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魔王討伐の瞬間

 ああ、やっぱり好きだ。

 最後の最後に、そんな事しか考えられなかった。戦いを終えた安堵からくる本音が漏れたのだろうとは思うが、今更とも思う。

 まぁ、最後の魔王を討つのに、多少は貢献したのだから、韜晦(とうかい)ぐらいは許されてもいいだろう。



 俺たちは魔王討伐の最終決戦を迎えていた。

神託によって選ばれた勇者が、パーティーを募り、王都を出発し、魔王軍の四天王を倒した後、魔王城の王の間に辿り着き、今まさに魔王が最後の力を開放した所だ。

 まとめると簡単だが、何人もの犠牲と協力があって、勇者パーティーの五人だけがここに辿り着けた。ここまでの一つ一つの出来事を思い出す度に、(はらわた)が煮えくり返りそうになることもあれば、感謝しても仕切れない事も多い。

 ただ、決戦最中、そんな感傷に浸る余裕もなかった。

最終形態の魔王の攻撃は、既に魔王城を半壊させ、近隣の地形の一部を変化させるほどだった。

その攻撃からパーティーを守るのが、壁役タンクである俺の役目だ。片手剣と大盾を構えてスキルを発動するが、攻撃を反らすのが精一杯だった。

 このままではジリ貧なのは、みんな感じていた。だからこそ、切り札を切る必要があった。

 普通のスキルや魔法は知識や経験により獲得されることが多い。しかし、先天的に一人に一つだけ与えられる運命のギフトというものがある。

 それらは文字通り神々から与えられるものであり、このギフトを使う時は自分の人生の中で重大な局面に立たされる時に使われることが多い。だからこそ、運命のギフトと呼ばれているようだ。

 有名な昔話では、命を代償に子供を生き返らせた聖母の話や、寿命を代償に、瘴気(しょうき)に汚染された森を浄化したエルフの話などがある。どれも一定の犠牲が払われることにより奇跡のような事象を起こす事があると言われている。

 そして、俺のギフト”カースバインド”は魔法陣から鎖を召喚できるというものだった。それらが発動させた使用者と、対象者を同時に拘束し、流し込む魔力の量により、拘束力と与えられる苦痛を選択することができる。

 ある意味で究極のチキンレース。使用者の身体が壊れる限界で拘束しても、相手を留めておけないこともある。

 壁役なので一番前にはいるが、ギフトを発動させるには間合いが広すぎるので、限界まで近づく事にする。

「ギフトを発動する」パーティーへ一言だけ掛け声を掛けた。

 ただ返事は待たない。事前の打ち合わせなどはしていないので、これは独断だった。

 一瞬だけ相手の視界を強光で満たすマジックアイテムを発動させる。俺達に視認できない光が、魔王の視界を潰したのを確認する。

 身体強化で数歩、魔王の鼻先まで間合いを詰める。本来ならここまで近づくと一薙で塵にされるが、俺のギフトは先に発動された。



 発動したギフトは鎖を召喚し、魔王と俺の同時拘束には成功したが、力を開放した魔王相手には少しキツかったようだ。召喚した鎖に亀裂が入るのがわかった。激痛に耐えながらそれらを修復する魔力を流す余裕はない。

 不意に身体中が暖かさに包まれるのがわかった。少しだけ身体が楽になり、魔力の流れが通りやすくなったのがわかる。

 これは、アイツの支援魔法だな。目線を少し移動させて、詠唱しているだろうソイツに目をやる。

 ああ、コイツ……俺がやろうとしている事に感づいていたな。

 それを手助けさせた事に少し罪悪感を感じつつも、やっぱりこいつはいい女だなと思う。


 ただ、なんで…なんで、そんな顔をしているんだ。

 魔王軍と王国軍の大きな戦いの時、不意打ちの一線で腕をぶった斬られても、怯む顔すらせずに、動揺した一般兵を叱責した奴がよ……、治療されながら腕を再生させている最中に「守れなくて、すまん」と言った俺の脛に蹴り入れた奴がよ……、なんで泣いてるんだ。


「ありがとよ」

 最後に見る顔は、いつもの見慣れた顔を見たかったから、できるだけ笑いながら言おうとしたが。引きつっていただろうか。

 更に魔力量を増やし、もう一本の鎖を召喚、拘束を強化する。ここからは感覚でヤバいとわかっていたから、自分の中で禁忌としていた。

やはり魂レベルでの激痛が俺を襲うが、これで魔王の動きは完全に止めることができた。

「アルジャーノンとどめを」

 勇者に向かって叫ぶが、当然躊躇(ちゅうちょ)の声が帰ってくる。

「待て、その間合いで拘束したままだと、お前を巻き込んでしまう」

「いいからやれ」

 勇者は少しだけ苦悶の表情はしたが、今のままでは勝てないと判断したのだろう。代々の勇者に引き継がれる次元封印の奥義の詠唱に入る。

 それでいい。悩んでいる時間はない。ここまでの道のりを作るのに何人もの犠牲があった。流れなくていい血があった。それに報いるんだ。

 力を開放した魔王には、ほぼ理性はなく、話しかけても無駄だろうが手向けの言葉は必要だろう。

「お前の立場で、心配するなってのは無理だろう。だけど、アイツらになら後は任せられる」

 魔王領に足を踏み入れてから、魔王が人間領への侵攻を開始した理由を知ってしまった。約100年前の大きな対戦以降、勝者の人間領が敗者の魔王領に課してきた重責は長年に渡っていた。それが近年の飢饉の発生で、明日にも餓死しそうな子供らを見るに耐えた魔王は人間領への侵攻を決めたのだ。

 それを知ったとき、パーティーはどうするかを話あった。

 俺たちは魔王を邪悪の権化のようにしか、見ていなかったから。

 議論を重ねても、結論が出そうになかった時、アイツが放った言葉が結論になった。

「私は戦うわ、それでしか守れないもの。今の魔王軍は強い、何かを考えながら守るだけの戦いはできない。それなら勝つしかない。でも、勝ってからなら魔王領の問題を解決できる道は探せるはずよ」

 アイツはそう言ったのだ。アイツの出自を知っている奴らなら、魔王領を滅ぼしたいという主張をしても仕方ないと思っていたが、アイツは守る為にだけ戦い、魔王領も救いたいと言った。

「そうだな。俺たちなら魔王領も救えるはずだ」

 アルジャーノンがそう賛同したことで、俺たちのパーティーは戦うことを決めたのだ。

 だから、アイツらになら後は任せても大丈夫だ。


「こんな方法でしか決着をつけられなくて、すまない。もう、お前の意識が戻るかはわからない。それでも詫びと言ってはなんだが、一緒に地獄へ落ちてやる」

 だから何かが大きく変わるということはない。人間の傲慢のようなものでもある。だが、せめて思いぐらいは伝わってほしいとは願ってしまう。

 勇者の詠唱が終わり、一際大きな光に包まれた剣が振るわれる。 

 最後に目に焼き付けるのはアイツの姿がいいと、無意識に目を向ける。

 最後に見たアイツは、膝から崩れ落ちるように、その場にへたり込むと大粒の涙を流していた。

「すまない。」伝えたい想いはそれではなかったが、それしか呟けなかった。

 平和になった世界で、幸せになって欲しい。だから何も言えなかった。

 次元の狭間に封印され、空間に押しつぶされながら、意識は遠のく。


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