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第8話 頼りになる母の存在

「良い所に来たわね誠!なんだか時間が迫ってるみたいなのよ!とりあえず鎧を片付けて頂戴。急いで!」 


 そう言ったのは手伝いに来ていた誠の母、神前(しんぜん)(かおる)だった。剣道場の女当主でもある彼女は鎧兜の事にも通じていて、見慣れた紺色の稽古着姿で手際よく鎧の紐を解いていった。


「僕、まだこの格好なんだけど……僕が着替えるのは後回し?」 


 誠はまだ自分自身が着替えを済ませていないことを薫に伝えようとした。


「誠、あなたも道場の息子でしょ?胴丸なら自分で脱げるでしょ?そんなことは後にして!文句は言わないで手を動かして!」 


 そう言って薫はかなめの小手を器用に外していた。


「いつもお母様にはお世話になってばかりで。本当に私としても恥ずかしいばかりですわ。それにしても神前曹長には今回もお世話になって……ご立派なご子息をお持ちでさぞご自慢でしょう」 


 殿上貴族の身分にふさわしい口調に切り替わったかなめに、着替えを待っているカウラ達は白い目を向けた。いつものじゃじゃ馬姫の日常などをすっかり隠し通そうと言うつもりでかなめは同盟加盟の大国甲武国宰相の娘、四大公家の姫君を演じていた。隊で一番ガサツ、隊で一番暴力的、隊で一番品が悪い。そう言われているかなめだが、薫の前ではたおやかな声で良家の子女になりきっていた。


 誠からの話でかなめの正体を知っているはずの彼女は笑顔で見上げながら手を動かした。そんな母が何を考えているのか誠には読めなかった。


「誠ちゃんも大変ねえ、自分の着替えは後回しで上官の着替えを手伝うなんて……なにか手伝えることは無い?」 


 呆然と上品なお姫様を演じているかなめを見つめていた誠にそう言ってきたのは小手を外してくれる順番待ちをしていたアメリアだった。


「ああ、お願いします。そこの(うつぼ)を奥の箱に入れてください!その奥の黒い漆塗りの箱です!」 


 他の隊員は別として道場の息子としてこう言う物には見慣れている誠はアメリアにそう指示を出した。


「いいわよ。そんなのお安い御用よ。それにしても誠ちゃんは整理整頓が得意よね。隊長とかどこかのガサツなサイボーグとは大違い」 


 そう言って矢を抜き終わった靭を取り上げたアメリアだが、まじまじとそれを覗き込んでいた。


「私はあまり詳しいこと知らないんだけど、高いんでしょ?これ……甲武の伝統職人とかが作るんでしょうから……表面も見た感じ天然漆を磨き上げた仕上げだし……実際どれくらいするの?知ってる?誠ちゃん」 


 そう言いながらアメリアは手にした靭を箱の中の油紙に包んだ。


「まあな。それ一つでテメエの10年分の給料くらいするんじゃないか?今じゃ地球の日本はアメリカさんの植民地で伝統工芸なんてやってねえし、伝統工芸の残っている甲武じゃ漆は採れねえからな。わざわざ地球から取り寄せるんだ。その手間を考えてみろ。当然値段が上がって当たり前だ」 


 脛当てを外してもらいながらかなめがそう言ってにやにやと笑った。地が出てはっとするかなめだが、まるでそれがわかっていたように薫は笑顔を浮かべていた。


「そんなにしないわよ。それにそれはたぶん実用を考えて人工漆を使った模造品だから。まあ確かにかなり本格的な複製だけど値段は誠の月給分くらいよ。じゃあここから先はご自分でね」 


 そう言って薫は主な結び目を解いたかなめを送り出した。すぐさまアメリアが立ち上がって薫に小手を外してもらった。


「実際に流鏑馬に使う模造品だって結構高けえんだぜ。さすがは嵯峨家。甲武一の税収を誇る荘園領主というところか?」 


 かなめはそう言うと誠の隣で兜の鍬形を外していた。


「西園寺さん!そんなに乱暴にしたら折れちゃいますよ!」


 誠は不器用に鍬形を兜から外そうとするかなめに向って歩み寄ると器用にそれを外して決められた箱に収めた。



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