託された物とは 2
本の内容はこうだった。
「マジか。アイツら…やったな」
本を読んでいる最中に、そんな言葉が漏れるぐらいには、ぶっ飛んだ歴史になっていた。
勇者達は魔王を倒した後、魔王が所有していた、とあるアイテムを手にしたらしい。
それは魔物を制御できるマジックアイテム、元々は代々の魔王に引き継がれる王冠だったらしいのだが、各魔王の魔力が知らず識らずの内に注がれることによりレジェンド級のマジックアイテムと化したとのことだ。
そこで、あることに気づいた。レジェンドアイテムは所有者を選ぶ。ただ例外は譲渡される時だ。代々の魔王が所有しているのであれば尚更だろう。
「ああ、そうか、あの時の手向けと思った言葉は届いていたのか?」
魔王も封印される時に想いを勇者達へ託したんだ。
いや、これは自惚れだ。俺なんかの言葉だけでそんな選択への判断はしない。
おそらくだが、戦う前から勇者達のことは調べていたはずだ。自分が負ける可能性には保険を掛けてはずだ。そこまで考えて、最後には理性を放棄してまで戦っていたのだろう。
そして、勇者達はその最終兵器を足がかりに王国と交渉したらしい。というよりは、王国を半分脅しながら魔王領への譲歩と恩情を引き出したとある。
こうした交渉事は聖女である姫さんの芸当だろうな。勇者であるアルジャーノンにその発想はない。
まぁ、聖女は国王の娘だから、下手打つと国ごとひっくり返されることもあるだろう。魔王の立場に勇者が再度収まるという展開すらありえる。
案の定、勇者アルジャーノンは聖女と結婚した後にこの国の王になったらしい。その後は、聖女様の尻に敷かれながらも、この国と魔王領を導いたとある。
この国の今を見ればわかる。勇者の真摯な愚直さと、国姫であった聖女様が巡らせた政策が人間と魔族が共存する理想を現実のものにしたんだ。
ガルマは、新たな宗派の教祖のような立ち位置に収まったらしい。
ガルマの性格上は考えられなかったが、戦後に苦しむ信仰心が強い信者達が多かったようで、そいつらへの救いの言葉を説いていると、そうなってしまったらいしい。実にガルマらしいと思った。
ただ、元の宗派への義理から聖職者の肩書は返上したとのことだった。それで「賢者」の肩書が通称になったと。これだけ聞くと本当に偉人に思えてくるのが本当に不思議だ。
そして、段々と祀り上げられる立場になっていったタイミングで、魔王討伐の報酬や新たな宗派への寄付金の全てを費やして、国家レベルの教育機関を立ち上げた。
王都の国立図書館も、その一環であるとのことだ。
「本当に格好いいな」
ここまでの事を成したと聞くと、その軌跡をリアルタイムで見ることができなかったのが悔やまれた。
因みに、生涯独身だったとのことだ。想像できたことなので何も言うまい。
それもあって、ガルマは死後散骨にしたらしい。だから墓がないらしい。
それからアイツは……
俺はもう一度アイツがどうなったのかを目で追った。
「…バカだろ」
思わず悪態をついてしまう。
アイツは歴史の表舞台から消えたと記載されている。魔王との戦いにおいて戦死した壁役の戦士の後を追ったとの記載のみがあった。
何度も読み直して、頭に情報を刷り込ませようとしたが、中々理解しようとはしない。
ああ、これは立ち直る自信がない。
ただ、その記載の後、ガルマの字で余白に、こう書き足されていた。
“もし、本当のブルーノがこの本を読んでいたらすまない。だが、私の立場上、この本以上の事は語ることはできない。ルカの事を知りたければ、始まりのダンジョンを訪ねてくれ ガルマ”
「なるほどな…」
ガルマの立場上、晩年は特に、安易な発言も許されなくなったのだろう。それに、元々ガルマの一人称は“僕”だったはずだ。年齢を重ねて“私”になっちまったんだな。
加えてガルマの遺品を狙う者は多いはずだ。だから、情報一つ残すのにも遠回りしたようだ。
「本当に…、本当にありがとよ」
かつての悪友に、感謝を告げて、次に向かう決意を固めた。