かつての旅の友
農夫と別れて、世界樹の近くまで着くと、ドラゴンの鳴き声が聞こえる。それも複数の個体がいるらしい。もし戦うとなると、厳しいかもなとは思うが歩みは止めない。
世界樹のすぐ下にあるダンジョンの入口に到着すると、頭上から大きな鳴き声が響いた。
一際大きなドラゴンが、世界樹の巨大な枝の上から、こちらを見ている。おそらくはここら辺の群れのボスだろう。体長は五メートルを超えるし、角も三本生えている、立派な髭を蓄えているのも見えた。
そいつは羽を羽ばたかせて、ふわりと浮くと俺の前にズシンと降り立った。
ただ、雰囲気なのか、直感なのかはわからないが、見た目が大きく変わっていてもわかった。
「お前カールか?」
鱗に勇者パーティーの紋章を刻んでいるのにも気付き、確信する。
昔、旅の途中で助けた小さな竜の子供が、こんなに大きくなったのか。いや、もう寿命を迎えつつあるようなので、老成していると言ったほうがいいのか。
カールはグルグルグルと喉を鳴らすように、啼きながら俺の前に頭を垂れた。
その、鼻筋に少しだけ手を置いてから話し掛ける。
「久しぶりだな…元気だったか?」
俺の感覚と、カールが生きた時間は乖離している。それでも俺を認め、愛情を表現してくれている。
「周りにいるのは、お前の家族か?」
カールはゆっくりと瞼を閉じる、肯定といった所か。
「随分と大所帯だな。驚いたが、こうして会えるのは嬉しいぞ」
カールは再度ゆっくりと瞼を閉じる。
「なぁ、ルカを覚えているか?」
カールの瞳が一際大きく見開かれて、垂れていた頭が少し浮いた。ルカに懐いていたから名前を出すと反応が違う。
「アイツのことが知りたい。どうなったのか知らないか?」
カールは、首を持ち上げると、ダンジョンの入り口の方を見据えた。
「ダンジョンの中に何かあるのか」
カールはゆっくりと瞼を閉じる
「そうか、アルジャーノン達に頼まれたんだな。……長く待たせてしまった。ありがとよ」
カールがここに巣を作ったのは偶然じゃないはずだ。多分、アルジャーノン達にダンジョンを守って欲しいと頼まれたんだろう。それを律儀に守り続けているんだ。
家族もいて、幸せそうではある。何よりここら辺でのドラゴン達の生態がやけに人に対して友好的なのは、ボスであるカールが人間に対して敵対していないのが影響しているはずだ。だから、カールがここを守る為に犠牲になったような見方はしない。
「ダンジョンへ行く。応援してくれるか?」
さっきまで静かに瞳を閉じて反応してくれていたカールが、大きく一つ咆哮を上げた。
「ありがとよ。必ず戻る」
そうして、俺はダンジョンの入り口を潜る。