勇者パーティーのお膳立てとは①
始まりのダンジョンを出た後、待ってくれていた、カールに挨拶をする。
アイツを迎えに行くと伝える。必ずもう一度、アイツと二人で会いに来くるので、「またな」とだけ言って、その場を後にする。
それからは、アーティファクトに残された次のダンジョン情報を元に、少し長い旅に出る。なにせ、王都を挟んで反対側にあるダンジョンを指し示しているようなので、王都に戻るのに三日、装備を整えるのに二日、また、行商の馬車を見つけて、乗り継ぎ三日の旅で、目的のダンジョンの近くの街まで到着する。
まずは、初めてのダンジョンだったので、街で情報を集める事にした。
冒険者ギルドにダンジョン情報の購入をしに行く。
事前に場所や費用なども調べてあったので、手続きもスムーズに進んだ。
「ダンジョンランクは“F”になります。ドロップされるアイテムも宝箱も特筆されるようなものはありません。……あとは…このダンジョンは昔、“薔薇の花束”と呼ばれていたました」
「なるほどな…」
このダンジョン、昔は冒険者のプロポーズによく使われるダンジョンだった。出現するモンスターはかなり初級で、スライムしか出ない。その割には魔法石が色とりどりの明かりを放ち、鮮やかな地層の壁を照らし出す。美しいとダンジョンといえば、ここだとも言われると聞いた事はあった。
「ただ、あのダンジョンは今、怪しい集団が占領していまして…」
「怪しい集団ですか? 誰がそんなことを?」メリットなど一つもないはずだ。
「ええ、誰が主導しているのかは知っていますが、幾分、面倒な人物でしてギルドとしても対応しかねておりまして」本当に困っているのだろう。歯切れが悪い。
「もしかして、社会的に有名な人か、権力者ですか」
魔族との戦いの中でも、隊の指揮官が歯切れの悪い反応をする事が多かった事柄では、上層部の無茶苦茶な判断で横槍を入れられていることが多かった。……姫さんが全部捻り潰したが。
「……」苦虫を噛み潰したような顔での沈黙は、肯定だろう。
「一応、聞かせて下さい。俺がダンジョンを攻略すると問題がありますか?」
「…いえ、恐らくは…」
「なら、具体的な問題は?」
「……独り言でよければですが。」と、ギルド職員は前置きをする。オフレコという事だろう。
「魔族領の貴族の放蕩息子が、魔王復活を謳い、人を集めています」
思わず声が出そうになった。だが、話してくれた職員に配慮して。拳を握り我慢する。
「魔王の復活などは、眉唾ものでしか無いというのが上層部の見解です。ですが、それを触れ回っているのが、魔族領で権力を持つ家系の者ですので、話がややこしく。長年燻っていた人族をよく思わない派閥が、賛同しているので人数も多いのです。」
「では、その者達と揉めるのは?」
「それは…、もし間違えて貴族を手に掛けることでもあれば、最悪、戦争の火種になる可能性はあります。」
「そうですか。わかりました。ありがとございました」
これ以上は聞いても、話せることも少ないだろう。無闇な疑いをかけられる前に、ダンジョンの下調べ程度の冒険者と思われている方がいい。
「どうしたもんかな…」
正直腹が立つが、魔族と揉めるのは得策ではない。
「とりあえず、偵察ぐらいは一人で何とかなるか…」
あまり、いい考えが浮かばないので直接見て何とかするしかないかとなった。
ただ、思っていたよりも、状況は最悪だった。
ダンジョンの入り口に魔族の見張りがいた時点で、ここまでするのか…、とかはなったのだが、出来る所まではなんとかしようと、隙きを見て忍び込んだ。
ダンジョンの最奥まで辿り着こうとする時、多数の魔族が大きなフロアにひしめき合っているのがわかった。
気配を消せるアーティファクトを発動してから、物陰から覗いていると、角が生えた魔族が、一団の中から仰々しく出てきた。
あの独特な角には見覚えがある。とういうかあの角に苦しめられたから忘れられない。
「あのバカ四天王の子孫か…。」
四天王で唯一生き残った奴だった。そいつの曾孫ぐらいだろうか?
「皆の者、よく集まってくれた。我らが本願はもう少しで達成されるだろう」
この馬鹿垂れが、魔族領貴族の放蕩息子に間違いないだろう。
「この世界には魔王が必要だ。この伝説の聖女を生贄に魔王復活の儀式を行い。魔族が最も栄えていた時代を取り戻す」
大声で演説している馬鹿垂れに賛同して、周りの魔族は囃子たてる。
色々と間違っているが、やろうとしていることはクソだ。
「うん? おい、待てよ。聖女だと?」
嫌な予感がする。このダンジョンでそのキーワードは、アイツの事だろう。
焦る気持ちを抑えつつ、目を凝らし確認する。