ………?」
ナビさんの一言のせいで余計に緊張感が増したじゃないか。
白煙の中、黒い影が動き出す。